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リアクション
「「「「乾杯!!」」」」
ゴクゴクゴクッ…………。
喉を鳴らしてジョッキを一気に飲んでいくラルク、闘神の書、そしてシリウスを、ソフトドリンクを頼んだリーブラが静かに見つめている。
「くーーーっ!!!」
「プハーーーッ!!!」
「あーーーーッ!!」
シリウスとラルクと闘神の書がジョッキを空にするのは殆ど同時であった。
「やるな、シリウス! 百合園の生徒でこんなに飲めるヤツがいるとは思わなかったぜ!」
「そうか? 昔のオレよりは酒の量が落ちてるぜ。一応、お嬢様学校の百合園では、たまにこっそり飲みにいくくらいで自粛してるし……」
シリウスは、地球にいる時は必ず夕飯に350mm缶ビールがつきものだ、とラルクに話す。
「そんな人間が百合園所属か。人生わからねぇもんだな」
「全くだ。でも、オレより数奇な人生歩んでるヤツも沢山いるぜ?」
「へぇ、どこのどいつだ?」
ラルクがシリウスの話に耳を傾けながら、メニュー表を見ていると、
「蜂蜜酒はいかがですかー?」
「お、噂をすればその内の一人が来やがった。おーい、セっさん!」
シリウスが蜂蜜酒を販売していたセルシウスに声をかける。
「貴公は……確かシリウスと言ったな」
「うーっす、修学旅行以来だな。今日はゴチになるぜセっさん、元気にして……何だ、その額の絆創膏?」
「……名誉の負傷だ」
リーブラには、料理を運んでいた弥狐が一瞬こちらを見た気がした。
「蜂蜜酒ってのは何なんだ?」
メニューを見ていたラルクが尋ねる。
「我がエリュシオン帝国の酒だ。美味いぞ!」
「蜂蜜酒だって?」
「まぁ……」
シリウスとリーブラが顔を見合わせる。
「貴公らは知っているのか?」
「知ってるも何も。オレの地元にも蜂蜜酒の地酒があるぜ?」
リーブラがシリウスに続く。
「エリュシオンにも蜂蜜酒があるんですの? わたくし、地球でもこの時期によく見かけましたわ」
「ならば、是非我がエリュシオン帝国の蜂蜜酒を味わってみるがいい」
セルシウスの自信たっぷりの言葉に、四人とも蜂蜜酒をオーダーすると、毒島によって運ばれてくる。
「そういえば蜂蜜酒って初めてなんだよなー。どんな味なんだろうな」
セルシウスによりグラスに注がれていく琥珀色の液体を見つめるラルク。
「飲んだことないのか?」
「無いな。そもそもどうやって作るんだ?」
コホンと咳払いして毒島が解説しし始める。
「基本の作り方はワインと同じだ。アルコール発酵させるのが、ぶどうか蜂蜜かという違い」
「へぇ、そうなのか」
「だから、地球の欧州では古代から中世にかけて、ビールと並んで最もポピュラーな酒だ。まぁ、味は飲むのが一番早いだろう」
琥珀色の蜂蜜酒を全員ストレートで飲む。
「お……中々イケルな」
「ウイスキーより口当たりが滑らかで、ワイン程、蜂蜜が主張しない。不思議な酒だな」
闘神の書が言うと、ラルクも同意する。
「ああ、感想としては、甘みが広がって後味すっきりの癖がない感じだ。へー、これが蜂蜜酒か」
初めての蜂蜜酒の味に驚くラルク達とは逆に、シリウスとリーブラも互いの感想を言う。
「ちょっとオレの地元のものとは違うな」
「違うだと?」
「セっさん。オレの地元の蜂蜜酒はハーブを入れて作るんだ。そっちの方が味が濁るって意見もあるが、オレは向こうの方が好みだな」
「ハーブか、成程。研究してみる価値はあるな」
「でも、蜂蜜酒には地球で色々な逸話がありますわね」
お酒は苦手だけれど、縁起物だからとの理由で、グラス半杯だけ飲んだリーブラが言う。
「昔は、新婚夫婦が子孫繁栄を祈って作って、それがハネムーンの語源になったとか、知識の神の力が込められていて、詩の才能を授けるとか……伝説は伝説ですけれど、蜂蜜は栄養もありますし、のど飴にも使われますから」
「確かに、蜂蜜は健康に良いよな」
何気なくラルクが言うと、毒島が眼鏡の奥で瞳をギラリと光らせ、一歩前に進み出る。
「ラルク!! その通りだ!!」
「ん?」
「蜂蜜はその栄養価の高さから、古代より様々な薬効を持つ万能薬として伝えられ、現代の研究によってその効果が証明されてきているのだよ」
毒島は、何処からか持ってきてキャスター付きのホワイトボードに、書きこんでいく。そこには、古代ローマの軍隊では強い殺菌力のある蜂蜜に浸した包帯を使って傷の治療を行っていた事から始まり、チフス菌は48時間以内に、パラチフス菌は24時間、赤痢菌は10時間で死滅するという現代の研究結果。そして、蜂蜜に含まれるフルクトースが肝臓のアルコール分解機能を強化する効果をもつ事、さらにコリンやパントテン酸にも肝臓の機能を高める作用がある事から、二日酔いに対して蜂蜜入りの冷たい水が有効であるとされている事等を講義する。
「更に驚くべきは、蜂蜜酒にしても糖分以外は殆ど損なわれない事だ。現代に蘇る万能薬! これが蜂蜜の凄さなのだよ!!」
講義を終えてハァハァと息をする毒島に、ラルクやシリウスは勿論、それを聞いていた店員や他の観客達からも、彼女の熱い講義に拍手が起きる。
「見事だ!!」
講義を終えた毒島にセルシウスが固い握手を求める。
「私もこれ程この蜂蜜酒に効果があるとは知らなかった! 貴公の講演、是非エリュシオン帝国でも行なって欲しいものだ!!」
「ふむ……考えておくよ。どれ、私も喉が乾いたな」
見ると、お酒に強くないリーブラが眠そうな目で居眠り寸前であった。彼女の前にある蜂蜜酒にお冷の水を入れてグィっと飲む毒島。
「お、おい!? 未成年!?」
シリウスが突っ込むが、
「ほぼ水だ……こんなのは……」
毒島はそう言うと、前後左右に少し揺らめきながらホワイトボードを押して去っていく。
「おいおい大丈夫かよ、セっさん?」
シリウスがセルシウスに確認すると、ラルクが呟く。
「あいつ……来た時から酔ってた気がするぜ? ちょっと酒臭かった」
「同感だ。更に【非物質化】で物騒なモノぶらさげていやがったし……」
闘神の書が蜂蜜酒を飲みつつ、枝豆を口に入れる。
「……それより、セっさんの地元だとコレ(蜂蜜酒)って、どんなのと合わせるんだ?」
「うむ。大体の食べ物には合うがな、私の好みとしては、牛肉をサッと茹で、香辛料のよく効いたソースに絡めた物が美味いぞ」
「日本で言うところの『冷しゃぶ』ってやつか」
「何故、その様な事を聞くのだ?」
「ほら、シャンバラの居酒屋だとあんましメニューにないかもしんないけど、一緒に広めたら珍しさで流行るんじゃねーかな? オレもエリュシオンに行くことがあったら食ってみたいし」
シリウスが蜂蜜酒を掲げ、セルシウスに悪戯っぽく笑う。セルシウスは腕組みしてジッと考えこむ。
「(そうか……蜂蜜酒をツマミとセットで売り出すというのは良い案だな)」
「さぁーって、揃ったところで飲もうぜ。ラルク、闘神、そしてセっさん!」
シリウスは、皆のグラスにセルシウスが持ってきた瓶から蜂蜜酒をなみなみと注いで行く。
「おう! そう来なくちゃな! 酒は語るより飲む物だぜ!!」
「はっはっは。今宵は無礼講でぃ!」
ラルクと闘神の書、そしてシリウスがグラスを持つ。
「しかし、私は今は店員だ。店員が酒を飲む訳には……」
ガシリとセルシウスと肩を組むラルク。
「頭の固てぇヤツだな。蜂蜜酒の販売のために飲むんだろう? 天下の免罪符じゃねぇか!」
「む!?」
「セルシウスが酔って楽しそうなら、何も売り込みしなくても周囲の奴らが勝手に寄ってくるってもんだ!」
「ラルクの言うとおりだぜ。酒は飲みてぇヤツが買いに来るもんだって相場が決まってらぁ!」
「て、ことだ。飲もうぜ! セっさん!!」
こういう時、常識的なアドバイスをくれるリーブラは、あまり酒に強くないためか、先程の半杯の蜂蜜酒ですっかりウトウトして前後に頭を揺らしていた。
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