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あの頃の君の物語

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あの頃の君の物語
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一流の整備士目指して〜木賊 練〜

「ただいまー!」
 学校が終わってすぐに、木賊 練(とくさ・ねり)は工房に駆け込んだ。
「おかえりなさい。あら、何を探してるの?」
「ドライバー。あと、接着のための物と……」
 母の問いに答えながら、練は必要な物を次々と出していった。
 練の傍らには小さなおもちゃがあった。
「これ、どうしたの?」
「友達に直してって頼まれたんだ!」
 それは練の初仕事だった。
 練はじーちゃんや兄に教えてもらいながら、壊れたおもちゃをくっつけ、再び動くように整備した。
 次の日、それを学校に持っていくと、友達は喜んでくれた。
「ありがとう!」
 再び生き返ったおもちゃを見て、クラスメイトは練を絶賛した。
「すごいね、昨日は全然動かなかったのに」
「練ちゃん、かっこいいー!」
 みんなに囲まれて褒められて、練は照れながら笑顔になった。
 おもちゃを直してもらった友達は、練に感謝の言葉を伝えた。
「本当にありがとう、練ちゃん。これ、おばあちゃんがくれた物だったんだ。動かなくなっちゃってどうしようと思っていたから、直してくれてうれしいよ」
「えへへ、あたしも、うれしい」
 友達の言葉に練は本当にうれしくなった。
 修理するのは楽しいし、友達も喜んでくれる。
 整備って本当にいい仕事だと練は改めて強く思ったのだった。


 それから三人兄弟の末っ子である練も工房に入り浸るようになった。
 木賊家は代々、整備工房―木賊工房―を営む”整備士”の家系で、家族全員が整備士になるという変わった家系だ。
 親から子へと直接技術が伝えられ、また子孫はそれにプラスして新たなスキルや作業効率を上げる術を編み出していき、今では腕が良いと評判の高い工房として認知されていた。
 練の兄も姉も父も母も整備士で、それを取り仕切るのが一家の長である祖父だった。
 そして、その祖父は練を高く評価していた。
「練はセンスがいい、いい整備士になるぞ」
 尊敬する祖父の言葉に、練は舞い上がった。
 しかし、その舞い上がった気持ちが一気に冷えるときが来ることを、その時の練はまだ知らなかった。


 ある日、木賊工房にある依頼がもたらされた。
 政府の極秘案件だ。
「……参ったな」
 秘密裏の依頼であるため、断るわけにはいかない。
 しかし、今、木賊工房は大きな依頼を抱えていた。
 これも、難解な依頼であるため、他の工房から手伝いを呼ぶわけには行かないし、家長である祖父や一番脂の乗ってきた父が抜けるわけにはいかない。
 兄や姉はその祖父たちを補佐するために必要だったし、大変な依頼を受けているときだからこそ、家族を支える母の存在は欠かせない。
「……練」
 祖父は末っ子の練を呼んだ。
「お父さん、練はまだ……」
「いや、練には高いセンスがある。小学校に入ってからメキメキと力をつけてきた。練なら出来るはずだ」
 呼ばれた練は父と祖父の問答にどうしていいか分からず、黙って様子を眺めていた。
 結局は祖父の
「娘を信じろ」
 という言葉に父が折れた。
 練は改めて、祖父から依頼を受けた。
「練、これから言うことを良く聞くんだぞ。そして、これは誰にも秘密だ。工房や整備士はこういう依頼を受けるときが多々ある。学校の友達にも近所の友達にも秘密にしないといけない。守れるか?」
 祖父の言葉に、練は緊張したも面持ちで頷いた。
 祖父の真剣さを感じたからだ。
 そして、練は政府からの極秘案件を任されることになった。


 政府からの極秘案件。
 それは偵察用小型飛行機の整備だった。
 祖父からきちんとレクチャーを受けた練は1つ1つ確認しながら、整備を進めていった。
 しかし……。
 途中で練の手が止まった。
「……本当に合ってる?」
 練は自問自答した。
 いつもは陽気で快活な練だが、今は1人でやってることもあって、心細い。
 工房なら、兄がいて姉がいて、父も母も、そして、祖父もいて、自分の整備を点検してくれるけれど、今はすべて1人でやらないといけない。
 練はスパナをぎゅっと握った。
 自身が、持てない。
 整備はちゃんと出来ていっているはずなのに不安になる。
 進めば進むほど何かが足りない気がしてくる。
「……失敗したらどうしよう」
 そう自分の口から言葉が漏れたとき、練は怖くなった。
 木賊工房の評判は、これまでの木賊家の人々が自らの手で勝ち得てきた物だ。
 腕が良いと評判の工房で……だからこそ、一度のミスは命取りになる。
 もし、整備に失敗したとなったら、信用はがた落ちだ。
 この機体が偵察用小型飛行機である以上、ちょっとでも失敗したら、今後、政府からも関係機関からも依頼が来なくなるし、情報を聞きつけたところからも依頼が……。
 そんなことを考えている内に、練の目から涙がこぼれた。
「あ……」
 スパナをぎゅっと握りしめ、練はもう片方の手で、汗と涙を拭いたが、震えが止まらなかった。
 ……怖い。
 失敗したら、きっと家族みんな整備士でいられなくなる。
 怖い、こわい、コワイ……。
「どうした、整備少女」
 ふいに背後から声をかけられた。
 驚いて練が後ろを向くと、そこには作業着姿の男が立っていた。
 年季の入った作業着を見るに、男はかなりの整備歴があるように見えた。
「お、ずいぶん出来てるじゃないか。丁寧にやってるな。感心感心」
 男は練の整備した偵察用小型飛行機を眺め、そう笑った。
 しかし、練が答えずにいると、男は練に近づき、練が震えていることに気付いた。
 男はその練の肩をポンと叩いた。
「何をそんなに恐がることがある、君は部品を愛しているんだろう」
「え?」
「君にはスキルもセンスもある。あとは部品の声を聞けばいいだけじゃないか」
 手を出してごらん、と男は言った。
 練が素直に手を出すと、その手の上にネジがひとつ置かれた。
「このネジの声が、君なら聞こえるはずだ」
 そう言われた途端、体に電気が走った気がした。
 練のその表情を見て、男は小さく笑うと、その場を去った。
 勇気をもらった練は、その後、精神を集中させて整備を行い、見事、偵察用小型飛行機の整備を完了した。
 その整備の見事さに、さすが木賊工房の子、いや、さすが木賊工房の整備士と褒められた。


 あの時のネジをパラミタに来た今も練は持っている。
 いつかあの人に出会ってお礼を言うその時のために。