イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

月冴祭の夜 ~愛の意味、教えてください~

リアクション公開中!

月冴祭の夜 ~愛の意味、教えてください~

リアクション





 ■ それぞれの愛の形 ■



 開拓や探索の為にニルヴァーナで活動することはあっても、こんな風にゆっくりできることは稀だ。
 ニルヴァーナの月を見上げるのもたまには良いだろうからと、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は皆を誘って月見に出掛けることにした。
 色んな場所を見たがっていたパートナーのイオテス・サイフォード(いおてす・さいふぉーど)ヴェロニカ・バルトリ(べろにか・ばるとり)に声をかけてみると、予想通りかなり乗り気の返事だった。
 それと……とティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)を誘ってみると、こちらも、
「お月見、ですの? そういえばここ最近は忙しくてゆっくりする機会がございませんでしたものね。お付き合いいたしますわ」
 とすぐに答えてくれた。

 落ち着いて月を眺めたいからと、4人は東屋のうちの1つに腰を落ち着けた。
「ティセラは2人とはこれが初対面だったわね。私のパートナーのイオテスとヴェロニカよ」
「はじめまして、ですわね。ティセラですわ」
 互いに名乗り合った後、ヴェロニカは祥子との出会いを語る。
「あれは、私が復活した後、女王陛下より賜った武具を契約者に分け与えた時だったな。そのあとヴァイシャリーへ出向き、暫くして再会した際に同居を勧められたのだ。修行や見聞を広める意味で旅に出るつもりだったから、住まいの提供は有り難い話だった。契約はそのときにだな」
 そこまで話してヴェロニカは、ふと思いついたように祥子に尋ねた。
「ところで祥子。ロイヤルガードの任官はどのような基準で行われるのだ? ロイヤルガードの任になければ出来ぬことも多いと思ってな。一朝事あっても女王陛下の元に馳せ参じられぬとあってはな……」
 女王陛下を敬愛するヴェロニカに、祥子は肩をすくめて答える。
「ロイヤルガード……私はあまり素行良くないからねえ。はい、精進します」
 そんな様子をちょっと笑うと、イオテスも挨拶がてらにと祥子との出会いをティセラに話した。
「イルミンスールのお祭りに招かれたのが、祥子さんとの出会いで、いきなり酔い潰されたのは良い思い出ですわ」
「ちょっとイオテス」
 人聞きの悪いことをと、祥子はイオテスに言い返す。
「酔い潰れたのは私も同じでしょ? ちゃんと介抱したし、誤解を招く言い方はやめてよね」
「ふふっ、そうでしたわね」
 イオテスはいたずらっぽく笑った。
「その後祥子さんと契約して、あちこち連れて行ってもらいましたわ。マホロバとかカナンとか。依頼絡みばかりでしたから、今日みたいな形で異郷を訪れるのは新鮮ですわね」
「どうしても依頼になっちゃうことが多いけど、今度はコンロンに行きましょうか」
「ええ。どんなところなのか、今から楽しみですわ」
 そんなことを話していると。
 ひょいと東屋を覗き込んでくる子がいた。ニル子だ。
「もしお邪魔じゃなかったら、“愛してる”ってどんな意味なのか、教えてもらえませんかぁ?」
「私は構わないけど……」
 祥子は問いかけるようにティセラの顔を見た。
「可愛い質問者さんとの同席なら、歓迎致しますわ」
「それならどうぞ。といっても私の恋愛や性愛は、世間一般的な考えからは随分違うのだけれど」
 そう言いながらも、祥子は東屋にニル子を招き入れた。

「愛ですか……。私には恋愛や性愛は良く分かりませんが……」
 まず口を開いたのはイオテスだった。考え考え、自分の思う“愛”を説明する。
「祥子さんたちや精霊の仲間たちを大切に思う気持ち……愛の中でも友愛や慈愛というのでしょうか。その気持ちは分かります」
「それはどんな気持ちなんですかぁ?」
「この人たちを大切にしたい。この人たちのために何かをしてあげたいというものですね」
「大切にしたい……何かをしてあげたい……」
 ニル子は確認するように繰り返した。
「愛、か……。私は女王陛下に騎士として仕え、敬愛し、全てを捧げた。騎士道と言えばそれまでだが、己のすべてを捧げることを愛と呼ぶならば、そうなのだろうな」
 自分にとっての全ては女王陛下の為にあるのだから、愛もまたそうなのだろうとヴェロニカは言う。
 そして祥子の答えはこうだった。
「私にとっての愛はね、誰か1人に捧げるものじゃなく皆に捧げたいものかな。好きになってくれた人全員を愛したい。友達に対しても恋人に対しても、何もかも捨ててでも尽くしたいと思う」
 その割には随分振り回してしまって、我が儘につきあってくれるパートナーたちには感謝しきれない、と祥子は思う。
「私ににとって、パートナーや友人たちとの友愛や敬愛、恋人たちとの恋愛。どれが重いという訳ではなく、どれも等しく大切なものなの」
 それでもティセラを特別に思うのは、それだけ心を揺さぶられたということなのだろう。
 恋人を複数形で言ったことに気付くと、祥子はティセラに説明する。
「あ、言ってなかったっけ? 私、いま恋人が2人いるの……尤も、その2人とも音信不通なんだけど」
 そう言うとティセラは、それはいけませんわ、と声を上げた。
「恋人がいるのでしたら、もっとアグレッシブに連絡を取るべきですわ! 連絡が取れなくなってからでは遅いのですわよ!」
「えっ、ああ、そうね……」
 思わぬティセラの剣幕に祥子は苦笑し、逆に尋ねる。
「ねぇティセラ、あなたにとって、愛ってどういうもの?」
 その問いにティセラは何のてらいもなく答えた。
「わたくしにとっての愛は、その方を想い、敬い、慈しむことですわ」

 皆がそれぞれ話す“愛”に、ニル子は真剣な表情でじっと耳を傾けた。
 そして全員の話を聞き終えると、
「ありがとうございましたぁ」
 ぺこりと頭を下げて、また竹林の小径をいそいそと歩いて行ったのだった。