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リアクション
星空とドレスと
舞衣奈・アリステル(まいな・ありすてる)と夏目漱石著 夢十夜(なつめそうせきちょ・ゆめとおや)を連れて、ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)は夏の時よりも大所帯で地球の実家に帰省した。
海京ルートで横浜の高級住宅地の一角にある、実家の屋敷へと。
「お帰りなさいですの」
迎えてくれたのは、夏と同じくメイドのフラン・プリムローゼだった。
「お父上は今回も間に合わないとのことですの」
代わりに、ネージュ宛てに父からお小遣いを預かっているとフランは告げた。
「相変わらず忙しいんだね。母様は?」
「お屋敷の執務室で仕事中ですの。きりがつくまでは、どなたともお会いにならないそうですの」
だから今は邪魔をしないであげて欲しい、とフランに言われてしまっては無理は言えない。仕事が一段落するまで母への挨拶はお預けだ。
だからネージュはまずはフランにパートナーを紹介した。
「前に連れてきたのえるは瑠璃羽さんの実家に行ったから、今回はマイナととーやを連れて帰ってきたんだよっ。こっちにいる間はフランにお世話になると思うから、よろしくね」
「こちらこそよろしくお願いしますの。誰を連れてくるのかとても楽しみにしていましたの。お部屋は用意してありますので、どうかくつろいで欲しいですの」
フランはにこにこと挨拶すると、どうぞと皆を部屋に案内して行った。
その日は夕食後に母に挨拶した後、ネージュたちはゆっくりと家で過ごした。
翌日になると早速、外に出かける。
「今日はどちらに行きますの?」
フランに聞かれ、ネージュは大好きな場所を答えた。
「宇宙科学館のプラネタリウム『エムステラ2・スピカ』の投影をマイナたちに見せてあげようかなって思ってるんだよ」
地球にいる頃はネージュがよく行った場所だ。
「大きなドーム……ここに入るのですか?」
プラネタリウムが初めての舞衣奈は頭上を覆うドーム型の天井を興味津々で見上げた。
皆で並んで席について待つうちに、ドームが暗くなり……そして。
「わぁ……!」
「マイナちゃん、ここでは静かにね」
思わず声を上げてしまい、ネージュに小声で注意されてしまったけれど、その注意も耳に入らないくらい舞衣奈は頭上に広がる星空に見とれた。
周りは星の洪水に溢れている。無数の星々が描き出す星空という絵画の大作。
何にも妨げられることのないこんなにも凄い星空はパラミタでも見られない、と感動している舞衣奈にネージュがこれを見てと双眼鏡を貸してくれた。あててみれば、光の流れのように見える天の川のひとつひとつが星なのが分かって、舞衣奈は更にびっくりする。
上映が終わってからも、舞衣奈は星空に酔ったようにしばらくぽわっとしていた。
「気に入ってくれたなら嬉しいなっ。あたしはここで見られる星空は世界最高峰だと思ってるんだよ」
そんな舞衣奈の様子に、ネージュは一層にこにこと笑顔になるのだった。
プラネタリウムを出ると、今度はネージュのお気に入りのブランドショップ『ロイヤル・スピラーレ』に向かった。
可愛い服がいっぱいのロイヤル・スピラーレは、和装ドレスの品揃えの多さが特徴の店だ。
「マイナちゃん、ちょっとこれ着てみて」
店に入ってすぐ、ネージュは舞衣奈を試着室に呼んだ。
「主さま、もう選んだのですか?」
まだ店に入ったばかりなのに、と不思議がる夢十夜にネージュは笑って、別のドレスを差し出した。
「まさか、そんなに早くは選べないよ。これは帰省前に注文を入れてあったの。こっちはとーやの分ね。似合うかどうか試着してみてねっ」
ネージュが舞衣奈と夢十夜に見立てたのは、お揃いのデザイン、色柄違いの振り袖ツーピースドレスだった。
舞衣奈のは、黄色と黒と白、そしてヒマワリの花をあしらった柄のドレスに、ふんわり可愛いオレンジ色と白のオーガンジーと、レース地の二重の兵児帯を結ぶ。
夢十夜のは、白と紺のグラデーションに満天の星空をあしらった柄のドレスだった。スカートの丈は舞衣奈よりも少し長めで、黄色と白の帯をふんわりと可愛く結ぶ。
「思った通り、2人とも良く似合ってるよ」
着替えて出てきた舞衣奈と夢十夜の周りをぐるっと回って、ネージュは満足そうに言った。
舞衣奈は嬉しくてたまらないように、自分の姿を鏡に映している。
「とっても可愛いのですよ」
「主さまの見立ては確かですね」
夢十夜はそっとドレスに触れると、最高の宝物が出来ました、と感嘆の息をついた。
このドレスを着るたび、地球に来たこの日のことを思い出すだろう。あの満天の星空の思い出と共に――。