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地球に帰らせていただきますっ! ~4~

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地球に帰らせていただきますっ! ~4~

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 ■ 白麻家へ ■
 
 
 
 養父の墓参りの為、四谷 大助(しや・だいすけ)は2年ぶりに故郷代わりの白麻家を訪ねることにした。
 白麻 砂霧は9年前、養父と死別した大助を引き取ってくれた人だ。
「あんなヒキコモリンでも顔見せくらいしなくてはねー」
 白麻 戌子(しろま・いぬこ)は砂霧への土産にと、メイドロボをカプセルに入れた。
 戌子は幼少の頃砂霧に発掘され、研究目的で引き取られた。その後、国に属さず平和維持を目的とする傭兵組織、通称『軍』に入った。ほとんど『軍』で活動していた為に、家に帰ってくるのはごくたまの休暇の際だけだったが、そのときに大助に会ったのだ。
 その頃の大助は、全てを失い、砂霧も手がつけられないほどに荒れていた。
 それを戌子が肉体言語で立ち直らせた……と言ってはいるが、実際はどうやら大助の態度にむかついてボコっただけ、というのが真相のようだ。
 スレていた大助は戌子にぼこぼこにされた挙げ句、『全て失ったのはキミが弱いからだ。居場所が欲しいなら戦って勝ち取り、守るために戦い続けろ』と言われて再起した。
 そして、『世界中で戦って争いを終わらせて、平和になった所から居場所が見つかる』と思い、戌子のいる軍に入ったのだった。
 しかし、ある理由があって2年前に大助は軍を脱走した。戌子は脱走した大助を追ってパラミタまでやってきた。
 軍の存在は極秘なので、2人は未だに軍に追われている状態だ。
 今回の帰省も、砂霧が文句を言いながら手配してくれた為に叶ったものだ。
 その帰省に、大助は雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)を誘った。
 今の時期ならオーロラも見えるし、砂霧も雅羅を気に入るだろうと思ってのことだ。
「別に構わないけど……迷惑かけるかも知れないわよ」
 災難体質の自分に巻き込まれるかもと言う雅羅に、それは気にしないからと大助は安心させるように笑ってみせた。
 
 
 白麻家はカナダのイエローナイフ郊外にある。森を背後に構えたログハウスだ。
 広大な雪原の中に建つ牧歌的な家。
 けれどその地下には最新設備の揃う研究開発室がある。
「大助、戌子、お帰り。雅羅ちゃんはようこそね」
 相変わらず長い茶髪をぼさぼさに乱した砂霧は、家を訪れた3人を歓迎した。
「ふぅ……素敵ね、雅羅ちゃんのバントライン。犬ッコロの魔銃なんかより百倍いいわぁ」
 目敏く雅羅のバントラインスペシャルに目を留めると、砂霧は舌なめずりでもしそうな勢いで頼んでくる。
「ね、ね! 雅羅ちゃん、少しメンテナンスしていかない?」
「こらサギリ、文句言わずボクの魔銃もメンテしたまえー。娘が可愛くないのかー」
 戌子が砂霧の前に自分の銃をぐいと差し出した。
「えー」
「砂霧さん……歓迎してくれるのはいいけど、雅羅が困ってるよ」
 不満そうな砂霧を大助がいさめる。
「大助……アンタその口調、全然似合ってねーわよ」
「うるさいな、余計なお世話だ」
 砂霧のツッコミについ素の口調に戻った大助は、墓参りに付き合ってくれと雅羅を家から連れ出した。
 
 目的の墓は白麻家裏口から出て森の奥。見晴らしのいい崖の先にある。
 紛争地域の捨て子だった大助を拾った傭兵の四谷 正嗣と傭兵隊の為のもので、岩に十数個のドッグタグが無造作にかけてある。
 正嗣率いる隊は強く、何より結成から十年間犠牲が全く無かったことで、一部では有名だった。戦場から帰るたび、皆は絆の力だ友情だと笑い合い、周囲からは、不死隊、友情隊、男色隊、などと呼ばれていた。正嗣も、ここがオレの居場所だよと笑い、大助も誰一人欠けずに居場所を守り続ける正嗣に憧れていた。
 しかし9年前、砂霧が開発した兵器を持つ『軍』と交戦し全滅。後方で皆の帰りを待っていた大助には、全員分のドッグタグだけが戻り、砂霧に引き取られた後に大助は自分で養父たちの墓を建てたのだ。
「大助は自分の戦場から逃げ出したのさ。雅羅、災厄に立ち向かうキミと違ってね」
 戌子の言葉を雅羅が聞き返すより先に、大助が制す。
「ワンコ、雅羅に余計な事を吹き込むな」
 そして大助は岩にかけられた中から、正嗣のドッグタグへと目を向ける。
「父さん……見つかったかもしれない。オレの、守りたい場所」
 そうして正嗣に呼びかけている大助を眺めつつ、戌子は言う。
「大助の目的は自分の居場所を見付けること、けどそれはただの目的。誰よりも強くなり自分の居場所を生涯守り続ける、それが父親に憧れた彼の夢なのさ。大助は雅羅の居場所になると言っているけど、本当は彼の方こそ雅羅に居場所を見出しているのかもしれないね。だからどうしても守りたくなる」
 それほどまでに、正嗣の存在は大助の中で大きかった。
 大きな喪失感を抱えた大助は、より大きな夢を目指すことによってそれを乗り越えようとしている。
 墓と向かい合う大助の頭上に、幾筋ものオーロラが輝いていた――。