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【ダークサイズ】戦場のティーパーティ

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【ダークサイズ】戦場のティーパーティ

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7 戦場のティーパーティ

 恐ろしい蘆屋系美女陰陽師軍団を退けたダークサイズは、ついにオクタゴン進入に成功する。
 中央ゲート前を目指して進むが、中心に迫るごとに、ニルヴァーナ捜索隊とブラッディ・ディバインの戦いが、今もなお激しく展開されているのが分かってくる。
 捜索隊はブライドオブシリーズを台座に収めながら、ブラッディ・ディバインの部隊を倒してゆくが、それがオクタゴン全域に及んでいることもあり、音だけでなくスキルや銃弾も時々遠くに見える。

「ふむ。よい頃合いだな」

 ダイソウは様子をうかがいながらネネを見ると、彼女は思い通りのシチュエーションに、

「楽しみですわ」

 とご満悦。

「準備に取り掛かれ!」


☆★☆★☆


「つ……疲れたわ!」

 中央ゲート方面に向かってオクタゴンの通路を走り抜ける途中、オルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)が立ち止まって手を膝につく。

「休んでる場合じゃないぜ。中央ゲートが開くまでは気が抜けねえ」

 蒼灯 鴉(そうひ・からす)が歩みを止めて振り返る。
 アスカもオルベールにつられてしゃがみこむ。

「カラクリの癖に数が多すぎなのよねー……」

ブライドオブシリーズ設置の折、ブラッディ・ディバインのカラクリ人形との戦いを繰り広げたアスカ達。
 おおよそ倒しきったものの、数の多さに辟易している。
 オルベールは汚れとかすり傷の増えた腕をさすり、

「乙女の肌を何だと思ってるのよー。あー喉渇いたお風呂入りたいご飯食べたい誰かいじりたいー」
「おい、最後のは何だ……」

 鴉はオルベールの四つ目の願望に突っ込みつつ、妙な気配がして彼らが来た道、つまりブライドオブシリーズの設置台の方向を警戒する。

「……何だ?」

 鴉が見た方向からは、全力疾走するリリの姿が。
 彼女は猛然とアスカ達をスルーして走りぬけていく。

「?」

 首をかしげるものの、鴉はその理由をすぐに知ることになる。
 彼が感じ取った気配は、リリのものではなく、彼女を追ってくるからくり人形軍団だったからである。

「お、おいおいおいおい!」

 カラクリ人形の別部隊なのだろうか、通路を埋め尽くす数の人形たちが、妙な動きできりきりとぜんまいの音を立てながら走ってくる。

「ちょ、何よあの数!」
「走れ!」

 鴉がアスカとオルベールを立たせて走り、リリに追いつく。

「どこに隠れてた、あんな奴ら!」
「てゆーか、なんでこうなってるのよー!」

 アスカ達は走りながらリリに聞くが、

「リリは知らぬ。というかヴァラーウォンドが手に入らぬ以上、もう興味はないのだ」

 密かにブライドオブヴァラーウォンドの入手を狙っていたリリだが、台座に設置されたブライドオブシリーズはそこに固定されてしまうらしく、リリの目論見は失敗。
 そこにカラクリ人形の増援がやってきて、

「ヴァラーウォンドが手に入らぬのに戦っても益はない」

 と、パートナーのユノとララとの合流を目指して逃げの一手。
 リリにつられて逃げるアスカたちだが、彼女たちもこれまでの戦いと敵数の多さに、結局中央ゲート方面へ走り続けるしかない。
 鴉は冷静に戦力を分析する。

「くそっ、多勢に無勢ってやつか。とにかく誰か共闘できる味方が見つかるまで、走るしかねえぜ!」


☆★☆★☆


 中央ゲートではティーパーティの準備が進む中、戦闘要員はお茶会エリアを取り囲むようにして警戒している。

「なんつーかよ、この物足りなさはなんだろーな」

 ギャドルは自分の中の闘志を持て余して、腕を組んでうろうろしている。
 ルファンはフッと笑い、

「あの陰陽師たちは、そなたには戦いにくい相手であったのう」
「あははー。まあさ、陰陽師じゃなくてもダークサイズの戦いはだいたいあんなもんだから」

 アキラが笑いながら、ピヨの世話をするセレスティアの様子を見る。

「ダイソウトウ! 忘れとった。聞いて欲しいことがあるんや」

 社が、ティーパーティ開催を待つダイソウの元へ寄る。

「気づいとったかもしれんけど……ちーがまどかになったんやで!!」

 わざわざ魔法少女姿で連れてきた千尋を、いつになく真剣な顔で見せる社。
 千尋もくるくる回って衣裳を見せ、

「ねぇダイソウトウちゃん。サンフラワーちゃんもきっとニルヴァーナ行きたいよね? ケンカしてないで連れてってあげようよぉ」

 と、一滴の濁りもない瞳でダイソウを見上げる。
 ダイソウは『まどか』が何なのか詳しく知らないようで、

「うむ。当然私もやぶさかではないぞ」

 と、千尋に普通に返事をする。
 そして千尋の衣裳を目をしばたたかせて見るクマチャンには、

「クマチャン! ちーを変な目で見るなや!」
「えー! 俺には厳しいのかよ!」

 超人ハッチャンはテーブルを設置する力作業をし、そのテーブルにアイリスとイブがテーブルクロスをはったり椅子を置いたり。

「あ、あの〜。ここでホントにやるんですかぁ? 危なくないですかねぇ〜」

 イブはクロスを手で撫でつけながら、周りを伺ってヒヤヒヤしている。

「……ラルム……お花」
「ぁい♪」

 アイリスは超人ハッチャンの頭上にいるラルムから、一輪挿しを受け取る。
 七瀬 歩(ななせ・あゆむ)は、オクタゴンに到着したダークサイズに合流し、困惑しながらもお茶会の準備を手伝っている。

「よく分かんないけど、こんな所でホントにお茶会? 大丈夫?」

 歩はティーカップをお湯につけて温めながら、案の定手伝わないで椅子に腰かけるネネに聞く。

「それがいいんじゃありませんか。百合園でもお茶会は盛んと伺っておりますけど、このような趣向はなさらないでしょう?」
「そりゃもちろん。だって危ないじゃない」
「あえて危険な場所でいかに優雅にティータイムを楽しむか。そこから何か新しい境地が見つかれば、また面白いではありませんか」
「そ、そういうものかなぁ……それにニルヴァーナに何しに行くの? 半端な気持ちだと、きっと大変な目に合うよ?」
「そこはダイソウちゃんの気持ち一つですわ」
「ふ、ふうん……」

 いろいろ心配する歩だが、ネネは戦場でお茶会ができればそれでよいらしい。
 戦場のティーパーティと言いながらも、どこか和んだ雰囲気で準備が進む中、アスカやリリたちが中央ゲートに到着する。

「いたっ! 味方……ってあれえ!?」

 ダークサイズが月に来ているのを知らないアスカは、やはり驚きの声をあげる。

「何でダークサイズがこんなところにいるのよ!?」
「てか、やだ!? 何でラルムがここにいるのよ!」

 オルベールは超人ハッチャンの頭上にいるラルムを見つけて慌てる。
 直後、カラクリ人形たちが雪崩打ってアスカたち、同時にダークサイズにも襲いかかる。
カラクリ人形の攻撃と、『謎の魔法少女ろざりぃぬ』たちが去ったのを見計らって、なんと蘆屋系美女陰陽師軍団がまたやってくる。

「あーら! てっきりいなくなったと思ったら、こんなところでのんびりしてるなんて、いい気なものね!」
「あのえげつない魔法少女がいない今、あたしたちの勝機!」
「さっきのようにはいかないわよ」
「負けたまんまじゃ、一軍のおねえさまたちに合わす顔がないわ!」

 陰陽師軍団二軍であるアンダーガールズたちは、すでに呪いを発動する魔力は残っていないが、陰陽師のプライドと一軍昇進を目指して、カラクリ人形たちと再戦を挑んでくる。
 お茶会準備組と警戒組は騒然とするが、そもそもこれを目指してやってきたダークサイズ。
 ダイソウが、

「戦場のティーパーティ、開催だ!」

 と宣言し、無茶なイベントがスタートする。
 うっぷんのたまっていたギャドルは、ルファンを連れて徹底的にカラクリ人形に襲いかかり、容赦なく破壊していく。

「がはははは!! おらおら、俺様の本気を見てえ奴は誰だー!」
「ギャドル、どうでもよいが会場からもう少し離れよ。テーブルや茶器が壊れてしまうではないか……」
「陰陽師のやつら、性懲りもなく戻ってきやがったな。ちー、ちーはダイソウトウとお茶しときな。ちーがお腹痛くならんように、俺はあっちのおねーちゃんにお仕置きしてくるさかい」

 社は千尋はあやして振り返ると、珍しく本気モードにスイッチを入れる。

「じゃあ、やー兄の応援する〜♪」

 千尋は【アイスプロテクト】【ファイアプロテクト】で社をバックアップ。

「お腹が痛くならない……ふふ、ようやくセクスィー☆ダイナマイツの本気が出せそうね! ネネを連れてくるから、セレアナは待ってて」
「セレン、まだやるつもりなの……?」

 いい加減セクシー衣裳を着替えたいセレアナだが、セレンフィリティは汚名返上とばかりに立ち上がる。
 彼女はネネの元へ走り、

「行くわよ、ネネ!」
「まあ、せっかくお茶会が始まりましたのに……仕方ありませんわ。少しだけですわよ?」

 ネネは椅子から立ち上がりながら、給仕をしてくれていたフォルトゥーナを誘う。

「あなたもご一緒にいかが?」
「え? あたしが?」

 セレンフィリティとフォルトゥーナの目が合うと、

(同じ……匂いがする!)

 と、二人は堅い握手を結んだ。

「待たせたわね、行くわよセレアナ!」

 セレアナが振り返ると、セレンフィリティを真ん中に、両脇をネネとフォルトゥーナが固めている。

「ふ、増えてるー!?」

 セクスィー☆ダイナマイツのメンバーが増えると共に、セレアナに頭痛の種が増えた。
 今回の最大のテーマは、『戦闘のまっただ中でいかにビビらずにお茶会を楽しむか』である。

「えっと、えっと、魔姫様……ものすごーく危ない気がするのですが……」

 轟音と共にスキルやカラクリ人形の部品が飛び交う中、エリスフィアは頑張って魔姫にお茶を出す。

「火術の焦げ付く匂いと、アールグレイの豊かな香り……なかなかステキなことを思いつくじゃない?」

 何だかんだでティーパーティを最も純粋に楽しんでいるのは、肝の据わった魔姫かもしれない。

「よおーし、みんな頑張ってくれてるから、ボクたちはお茶会を盛大にするよおー」

 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は、いよいよ自分の出番だと腕をまくる。
 チムチム・リー(ちむちむ・りー)が湯気の立った饅頭を皿に盛って、

「レキのお茶には、チムチムのお饅頭がよく合うアル。みんな食べるがいいアル」
「ボクも今日は奮発しちゃうよ。ダイソウトウ、お茶にはいろいろあるけれど、初めて宇宙にやって来たってことで、祝! 金箔入り緑茶を差し入れてあげる!」

 レキは、まずはダイソウに飲ませてあげようと、黄金が所々にきらめいて舞う緑茶をダイソウに出す。

「おお、まさに寿。いただくとしよう」
「金箔って豪華だし身体にもいいって説もあるんだよね。ネネさんも飲むかな?」
「今は戦闘に出ているが、どうせすぐに飽きて戻ってくるであろう。出してやるがよい」
「うん!」
「ダイソウトウ、お茶うけのお饅頭はこしあんとつぶあん、どっちがいいアルか? 両方準備してきたアル。甘い物は大丈夫アルか?」

 チムチムが饅頭をダイソウの前に置く。

「うむ。金箔緑茶は初めてだからな、こしあんとつぶあんか……どちらが合うだろうか……」

 お茶会組は、参加者をもてなすことと、戦闘中のメンバーのバックアップも兼ねている。

「うわぁ〜、歩さんのマドレーヌ、きれいー」

 結和が、歩の持ち寄ったお菓子を覗きこむ。

「結和ちゃんは何持ってきたの?」
「いや、これは別にー……」

 歩が結和のバスケットを見ようとすると、結和は慌てて後ろに隠すが、大佐が通りかかってバスケットの蓋を開ける。

「ずいぶんと気合いの入ったグロ画像じゃのう……」
「み、見ないでえー! 味は普通なんですよう! 盛りつけが苦手なだけなんですー!」
「そんな次元か……?」
「じゃあせっかくだから、教えてあげるよ!」

 という具合で、歩の臨時お料理教室の授業を受ける結和。
 そんな中、誰かが吹っ飛ばしたカラクリ人形が飛んで来て、歩たちが囲むテーブルに落ちてくる。

「わー、マドレーヌがー!」

 と言うと共に、結和が反射的に【マジックブラスト】で人形を飛ばし返す。

「ああっ、ごめんなさいー! つい反射的に……って人形なんですね」

 慌てた結和は、足もとで垂れていた垂を踏んずける。

「ぱんだっ(いてっ)」
「きゃあ! ごめんなさい、こんなところで垂れてないで椅子に座ってください、垂さん。あああ、マドレーヌうう。歩さんごめんなさいー」
「結和ちゃんのせいじゃないから謝んなくていいってば」
「……忙しい娘じゃのう」

 あらゆる方向にテンパる結和を見ながら、歩と大佐はあきれるやら愛おしいやら。
 未熟な二軍とはいえ、蘆屋系陰陽師はやはり強い。
 カラクリ人形が近接攻撃で襲いかかり、アンダーガールズは氷術、火術を駆使した魔法攻撃。
 乱戦の中で、ダークサイズは拮抗するのがやっとのようだ。

「おおおおおっ!!」

 大きな雄叫びと共に、カラクリ人形が突然数体吹っ飛ぶ。
 その衝撃の中心には、捜索隊から合流したラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)が立っていた。

「おーおー、やってるねぇ……ったく世話の焼ける連中だぜ」

 ラルクは、ラピュマルの働きの疲れをいやそうと、酒の代わりにレキの奈良漬を食べているダイダル卿を見つける。

「よぉ! ダイダル」

 ラルクが遠目にダイダル卿に声をかけると、

「おー、ラルクか。よう来たのう」

 ダイダル卿はカラクリ人形の首根っこを掴んで放り投げながらラルクに寄る。
 ラルクはそれを見て、手を腰に当てて呆れる。

「なんだよ、そんだけ働けるなら戦えよ」
「何を言う。わしゃここまで働き詰めだったんじゃ。ちょっとくらい休ませい」
「ああ、そうか。みんなあんたに乗って来たんだよな」
「まったく成り行きとはいえ、やっかいなとこに世話になってしもうた」

 ダイダル卿は奈良漬をかじって笑う。
 ラルクは飛びかかるカラクリ人形を一体殴り倒し、

「ちょっとだけだが助っ人に来たぜ」
「なんじゃ。合流しに来たんじゃないのか」
「俺だってヒマじゃねえんだよ。ロイヤルガードの仕事があるからな」

 と、スーツにロイヤルガードマントという紳士的な出で立ちで、襟を撫でて整える。
 いつもと違うラルクの恰好に、

「ずいぶんと今日はパリッとしたもんじゃの」
「ま、任務だからな」
「水臭いのう、ダークサイズでもそれくらいの気合いでこんかい」
「はははは。それじゃ浮いちまうぜ」

 挟み撃ちでかかってきたカラクリ人形を、ラルクとダイダル卿が一体ずつ返り討ちにし、二人はちょうど背中合わせになる。
 一度酒を酌み交わすと、こうもお互いの呼吸が分かるようになるものだろうか。
 互いに背中を預けながら、二人は剛拳でさらにカラクリ人形を吹き飛ばした。

「何だか不思議な気分だが、神に背中を任せるってーのは、なかなか一興だぜ」

 ラルクは、時間が限られているのと妙にわくわくした気分に素直に乗って、

「今日はちょっとばかし、本気出させてもらうぜ?」

 【七曜拳】で拳、蹴り、頭突きを駆使して、華麗にマントをなびかせて暴れる。

「おぬし、そんなに強かったんかい……若いのにいつもラクしおってからに」
「まあまあ。ダークサイズが後方支援しに来たって、捜索隊にも報告しておいてやるからよ」
「頼むぞい……そうでもせんと、わしの働きも報われんわい」

 ダイダル卿はぶつくさ言いながら2体のカラクリ人形をぶつけ合って潰す。