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仲秋の一日~美景の出で湯、大地の楽曲~

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仲秋の一日~美景の出で湯、大地の楽曲~

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「はぁ……。生き返りますわね……」
 大荒野にある、温泉宿の露天風呂で、白鳥 麗(しらとり・れい)はゆったり入浴を楽しんでいた。
「様々な事件で疲れた体を癒すには、たまにはこういう温泉もよいですわね……」
「そうですね。明日からの闘いに備える意味でも」
 そう答えたのは、イングリット・ネルソン(いんぐりっと・ねるそん)。強者を求めて、大荒野を徘徊している……という噂の百合園生だ。
「和風な造りですわよね。契約者の方が建てられたのでしょうか」
「現地の方のお宿ということですが、日本を思い出す造りですわよね。安心いたしますわ」
 ふうと、イングリットも息をついて、温泉を楽しむ。
「来て良かったでしょう? イングリッド。誘った私に感謝して下さいまし。……ふっ……」
 突如、麗が笑みを漏らした。
 イングリットが彼女を見ると、彼女は勝ち誇ったような表情であった。
 視線は、イングリットの胸に向けられている。
「……何かしら?」
 イングリットは腕で体を隠して、距離をとる。
「あら、別に何もいってませんわよ、わたくし」
 ただ、と、麗は自分の体を撫でながら言葉を続けていく。
「わたくしの完璧なヴィーナスの様なボディを見て、ちょーっとイングリットに劣等感と嫉妬心が芽生えたとしても、仕方ないですわね……と心の片隅で思ってただけですわ。ほーっほっほ」
 麗は確かに魅惑的なボディをしている。
「どうやら、性格の悪さや暴力性と脂肪の量は比例するようすわね」
 くすっとイングリットが笑みを浮かべる。
「どういう意味ですの!? 貴方だって随分な格闘バカじゃありませんの!」
「格闘と暴力は違いますわ。あなたは言葉も暴力的ですわね、ほんと」
 呆れ顔のイングリット。
 ばちゃん!
「今日という今日はもう怒りましたわ!」
 麗は勢いよく立ち上がった。
「表に出なさいなイングリット! 温泉卓球で今日こそ決着をつけて差し上げますわ!」
「望むところですわ!」
 イングリットも立ち上がり、睨み合ったまま脱衣所に戻っていく。

「お部屋の準備も整いましたし、あとは、こちらのお飲物をお届け……」
 2人が泊る部屋の準備を済ませ、冷やしたコーヒー牛乳を取り出したサー アグラヴェイン(さー・あぐらべいん)は、どたどたと近づいてくる音に手を止めた。
「卓球台の準備をなさい!!」
 麗の声だった。
 彼女は部屋には顔を出さず、卓球場の方へイングリットと共に向かったようだ。
「それはまた唐突な……」
 アグラヴェインは、一応コーヒー牛乳を持って、卓球場へ急ぐことにする。
「浴場の中に入られる前は仲がお宜しそうでしたのに、何故出てきたら何時も通りになっておられるのでしょうか……」
 呟きながら卓球場に入ると、ラケットを持って、背を向け合っている少女2人の姿があった。
「ネットをお張りします。よろしければ、お飲物をお飲みになってお待ちください」
「結構です。脂肪はとりたくありませんわ。性格がねじ曲がってしまいますもの」
 イングリットがきっぱり言った。
「それでは、わたくしが貴方の分も戴きますわ。より貧弱になればいいのですわ」
 イングリットの前に回り込み、麗はじーっとイングリトの胸を見て不敵に微笑む。
「ふっ、たっぷんたっぷんのお腹でわたくしと闘おうだなんて、1万年早いですわ!」
 少女達は火花を散らす。
(なるほど、今回は胸の大きさが発端のようですね)
 アグラヴェインはため息をつきながら、準備を済ませていく。
(くたくたになるまで戦い合った後は、一緒に安らかに眠れますように)
 そう思いながら、巻き込まれないよう……いや、邪魔にならないよう、ネットから離れるのだった。
「行きますわよ、イングリット」
「負けませんわ、麗!」
 そうして。
 少女達の熱き戦いは数時間に及び――アグラヴェインの願いどおりの夜を迎えた。