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マレーナさんと僕(1回目/全3回)

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マレーナさんと僕(1回目/全3回)

リアクション

 
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 そして、問題の入浴タイムとなる。
 
 ■
 
 まずは、廊下。
 
「沙幸さん、何をしていらっしゃるんで?」
 見回り役の邦彦と正悟が天井を見上げる。
「うぅ〜ん、明るい方がいいでしょ? と思って……」
 久世 沙幸(くぜ・さゆき)が脚立に乗り、電球を変えていた。
(うわっ! マイクロミニスカートだよ!
 すげぇっ!)
 2人は沙幸の下半身にくぎ付けになる。
 すらりと伸びた二本の脚が扇情的だ。
「いつ何時、カツアゲ隊が来るとも限らないよね?
 変な人来ても、明るければ何とかなるかも? って」
「管理人さんに言われたの?」
「うん!」
 ハッと振り向くと、しゃがみ込んで、仲良くニヤけている男衆がいる。
「もう! 何してんのっ!」
 脚立を振り回すと、沙幸はプンスカ怒って先の廊下に行ってしまった。
「クソッ!」
「あと一歩だったな……」
 正悟と邦彦はジンジンする頬を押さえて、一先ず管理人室へと引き上げていくのであった。
 
 その脇を、マレーナに誘われたお手伝いの女衆が、足取りも軽やかに女子更衣室へと向かう。
 マレーナに誘われた面々は以下の者たちであった。
 
 青島 兎。
 レティシア・トワイニング。
 久世 沙幸。
 ミネッティ・パーウェイス
 レティシア・ブルーウォーター。
 ミスティ・シューティス。
 小鳥遊 美羽。
 オルフェリア・クインレイナー(おるふぇりあ・くいんれいなー)
 神楽月 九十九(かぐらづき・つくも)
 真白 雪白(ましろ・ゆきしろ)
 姫宮 和希(ひめみや・かずき)
 霧雨 透乃(きりさめ・とうの)
 そして、手伝い組の真白 雪白(ましろ・ゆきしろ)
 
 雪白はなぜか手に調理用ミキサーを持っている。
「マレーナさんに料理教わるんだもん!
 で、お手伝いしてたら、何となく持ってきちゃったんだよね……」
 シュンとなる。
 その姿も奇抜なもので。
 髪は、ごはんつぶで固めたリーゼント。
 眉には、おかず海苔を貼っている。
 だがマレーナはさして気にした様子も無く、どこか予言めいた台詞を言うのであった。
「気にすることはありませんわ。
 ミキサーの役割が、『食材を混ぜるだけ』で無くてもよいのですわ。
 そうは思いませんこと?」
 
 そして着替えを済ませた一行は、更衣室に到着する。
 
 ■
 
 彼女達が着替えを行っている頃。
 カツアゲ隊の「襲撃」実行班の先鋒と、「のぞき」実行班の面々は、行動を開始した。

「良いですか? あれこそ! 人類の有るべき姿!
 さぁ、キヨシさん! 『のぞき』実行班に加わるのです!」
「はい! エッツェル先生っ!」
 すっかり「愛の伝道師」に洗脳されてしまったキヨシは、ふらふらと皐月の班に加わる。
「よし!
 お前らの、そののぞきにかける根性、気に入ったっ!」
 それは腐りきった「欲望」と言う名の「根性」ではあったが。
 ともかく、皐月に気に入られたキヨシ達は「のぞき」実行班の班員として行動を共にすることとなった。
「オレ達は『のぞき』という、人類史上最大の茨の道を乗り越えて見せるのさ!
 その時、『少年は何かを乗り越えて、大人になって行く』んだよ!!」
 
 だが、「試練」はすぐにやってくる。
 
「ぬおっ!」
 キヨシの間抜けな声が。
「どうした? キヨシ!!」
 皐月が振り返ると、キヨシの姿は無い。
 視線を落とす。
 司の「大穴」トラップの底にあって、キヨシはもがいていた。
 その穴はとてつもなく深く、すでにキヨシの叫びは、囁きにしか聞こえない。
「キヨシさんは、特技もスキルも大したものが無いようでしたからね……」
 安らかに成仏して下さいね♪ 
 穴に向かって、エッツェルは合掌する。
「何言ってんだ! エッツェル!!
 オレは仲間を見捨てたりはしねえっ!!
 エッツェル、ひとまず後の事は頼む!
 お前ら! 何かあろうとも、『のぞき』だけは実行しろよ!」
 キヨシぃ! 今行くぞおおおおおおおおおおおっ!
 ……と言う訳で、皐月は救出に向かい、穴の底に落ちた。
 皐月撃沈。
 エッツェルが隊のリーダー代行を引き受けることとなった。
「E級四天王」の命令だからな……という訳で、エッツェル本人について行く訳ではない。
 そんなわけで、多少減ったものの、ごく少数の隊員達を率いて、エッツェルは作戦を遂行することとなった。
「さぁ、皆さん!
 これから、桃色の『酒池肉林』の天国を垣間見るのです!!」
 けど、からかう青年達がいないのは、つまらないものですね。
 溜め息をはくエッツェルなのであった。
 
 だがこの時、彼等はまだ皐月達に奇跡が起こることを知らない……。

 ■

 その頃。
 女風呂では、華やかな談笑の中、女達の入浴が始まっていた。
 
 マレーナの近くに入っていたのは、オルフェリア、ミネッティ、九十九、美羽の4名。
「わぁ、マレーナさん、羨ましーっ!」
 ドラム缶風呂につかりつつ、マレーナの豊満な胸をじいっと見つめているのは、オルフェ。
「おっきー!」
 湯を汲んで背中を流した沙幸は、同じ手でマレーナの胸を洗う。
「うーん、私負けちゃうかも??」
「そうですか? 沙幸さんもたいしたものですわ」
 マレーナはふふっと笑って、ドラム缶に入った。
 ミネッティと九十九は、それぞれ初めての「ドラム缶風呂」にワクワクしている様子だ。
「ドラム缶風呂とは、そのように珍しいものでしょうか?」
 肩口に湯をかけつつマレーナが問うと、オルフェリアが説明した。
「ミネッティも九十九もお嬢様ですからね!」
 特に本当は百合園女学院なミネッティは、ヴァイシャリーの土地柄、ワイルドな体験のようだ。
 落ち着きなく、底の厚さや、火の焚き具合を眺めている。
「面白いもんだね! こういうのも」
「ですわねー♪」
 九十九が賛同する。
 その胸が、自分より大きな気がして、オルフェリアはタオルでそっと胸元を隠した。
(はぁ、何とか育たないですかね? ちっぱい……)
「コツとかあるんですか? 育てるのに?」
「は?」
 涙目で訴えるオルフェリアの問いに、首を傾げるマレーナなのであった。 2人の間に割って入り。
「わぁ〜い!」
 ジャブンッ!
 兎がマレーナのドラム缶に飛び込んでくる……。
 
「……ところで、マレーナさん?」
 ミネッティは空気を読みつつ、マレーナを顧みた。
「マレーナさんは、どうして管理人さんを?」
「夜露死苦荘は、シャンバラの荒野にありますのよ?」
 兎がおぼれないよう抱えつつ、マレーナは優雅に答える。
「ここにいれば、いつまでもあの方が……私の傍におりますわ……」
「だから引き受けたんだ?」
 でもそれはとても寂しいことなんじゃないのかな?
(こんなに可愛くて、綺麗な人なのに……)
 一番美しい盛りに、花を散らせてしまっていいのかな?
 ミネッティはうんと頷く。
「あのね? マレーナさん」
 強い決意を持って、マレーナに告げた。
「あたしに出来る事があったら言ってよ!
 掃除とか、ご飯作るの手伝ったりとか……。
 その、あたし! マレーナさんの力になりたい!!」
「まぁ、ミネッティさん……」
 マレーナは柔らかく微笑して首を振った。
「お気遣い痛み入りますわ。
 ですが、私の望みは唯一つ。
 ここの方が全員空大に合格して、笑顔で旅立たれることにありますのよ。
 もちろん、ミネッティさんも」
「ま、マレーナさん……」
 ミネッティは感極まって、胸を押さえるのだった。
(よおーし!
 こうなったら、絶対に空大に合格するんだからね!)
 ヴァイシャリーのパートナーの事が脳裏をかすめる。
 心配そうな、寂しげな顔――。
 だが彼女は頭を振るのだった。
(マレーナさんのためだもんっ!
 それに置き手紙もしてきたから……きっと大丈夫)

「あの、マレーナさん! 私もお願いがあるのですが……」
 言いにくそうに切り出したのは、九十九。
 脳裏にあるのは、更地に野ざらしにした離偉漸屠の事だ。
「そう、あのイコンは九十九さんのでしたの……」
「イコンは一人一台持ってる時代ですし、駐車場が無いのでしたら作れば? と思って。駄目ですか?」
 悪戯っぽく上目遣いで見る。
 マレーナはそうですわね、と苦笑して。
「では、私の方から、オーナー様に頼んでみることにしましょう。
 皆様、これからの時代は何かと必要になることでしょうし」
「やった!」
 九十九は喜びのあまり手を打った。
 それとマレーナさん、と今度は真剣な表情で。
「さっきの話ですが。
 本当にドージェさんは亡くなっていると。
 そうお思いでしょうか?」
 九十九の頭にあるのは、環菜のこと。
「ナラカに行っても、環菜さんは戻ってきましたよ?
 だったら、ドージェさんだって……」
「あの方が死ぬことはないでしょう」
 九十九の話を遮って、マレーナは静かに言葉を紡いだ。
 ですが、と大きく息を吐いて。
「再び共に旅をする事はないと思いますわ……」
「マレーナさん……」
 マレーナの視線は不安定に揺れ動いている。
(マレーナさんは、戸惑っているのですね? きっと)
 それは、女の勘。
 だが、正しいだろうと、九十九は思った。
 いなくなって、はじめて分かること。
 ドージェの存在が、自分の想像以上に大きなものだったということ――。
「大丈夫ですって! 戻ってきますって!
 だから、それまで……強く生き続けましょうよ?」
「? ありがとうございます、九十九さん」
 マレーナは深々と首を垂れた。
 対照的に、ざばっ! とたちあがって、九十九はマレーナに握手を求めてくる……。
 
 ……で、男風呂。
「な、なななななな!
 お、女の裸が見えるぞおおおおおおおおおおっ!」
 誰かの叫びで、装着型機晶姫 キングドリル(そうちゃくがたきしょうき・きんぐどりる)は洗い場から女風呂の方に目を向ける。
 実は女風呂と男風呂を仕切る衝立は異様に低く、ドラム缶から立っただけで、女性の上半身くらいは簡単に見えてしまうのだ。
 最も夥しい湯煙りのため、詳細は定かではなく。
 そんなわけで、またか……とキングドリルは思ったのだが。
「九十九じゃねぇのか?」
 噂に、キングドリルはぎょっとした。
 そろそろと振り返って、目を剥く。
 なんと!
 そこには胸元をタオルで隠しもせずに、ドラム缶風呂から上半身をのぞかせた九十九らしき影が見えるではないか!!
 しかもそれに気づいた九十九は、そこは所詮お嬢様。
 一緒に入りませんか? と手招きする。
(ま、マズイッ!)
 この場にいるのは、色々と日頃我慢をしている「受験生」や「浪人生」ばかりなのだ。
 彼女の行為は火に油を注ぐようなもので、案の定。
 
 女だ、女だ、女じゃあああああああああっ!!!
 
 あっという間に、闇雲に野郎共が衝立めがけて殺到した。
 九十九はきょとんとしている。このままでは狼共に食われてしまうっ!
「わあああああっ、南無三、すまんっ!」
 キングドリルは片手で合掌すると、「六連ミサイルポット」を乱射し始める。
 
 ちゅっどおおおおおおおお――ん……っ。
 
 群がった男どもは総て星になってしまった。
 ついでに「衝立」も。
 
 直後に、これまた羞恥心の無いレイナ・ライトフィードと神曲プルガトーリオが、女風呂に入ってくる。
 温泉調査のためドロドロな彼女達であったが。
「まぁ、これは大変ですね!」
 優等生のレイナはキングドリルの視線も構わず……というか気づかず、全裸のまま、静麻に連絡を入れるために部屋へ戻るのであった。
「風呂場が崩壊して、男風呂と女風呂がつながってしまいました。
 オーナーとお相談して、計画を早期に移した方が良いかと……」
 
 その時、闇の向こうからやけに騒々しい「ヒャッハァー!」が轟いた。 
 カツアゲ隊東シャンバラ支部の総勢百数十名からなる襲撃犯共。
「男風呂崩壊の音」を襲撃の合図(爆発音)と勘違いして乗り込んできたのだ。