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【真ノ王】それは葦原の島に秘められた(後編)

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【真ノ王】それは葦原の島に秘められた(後編)

リアクション

   三

 レイカ・スオウ(れいか・すおう)は腕を吊りながら、捕えた黒装束たちの前に立った。牢ではなく、用意された部屋の椅子に座らされ、手足は拘束された状態だ。
 その傍にはフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)と平太がいる。
「……何で僕がここにいるんでしょう?」
 平太が首を傾げると、ポチの助は胸を張って答えた。ちなみにどう見ても豆柴だ。
「ふふん、今こそこの優秀な科学の犬、ハイテク忍犬である僕の犬頭脳を駆使して謎を解決に導くとき!! そこの鈍くさはエロ吸血鬼と一緒に手伝うのだ!!」
「どんく――」
 平太は絶句した。
「すまん、平太、そういうわけだからサポートしてやってくれ」
「……いいですよ、いいですけど、僕みたいな鈍くさに何がサポートできるって言うんですか」
 更に拗ねた。
「あー、で、だ。この前んとき、こいつらの一人が」
と、ベルクは黒装束たちを見た。今は全員、面を剥がされ、服も明倫館が用意した囚人服になっている。
「『世界統一国家神様ァ』とか言ってたんだが、もしかして最近耳にする胡散臭ぇ新興宗教……グランツ教のことじゃねぇかと思ってな」
「この連中、世界統一国家神様なんて本当に言ったのですか? エロ吸血鬼が言うことなんてアテに出来ませんが……まぁ、いいです。やってやりましょう。ほら手を貸すのです、鈍くさ」
「……キミ、僕の名前知ってる?」
「鈍くさだろ?」
 平太はしくしく泣きながら部屋の隅に行き、ノートパソコンを起動させた。
「この人たちの洗脳は……解けていないのですよね?」
 レイカは黒装束たちの目を覗き込みながら尋ねた。全員、視線が定まっていない。ぶつぶつと口の中で呪文のように何か呟いている。
「この四人は、比較的体力には問題ないんだが、医者の話じゃ、丸っきり普通の思考能力もないらしい。洗脳というレベルじゃないな、これは」
「でも、もし解ければ……そして記憶が残っていれば、手掛かりになりますよね」
「もし出来れば、な」
「【我は与う月の腕輪】で精神力を回復させるというのは、どうでしょうか?」
「うーん、どうだろうなあ」
 ベルクは腕を組んだ。「逆に精神力を削る方が、拷問とか尋問らしいと思うんだがなあ」
「ではレイカさんに精神力を回復してもらい、私が【鬼眼】で脅すというのはどうでしょうか?」
「ああ、それはアリかもな。それで疲れたら、また回復……エンドレス拷問だな……」
 フレイの敵じゃなくてよかった、とベルクは心底思った。
 試す相手も問題だが、こればかりは決め手がない。周囲に影響がないよう、小柄で体力のなさそうな一人を選ぶと、ベルクは他の三人を壁際に連れていった。
 レイカは左手をその人物の額に掲げた。右手は凍傷と火傷で、時折、痛みが走る。それを押し殺し、【我は与う月の腕輪】をかけた。
 徐々に、男の表情が変化していく。憔悴しきったそれから、目に力が宿り、口元もきりりと結ばれていく。
「今です!」
 レイカに代わって、フレンディスが【鬼眼】で睨んだ。
「さあ、話しなさい! あなたたちは、グランツ教と関係があるのですか!?」
 男の顔が上がった。憎しみの籠った瞳に、ベルクは息を飲んだ。
「フレイ!」
 手を伸ばし、自分の方へ抱き留める。今の今までフレンディスがいた場所に、男は転がっていた。
「うがああああ!!!」
 ガチガチと強く歯を鳴らしている。噛みつこうとしたらしい。
「敵めええええええ!!!」
【鬼眼】で脅したことで、フレンディスを敵と認識したのだろう。男はなおも喚いた。
「倒す倒す倒す! 超国家神様のためにいいい!!!」
 既にフレンディスもレイカも、男の視界には入っていないはずだ。だが体をよじりながら方向を変え、男は「敵」の姿を探した。
「我々が我々が我々がパラミタを救う、大陸を救う、真の王と超国家神様ががが」
 ――そして、糸が切れたように静かになった。
「……おい?」
 ベルクは警戒しながら、声を掛けた。返事はない。目は見開き、口は大きく開いたまま、まるで人形のようだ。
「まずい!」
 すぐに医者を呼んだ。命にこそ別状なかったが、もはや目覚めることはないだろうと診断された。
「慰めになるか分かりませんが」
 後で医者は言った。「どうやら、何かしらの仕掛けがあったのでしょう。余計なことを言わないように。誰がどう調べても、結果は同じでしたよ」
 黒装束たちは、全員、病院へと送られることになった。その対応については、各学校の校長らと話し合うことになるだろう、とハイナは言った。


「エロ吸血鬼のせいでご主人様が死ぬことだった!」
 ポチの助は噛みつかんばかりに吠えた。
「うるせぇな、おかげで分かったことだってあるんだ」
「そんなこと、僕の調査結果に比べればささやかなものだ! さあ鈍くさ、教えてやれ!」
 平太は半べそをかきながら、ノートパソコンの画面をレイカやフレンディスたちに見せた。

 グランツ教は、未来からやってきたと称する超国家神を教祖とする。その居城はグランツテンプルムという浮遊島らしい。
 現在のところ、それほど目立った活動はないが、「未来ではわらわがパラミタを統一している」という宣言と「自分がパラミタを統一すれば崩壊を止められる」という教えが、一部の人々に支持され、入信者は徐々に増えつつあるという。

「それ以外だと、まあ、その宗教の偉い人の名前とかですかね。検索して出てくるのは、それぐらいです」
 ポチの助はぶつぶつ言い始めた。
「グランツ教が本当に未来でパラミタを統一した国家神様と言うのなら、その未来から来た者達が神を作る為に現在で暗躍してるとも考えられそうですねー。もしそうなると現代にない未来技術、ニルヴァーナ、ポータラカの技術等出てきてもおかしくないのでしょうか? そもそも機晶姫と剣の花嫁って兵器なのだから、種族が誕生した頃から意思を奪う事が可能な実行プログラムがDNAのように埋め込まれていたり、外部からアクセス可能なウイルスみたいなものがあるのかもしれませんね……」
 うーん、と唸り、ポチの助は平太を見た。
「推測の域を超えられませんね、あの機晶姫が居ればいいのに。全く役立たずなのです」
 言葉は悪いが、ポチの助がベルナデットを心配しているらしいのは、平太にも分かった。
「この犬の推測はともかく、だ」
 ベルクは聞き取りに来た五寧 祝詞と百目鬼 腕に語った。
「奴は間違いなく言った。『大陸を救う。真の王と超国家神様が』と。――真の王とグランツ教、オーソンは繋がっている」