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第一章  対イルミン戦線



《VS 学徒》

 迫り来る、イルミン学徒兵。その大軍を前に、五月葉 終夏(さつきば・おりが)日下部 社(くさかべ・やしろ)は、同時にキャラクターキーを取り出した。

「オリバー、マスター、カッコいいトコ、見せてよね!」

 声援を送る響 未来(ひびき・みらい)
 変身しようとする2人の脳裏に、キーの開発者である山平の言葉が浮かぶ。

「いいですか皆さん。キーはただ身体に挿し込むだけでは作動しません。変身するためには、必ずキーワードを叫ぶ必要があります。キーワードは、一定以上の声量が無いと認識されませんから、必ず大声で発声して下さい。もしお好みのキーワードがある方は、それを登録する事が出来ます。特にこだわりのない方は、デフォルトのキーワードを叫んで下さい。そのキーワードはこうです――」

「いくよっ、やっしー!」
「オゥ!目にモン見せたるわ!」

「「キャラクターチェンジ!」」

 掛け声と共に、勢い良くキーを身体に挿す2人。
 ちょっと痛いが、そこはガマン。

「モーーップス!」
「ヨーーシトォ!」

 独特の抑揚のある声が辺りに響き、2人の身体が光に包まれる。
 その光が収まると――。

 そこには、モップス・ベアー(もっぷす・べあー)に変身した終夏と、御人 良雄(おひと・よしお)に変身した社が立っていた。

「うわ〜。それ、昔の良雄君だね!」
「カッコよくない……」

 未来はあからさまに不満そうだ。

「ま、どのキー使っても効果は大差ないし。そんなら、『新たな良雄伝説を作ったろ!』とか思ってな」

 【引きのばすもの『麺棒』】をビッ!と構える社。

「それよりオリバーはモップスかいな。またそんなネタキャラを……」
「えぇっ!ダメ!?」
「い、いや、ダメやないけど――」

「キャラクターチェンジ!」「アーーーイリス!」

 スタイル抜群のアイリスに変身した仲間が、2人の目の前を駆け抜けていく。
 その颯爽とした姿に、思わず言葉を失う。

「そ、そうだよね……。やっぱり、やっしーもああいうのがいいよね……」
「い、いや。俺は別に――」
「私もね、キーを借りた後で気付いたの。『アイリスさんとか、スタイルが良い人のキーにしとけば、一刻でも夢が見れたんじゃないか』って。でもまぁ借りちゃったし、今から返したりしたらモップスに失礼だし。『それにスタイルがいい』って理由だけでキー取り替えるのもなんか腹立つじゃない?別に、悔しくなんてないのよ。どうせ変身してるのは3分間だけだし。ええ、えぇ。別に悔しくなんて無いですとも、ハッハッハ!」
「お、オリバー!しっかりせい、オリバー!」
「終夏ちゃんが、壊れた……」

 でっぷりと太った熊が、あらぬ方向を仰ぎ見ながら乾いた声で笑い続けるシュールな光景に、目前まで迫っていた学徒兵も、思わず二の足を踏んでいる。

「そんなスタイルなんか気にしたらアカン!オリバーはオリバーやないか!見た目なんか関係ないで!モップスになろうが、アイリスになろうが、オリバーはオリバーや!『アイリスを取らずに敢えてモップスを取る』それがオリバーらしさちゅうモンやないか!」
「そ、そう……?」
「そうや!」

 熱弁を振るう社の顔を、じっと見つめる終夏。
 やがて、何か吹っ切れたように、フッと笑う。

「わかったよ、やっしー!こうなったら私、せめて今だけはモップスに成り切る!」
「おしっ、その意気や!なら俺は、良雄に成り切ったるわい!」

「2人とも、もうあと1分しかないよ!」

 未来が叫ぶ。
 終夏が立ち直ったのを見て、学徒兵が、一気に突撃してきた。

「良雄、未来。一緒に頑張るんだな」
「さぁ!お前らの相手は『星帝』とも呼ばれたこの良雄様がしてやるッス!」
「2人とも、サポートは任せて!」

 終夏の《崩落する空》によって、空から光り輝くテディベアが降り注ぎ、学徒兵を打つ。
 怯んだ学徒兵に、未来の《怒りの歌》でパワーアップした社が襲いかかり、麺棒で粉砕していく。
 たちまち、敵軍の一角が崩れた。



 社たちのすぐ隣では、水橋 エリス(みずばし・えりす)たちが学徒兵に取り囲まれていた。
 ニーナ・フェアリーテイルズ(にーな・ふぇありーているず)が、仲間たちをかばうように一歩前に出る。

 ズイっと前に出る学徒兵。
 だがニーナがキーを取り出すと、途端に学徒たちに動揺が走った。
 
「誰かの涙なんて見たくないから!!だから、見ててください!私の……変身!!」

 眩い光と共に、リンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)に変身するニーナ。
 学徒兵たちに向かって半身に構え、右手で相手を指差すと、

「さあ、アンタの罪を数えろ!!」

 と言い放つ。
 その場が、水を打ったかのように静まり返った。

(き、決まった……!)

 時が止まったような静寂の中、一人ニーナのみは、感動に打ち震えている。
 
「エリス、あれは一体何をしているのですか?」

 訳がわからない、という顔のアーシュラ・サヴェジ(あーしゅら・さう゛ぇじ)
 
「ニーナ!いい加減ライダーネタから離れなさい!!」

 しかし、そんなエリスの言葉などどこ吹く風。

「リンネ・アシュリング、タイマン張らせてもらうぜぇ!!」

 と言い捨てて、ニーナは学徒兵の群れに突っ込んで行く。 

「コラッ!一人で特攻するな〜!3分経ったら、効果切れちゃうんだから!」
「あの〜、私も変身する時には、同じようにしないといけないのでしょうか?」
「いいわよ、そんなモノやらなくて!」
 
「アタシは、最初っからクライマックスよ!」

 キャラクターキーの力の前に、バッタバッタとなぎ倒されていく学徒兵。

(確かに、スゴイ効果だけど。ニーナが悪ノリするのがね……。全くなんてモノを作ったの、あの山平って人……)

 キーの威力に感心しつつも、素直に喜べないエリスだった。