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【蒼フロ3周年記念】インタビュー・ウィズ・コントラクター・スペシャル

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第1章 今日は真面目な話を

1)三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ) 沢渡 真言(さわたり・まこと)

沢渡 真言(さわたり・まこと)は、控室で大きく息をついた。

執事服は、いつもより入念にアイロンをかけ、
白手袋も、染みひとつないものだ。
テレビ番組に出演するということ……自らの主とともに……その決意の表れであったが、
やはり、緊張は重くのしかかる。

「真言、大丈夫だよ」
「のぞみ」
真言の肩に軽く手を置いて、三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)が言った。

二人は、幼馴染みであり、主人と執事の関係だ。
前回、のぞみが「トッドの部屋」に出演した時と同様に、
今回も、のぞみの実家、真言の実家とも、地球の家族がこの番組を必ず観るだろうことは明白である。
前回の「トッドの部屋」で、のぞみが真言との主従関係を宣言した。
そして、二人の主従関係は、親たちの知るところとなり、
先日の帰省できちんと話して認めてもらったという経緯がある。

その後、「トッドの部屋」出演の話が、また、舞い込んだのだ。
今度は、二人での出演で。

「トッドさんは、とても優しい方だから。
それに、いつも通りの真言なら、きっと大丈夫」
お土産の手作りクッキーを手に、のぞみが言った。
このクッキーも、真言が作り方を教えたものなのだけれど。
「……ええ。
少し緊張しますが、のぞみの執事として、
誰の目にも恥ずかしくないよう、頑張ります」
真言の言葉は生真面目だったけれど、その微笑は柔和なものだった。
のぞみも、安心して笑みをこぼした。

「行こうか」
「ええ、参りましょう」
二人は手を取って、スタジオへと向かった。

★☆★


「また、お会いできてうれしいわ」
トッドさんは再会したのぞみに微笑み、真言にもやわらかい笑みを浮かべた。
「こちらこそ、またお呼びいただいて光栄です。
これはささやかですが、前回のスコーンのお礼です」
「まあ、すてき! どうもありがとう」
のぞみのお土産のクッキーに、トッドさんは瞳を輝かせた。
喜んでもらえたことに、のぞみは安堵し、そして、うれしく思った。

トッドさんの様子を見て、
真言は控室での、のぞみの言葉を思い出し、
この人であれば、大切な話をすることができると、決意を新たにしたのだった。

「では、まず、初出演の真言さんから」
トッドさんが質問を切り出した。

「あなたの大切な方はどなたですか?」
続けて、軽いウィンクとともに。
「その方について、そして、どう思っていらっしゃるか、
なるべく具体的に教えてくださらない?」

真言は、隣ののぞみに一瞬、視線を送り、
そして、ゆっくり語り始めた。

「パートナー達ももちろん大切ですが、一番大切な方について……。
その方は私の幼馴染で、家の事情もあって本当に小さな頃からずっと一緒におりました」

真言の父もまた、のぞみの父に仕えている。
その父に憧れながらも、執事なんて前時代的だと、反発した時期もあった。
だが。

「その方は、
今ではただの幼馴染ではなくなり、私の主でもあります。
これからもずっと一緒にいられるように努力したいですね」

生涯をかけて、執事として仕える道を。
それを選び取ったのは、真言自身だ。

「その方のお名前は?」
「はい、その方は、三笠のぞみさんです」
トッドさんの問いに、真言は胸を張って答えた。
新たな決意を、その言葉にこめて。

「どうもありがとう」
トッドさんは、真言とのぞみにアイスティーを勧め、
その間に、スタッフが写真を用意する。

「こちら、お二人のお写真ね」
プロジェクターに映し出されたのは、ある日の二人の写真であった。

【主従全身】ご主人様と家令 

「ああ、これは……ちょうどこの時はとても寒い日で、
おやつの時間にジンジャーティーを出したんです。
お茶を入れるのはほぼ日課ですが、
その日の気候やのぞみ様の気分と体調に合わせて
飲み物を出せるように色々種類は用意しておりますね」
「蜂蜜の甘い香りが、とてもおいしかったです」
のぞみがうなずいた。
「この時にお嬢様が着ていたドレス、青い薔薇のモチーフでとても素敵ですよね」
「ええ、とっても」
「ふふ、恥ずかしいなあ。トッドさんもありがとうございます」
二人の言葉に、のぞみが照れくさそうに笑った。

「では、次は、こちら」
トッドさんが微笑み、もう一枚の写真が映し出された。

【イベカ2021】二人だけのお茶会

「懐かしい写真ですね」
のぞみが目を細める。
「こちらも、のぞみさんは綺麗なお着物をお召しね」
「ふふ、ありがとうございます」
のぞみは、トッドさんのコメントに、先ほどまでより少し、真面目な表情を作り、答えた。
「……実はあたし、パラミタではしばらくボーイッシュな格好で過ごしていたんです。
実家を離れて、少し羽目を外してみたいというか、そんな気持ちで」
のぞみは、実家ではお嬢様として育てられた。
だから、パラミタでの冒険の日々で、その反動が出たのかもしれない。

「でもこの日は着物を選びました。
相手にも自分自身にも、本気だってアピールしたかったんです」

このバレンタインデーに、のぞみは、真言のご主人様に。
真言は、のぞみの執事になったのだ。

「そうね。お着物やお洋服は、大切な決断をするとき、力になってくれるわ」
トッドさんがうなずいた。
大女優である、トッドさんも、やっぱりそうなんだ。
のぞみは、そう思うと、なんとなくうれしくなった。

「今、伺った通り、
真言さんは、執事として、のぞみさんに仕えていらっしゃるのよね。
幼馴染みであることと、執事としてご主人様に仕えること。
いろいろあると思うのだけれど、
お二人の今後の夢について、詳しく伺えないかしら?」

「そして、のぞみさん。
以前は、これまでのことを主に伺ったけれど、
今後のお二人のことについての夢も、ぜひ伺えないかしら」

のぞみと真言は、顔を見合わせる。
「どうぞ」
まず、主人であるのぞみから。
真言は、のぞみにうながした。
のぞみはうなずいて、堂々と答える。
「まだ明確な目標ではないんですけど、前回の帰省で父に言われたんです」
「お父様に?」
「はい。共に進むからには、自分だけでは到達出来ない高みを目指せって」
トッドさんはもちろん、
きっと、見てくれているであろう、父へも向けて。のぞみは言葉を紡いだ。
「だから今は、あたしに付いてきてくれるひとが居ることを忘れずに、
何事にもより良い結果を残したいって思っています」
抽象的なことかもしれない。
でも、今なら着実に一歩ずつ、前へ行ける。
のぞみは、そう信じているから。

続いて、真言が答える。
「私は自分の主となる方の夢を共に追い続ける事です。
まだのぞみお嬢様には明確な目的地点というものは存在していないようですね……
ですがそれは、逆に何事にも取り組むという事にもなるのではないかと思うんです」
「そうね。まだ、お若いのだもの」
トッドさんが穏やかにうなずく。
「その為に、
私は何事にも補佐が出来るように色んな事の知識を深めないとならないと感じています」

真言は、トッドさんの顔を見た。
ああ。そうか。どこかあの人に似ているんだ。
のぞみとの共通の知り合いのことを、真言は思い出した。

「つまり、言ってしまえば、
『執事のたしなみをより磨きあげる』というところでしょうか」
どのような時も、主とともに。
主が行く道を、共に歩み、共に、進めるように。
それが、どんな場所でも、一緒に行けるように。

真言の言葉は、その決意の表れだった。

のぞみは、真言の生真面目な表情を見て、
少しくすぐったいような笑みを浮かべ、続けた。
「あとは、真言が余り心配しなくて良いくらいには、強くなりたいですね」
時には、二人並んで戦うこともあるから。
お互いの背中を安心して預けられるよう。
「のぞみお嬢様……!」
のぞみの言葉に驚いたように真言が言うと、
のぞみが、そして、トッドさんが笑い。
そして、真言も笑って。
スタジオは、優しい笑いに満ちたのだった。