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地球に帰らせていただきますっ! ~4~

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地球に帰らせていただきますっ! ~4~

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 ■ ごっこからはじまるけれど、ごっこで終わらせたくないもの ■
 
 
 
 2021年から2022年にかけての年末年始を、想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)想詠 瑠兎子(おもなが・るうね)は祖父母の待つ実家で過ごしていた。
 
 交通事故で10歳の時に両親を亡くしてから、夢悠は父方の祖父母に引き取られてこの家で暮らした。
 祖父母は優しかったから、この家での生活は悪いものでは無かったはずなのだけれど……両親を失ったショックは深く根付いて夢悠を苦しめ続けた。
 2年が経っても夢悠は心の傷に苛まれ、たびたび隠れて涙し、またそれを見て見ぬふりをしつつ祖父母は心を痛め。
 そんな日々が続いていた、十ヶ月ほど前のある日。
 夢悠と祖母は『ルーネ』を見つけたのだった。
 孫が立ち直れるよう、環境を大きく変えたい、パラミタへ連れて行って欲しいと頼まれたルーネは、ただ1つの条件をつけてその話を承諾した。
「代わりにワタシを孫にして欲しいの」
 古王国時代に地球で戦死したルーネは現代まで幽霊として彷徨ううちに、生前の記憶を名前以外無くしてしまっていた。生きていた時代ははるかに遠く、故郷パラミタにあったはずの絆もすべて途切れてしまったルーネは、地球を漂うだけのただの幻影のようなもの。
 その絆をルーネは想詠家と結び合わせ、『瑠兎子』として生まれ変わったのだった。
 誰かと結ばれている絆。
 それこそが、人が人として存在する為にこの世に下ろす碇のようなものなのだと思う。
 だからこそ、夢悠とも早く姉弟関係を築こうと『ユッチー』の愛称で呼んだりもしてきたのだけれど。
 ふぅ、とコタツの天板に肘をついて瑠兎子は夢悠を見た。
 テレビでは正月番組の漫才がやっている。さっきまで祖父母が見ていたのだけれど、2人とも近所の知人宅に呼ばれ、そのまま出掛けていってしまったのだ。
 テレビに顔を向けている夢悠の横顔を、瑠兎子はじっと眺めた。
 パラミタで様々な事件と自分に振り回されて、夢悠は明るさを取り戻してきている。
 それは喜ばしいことだけど、瑠兎子には気になっていることがあった。
(もしかしてワタシたち、姉弟ごっこをしているのかな?)
 自分は姉になっているつもりでいるけれど、もしかしたら夢悠に弟役を強いているだけではないのだろうか。
 実家にいて『家族』の意識が強まれば尚更、そんなことが気に掛かる。祖父母は喜んで新しい孫を受け入れてくれているみたいだけれど、肝心の夢悠はどうなのだろう。
 それがどうしても知りたくなって、瑠兎子は思い切って夢悠に言った。
「ねぇねぇ。これからゆっちーのことを『夢悠』って呼んでみようと思うんだけど、どう思う?」
「え? 何それ……」
 いきなり切り出された話に戸惑う夢悠に、瑠兎子は慌てて言い訳する。
「だってほら、ユッチーもそろそろ反抗期だから! 甘い顔しないで厳しくいこうと思ったのよ!」
 瑠兎子が何を言い出したのかさっぱり分からない様子だったが、夢悠は別に良いけど……と答え、そして自分も言った。
「じゃあオレも……お姉ちゃんを『瑠兎子』って呼んで良い?」
 瑠兎子は目を丸くして絶句した。
 固まった瑠兎子の様子をどう思っているのか、夢悠はぼそぼそと続ける。
「お姉ちゃんはオレと会ってすぐに、『お姉ちゃん』になっただろ? 普通、姉は最初から姉で当然なんだけど……違うじゃん、オレ達」
 夢悠の言う『違う』の一言が瑠兎子の胸に突き刺さる。ごっこのような部分を除いて、姉弟らしくなりたいと思って言い出したことだったのに、どうしてこうなってしまうんだろう。
 そのまま2人は互いに俯いて沈黙した。
 
 沈黙を破ったのは夢悠の方だった。
「……オレ、せっかく『瑠兎子』って人と出会えたのに、その人にすぐ『お姉ちゃん』というカバーをかけて見えなくしたみたいで、なんか嫌だなって……」
「せっかく出会えた……?」
「うん……」
 夢悠の言いたいことは瑠兎子にはよく分からなかったが、自分のことを大切に思ってくれているのは伝わってくる。
 瑠兎子は少し考えたあと、怒ったような口調を作って聞いた。
「夢悠はワタシの弟でいるのが嫌というのではないのね?」
「うん、それはそうだけど……」
「で、お姉ちゃんというだけじゃなくて、瑠兎子という人としても一緒にいていいと思ってくれてる?」
「ま、まぁ……」
 夢悠の返事は煮え切らないけれど、肯定は肯定だと瑠兎子は考える。
「瑠兎子だというのが感じられるなら、夢悠はワタシの弟のままでも良いのよね?」
「まぁそれなら……」
「分かった」
 瑠兎子は大きく頷いた。
「じゃあ間を取って『瑠兎姉』にしなさい」
「るうねぇ?」
 夢悠は眉をしかめてその呼び名を繰り返す。
「そうよ。これならワタシは瑠兎子で姉だわ。うん、弟の生意気を許してあげて呼び方まで考えてあげるんだから、良い姉よね、ワタシ♪」
 どこが、と呟く夢悠の尖らせ加減の口まで嬉しくて、まあこれでも食べなさいと、瑠兎子はコタツの上にあったミカンを夢悠に押しつけたのだった。