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お風呂ライフ

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 一方、円と歩、小夜子の三名は、甘い香りのする白濁色の湯にいた。
 そこには、三人と同じ百合園女学院の生徒、秋月 葵(あきづき・あおい)がいた。
 葵は、アトラスの傷痕の源泉100%の温泉から、エリュシオンの霊峰オリンポス山の湯などパラミタ各地の温泉・薬湯が全100種類! なんて宣伝を聞いて遊びに来たていたのだ。

 話は、温泉巡りをしていた三人が次にどこに行こうかと相談していた時まで遡る。
「薬湯には興味があるね。まぁ現状に満足してるし、そこまで必死にはなってないけどね」
 さらりと言いながら、DSペンギンを呼んでガイドブックを取り、効能についてDSペンギンにガイドブックを捲らせる円。
 円の心中は、「(嫌な予感がするお風呂を探すよ。しめしめ、どれが一番無茶苦茶な温泉なんだろう)」という企みがあった。
 DSペンギンが示したのは、苦そうな緑の薬湯。誤って飲むと、健康には良いがとても苦い、とある。
「(うふふ、胸の差が決定的な戦力じゃ無いことを教えてやろう)」
 円は、傍で小夜子と話す歩の胸を見る。『成長期』という謎の外力に愛されて、自分を裏切って大きくなった歩の胸に、彼女は次第にプレッシャーとコンプレックスを感じ始めていたのだ。
「や、待てよ?……薬湯だったら、胸が大きくなったりするんだろうか……」
 ぶつぶつと呟く円を横目に見ながら、歩と小夜子が彼女の扱いについて小声で会談していると、
「さぁ! どうぞ! あたしが作ったフルーツ牛乳風呂はお肌にも美容にもバッチリよ!!」
「あら? 葵さん?」
 小夜子が声かけをしていた葵の姿に気付く。
「わー、小夜子ちゃーん! それに歩ちゃんに円ちゃん! 偶然だねー」
「本当偶然ね。何してるの? ここで?」
 歩が尋ねると、葵はフフフと、手に持った看板を見せる。
「フルーツ牛乳……風呂?」
「そ。牛乳風呂が美容に良いのは、古代のクレオパトラが愛用した事からのお墨付きだもん! そこに良い香りのするフルーツを入れたお風呂なの。これはもう入るしかないよね!!」
 小夜子は、先程から鼻孔をくすぐる匂いの正体に気付く。
「牛乳風呂ってことは、背が伸びるんだよね?」
 円が口を挟むと、葵は頷く。
「勿論よ! 他にもお肌がすべすべになるし、リラックス効果もあるもん」
「胸も?」
「……え?」
 葵が返答に困っていると、円は歩と小夜子に向き直り、力説し始め。
「ここだよ! ボク達が入るべきお風呂は!! きっとお肌がちゅるちゅるになったり、胸が大きくなったりするに違いないよ! 歩ちゃん!!」
「いや……あたし、胸まで保証はしてな……」
 葵の言葉も円には既に聞こえていない。
「どうします?」
 躊躇した顔を見せる小夜子。
「とりあえず、行ってみる?」
 歩の提案により、三名は葵のフルーツ牛乳風呂へと行くことになった。

「ぅわ……」
「これは、また……」
「これでボクの胸が大きく、胸が胸が胸………」
 三者三様のリアクションとともにフルーツ牛乳風呂を眺める三名。
「さー、どうぞ!」
 葵が言う。
「私は、遠慮します……別に、胸は今のままで良いですし」
 胸の前で腕を組み、苦笑する小夜子。ムニョンッと寄せて上がる彼女の胸。
「ピキィッ!?」
 円のこめかみに血管が浮き出すのを歩が見てしまい、慌てて間を取り持つ。
「ま、円ちゃん! さ、小夜子ちゃん! あ、あたし、ここ、入りたいなー……って」
 歩は、薬湯などで二人とも遠慮してたら、「女は度胸! チャレンジ精神で最初に飛び込んじゃおう!」と、提案するつもりだったが、現在ごく身近で勃発しつつある紛争解決のために身を犠牲にする覚悟を決める。
「えーい!」
 ばっしゃーんッ!! と、歩がフルーツ牛乳風呂に飛び込む。
 二人が湯船を見つめていると、プハッと歩が顔を出す。
「……あ、意外と普通だ。二人とも大丈夫だよー……きゃ!?」
「どうしました? 歩さん」
「う、うん。何か足に当って……え?」
 歩が湯船の底から何かを拾う。黄色く、長いもの。
「バナナ?」
 葵が笑う。
「フルーツ牛乳風呂だってあたし言ったでしょ? 底に色々沈めてあるんだよ。食べてもいいけどお腹壊さないでね」
 そう言うと葵は、「そろそろ究極のフルーツ牛乳コンテストの時間だし、あたしも飛び入りで審査員に参加してこよーっと!」と言い、走って行く。
 こうして、三名は、フルーツ牛乳風呂を堪能することになるのであった。

「はぁー、いい気持ち。でも……普通のお湯より、トロトロしてるよね、これ」
 歩がフルーツ牛乳風呂の湯(?)を手ですくうと、指の間を白濁色がゆっくりと滴り堕ちていく。
「歩さんは……」
 小夜子が歩を見て口を開く。
「え?」
「歩さんは以前よりスタイルが良くなりましたよね-」
「そ、そうかな?」
 嬉しそうに笑う歩。本人もちょっとは体の変化を感じてはいたが、他人から改めて言われるとやはり嬉しい。
「はい。可愛いですし男の人にモテますよ、きっと」
 アヒルのおもちゃを浮かべて遊んでいた円がチラリと二人を見やる。
「ねー。小夜子ちゃん。ボクは?」
「円さんは……その内きっと胸も大きくなりますよ、きっと……」
 と、円の頭をなでなでする。尚、小夜子は円の後輩である。
「だよね! ボクの胸が大きくなりだしたら、歩ちゃんを一気に追い抜けるよね! ……まぁ、小夜子ちゃんには勝てないままかもしれないけど」
 円が言うと、小夜子は困った顔をする。
「私はこれ以上大きくなるとちょっと困るけど……」
「どうして?」
「だって……動きにくくなりますから。私は格闘家ですしね」
 拳聖である小夜子の贅沢な悩み。
「ボクが小夜子ちゃんの敵なら、胸ばっか狙っちゃうね。叩くと凹みそう」
 ポンッと小夜子の胸を手で打つ円。
「あンッ!」
 ポヨンと跳ね返ってきた自分の手を見る円。
「(……チッ、何て弾力だ)」
「やりましたわね!」
 と、円の胸をお返しに軽く叩く小夜子。
 ペチンッ……。
「跳ね返らない……んだね」
「こ、これからですよ!! きっと!!」
 凹む円を励ます小夜子。
 そんな感じで湯船に入りながら話をしていた三名。そこに……。
「ここがフルーツ牛乳風呂ね」
「あ、トモミン先生」
 歩が見ると、友美がやって来る。
「私も入らせて貰うわね」
 チャプンッと湯に浸かる友美。
「トモミン先生ー。ここのオススメの効能の源泉、教えて下さい」
 歩が友美に話しかける。
「オススメ? 私に?」
「はい。先生なら何か知ってると思うんです」
「確かに。友美先生は綺麗ですし美容には詳しそうですよね」
 小夜子も同意する。
「あなた達も色々回ってるんじゃないの?」
「色々回りましたけど、それでもやっぱり一番気になるのは美容の効能ですし」
「うーん……温泉は美容にいいけど、それでも直ぐに効果が出るってわけじゃないわ」
「そうなんですか?」
 小夜子は、今の友美の発言にややショックを受けている円をチラリと見つつ頷く。
「そうよ。ローマは一日にして成らずって言うでしょ? 継続こそ力なのよ。大体、直ぐに効果があるなら、私だって20代の内に……おっと!」
「女子力アップのためには、努力あるのみって事ですか?」
「そうね。いい恋をするのが一番近道かもしれないけど……。まだ、みんな焦る歳じゃないわよ」
 友美は湯を肩にかけながら歩達に笑う。
「……あの、トモミン先生? ちょっと相談したい事があるんです」
「何かしら、歩さん」
「あの、先生はもし好きな人がいて、その人が絶対に自分の気持ちに応えてはくれないってわかってる時どうします?」
「……絶対、てどういう事?」
「え?」
「もう告白して振られたの?」
「い、いえ……そういう事は、まだ。先生はあたしたちより色んな経験してるだろうし、勉強できるところ多いんじゃないかなって思って聞いただけなんです」
「歩さん。絶対気持ちに応えてくれる人なんていないわ」
「そうでしょうか?」
「そ。相手が自分を絶対好きもなければ、絶対嫌いもないのよ。あるのは、自分自身の心がその人を絶対好きだって事だけよ」
「……」
「心の赴くままに動いてみなさい。そうしたら自然と道は開けるものよ」
「……」
 不安そうな顔を見せる歩に友美が笑いかける。
「何だか、歩さんを見ていると、10代の頃の私を思い出すわ」
「え?」
「似ているのかしらね、私と歩さんは」
「お話を戻すと……先生が最近恋人できたのも心の赴くままに行動したから?」
 円が尋ねると、友美は笑う。
「ええ。私はあの人の事が好きよ。だけど、あの人が私を好きかどうかなんてわからないわ。今は優しくしてくれるし、良い人だけど」
「今日は一緒じゃないの?」
「一緒よ……ハッ! そうよ、私、お肌を磨くためにここに来たのに!!」
 友美は慌てて湯を自分にザバザバとかける。
「……恋してる人はそれだけで幸せだって、言いますけど、先生がまさにそれですね」
 小夜子が友美の姿に感心し、歩は頷く。
「(私も頑張ろう!)」
 似ているのかもしれないけど、トモミン先生と同じ歳までシングルは嫌だ、……と歩は静かに決意したのが、なにわともあれ、三名は最終的には女子だけでワイワイと温泉を堪能した。そこに男の姿は無かったが、これはこれで楽しかったなぁと、歩の心は揺れるのであった。