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リアクション
■ 家族揃って記念写真 ■
一番近くの駅まで徒歩で1時間ぐらい。
そんな長野県ののんびりした田舎に五月葉 終夏(さつきば・おりが)の実家はある。
「なんか久しぶりに家に帰るから、ちょっと緊張してきちゃったなぁ」
実家に入る前に、終夏は手荷物を確認してみた。
上野行きの新幹線に乗る前に空京で買ったお土産……うん、持ってる。
パラミタでパートナー達とカメラで撮った写真……うん、ちゃんとある。
「こんな位で大丈夫だよね?」
一緒に里帰りすることにしたニコラ・フラメル(にこら・ふらめる)に聞いてみると、ニコラは心ここにあらずといった様子で実家を眺めていた。
実家の家は、内部は一部改装されピアノ等を置いた洋風な間もあるけれど、外から見る限りではまさしく日本家屋といったところだ。
「ここが私の家……か。……どこか懐かしい気もするが、ふむ……何というか……」
「フラメル?」
考え込んでしまったニコラに、終夏が呼びかける。と、ニコラは不安な顔を終夏に向けて尋ねた。
「やはり土産をご近所分持ってきた方が良かったか、終夏」
「……って……」
あははは、と終夏は思わず笑ってしまった。さっきから何を思案しているのかと思いきや、そんなことを考えていたとは。
「フラメルが心配していたのはそこか〜。うん、大丈夫大丈夫。お土産たくさん持ってきたから、近所に配っても足りるよフラメル」
「む、そうか、足りるか」
ニコラは安心した顔になったが、すぐにまたううむと唸る。
「何というか、落ち着かんな、はっはっは!」
「フラメル連れて帰ったら、きっと2人共驚くだろうしね〜」
母は案外あっさり受け入れるかも知れないが、父は凄く驚きそうな気がする。
2人の反応を想像すると何だか楽しくなって、終夏はふっふと笑いながら元気良く玄関の戸を開けた。
「ただいま!」
「終夏が帰ってきた!」
その声を聞き、五月葉 グランツは廊下を全力疾走した。後ろでまとめた薄茶色の髪が、その動きにあわせて飛び跳ねる。
「グランツ、そんなに急がなくても終夏は逃げないわよ」
あまりのグランツの慌てぶりに、五月葉 ハルがくすくすと笑う。お琴の先生であるハルは、今日もいつもと同じ着物姿だ。
「終夏は男を連れて帰ってくるそうじゃないか。どんな奴なのか私がしっかりと見定めてやらねばならんだろう」
グランツは玄関の直前までくると、深呼吸して息を整えた。
なんと言っても最初が肝心。なめられないように、しっかりと威圧感と威厳をもって接するべきだろう。
「お帰り、終夏」
「ただいま」
グランツに答えたのは、終夏ではなくニコラだった。
これが終夏の連れてきた男かとグランツはしっかとニコラを見定め……、
「な!? お義父さん……?」
驚きのあまり裏返った声をあげた。
「いや、実は記憶がなくてな。覚えていなくてすまん」
ニコラは申し訳なさそうに謝った。
「お義父さん、な、何故こちらに?」
動転しているグランツとは違い、ハルはおっとりと微笑む。
「あらあらグランツったら、それほど驚くことでもないでしょうに、うふふ」
「いや、しかし……」
「不思議ではないわ。だって私の母もパラミタへ行ったでしょう?」
それに、とハルはグランツからニコラへと視線を移す。
「私は実の娘ですもの。写真でも見たけれど若い頃のお父さんそのままだわ。記憶があっても、なくても」
「ハル……そしてグランツか……記憶は無くなっているが、どこかで覚えているような気がするよ」
緊張していたニコラも、ハルの言葉を聞いてやや表情を緩めた。
「お帰りなさい、終夏、お父さん。まずはお茶にしましょうか」
玄関先で立ち話もなんだから、とハルは2人を招き入れた。
持ってきたパートナーたちの写真のことや、パラミタでの出来事。そして一番はやっぱりニコラのことを終夏は父母に報告した。
父母は楽しげに写真を眺め、終夏とニコラの話に耳を傾ける。
「あ、そうだ。パラミタに残してきたパートナーたちに両親の写真を頼まれたんだった。せっかくだから4人揃って『カメラ』で家族写真、撮ろうよ」
父と母と終夏とニコラと。
どこか面差しの似通った4人は並んで写真に収まった。
パラミタの写真は地球へ。
地球の写真はパラミタへ。
その場所場所の思い出を乗せて運ばれて、笑顔のもととなる――。
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