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【2022修学旅行】2022月面基地の旅

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第6章 異形との対決

「おお。これは美しい。やはり、ここで一番の上玉だな。月のように青白いその肌は、芸術品のような完成度だな」
 触手で拘束されたまま連れられてきたルシアの姿をみて、宇宙王は、賛嘆の声をあげた。
 月で生まれ育ったルシアの肌は、どこか、淡い影を漂わせていた。
 その影が、宇宙王を興奮させたのかもしれない。
「くっ、宇宙王って、ただの野蛮人なのね」
 ルシアは、恐怖と恥ずかしさをこらえながら、どこにいるともわからない宇宙王に対して、言葉を投げた。
 衣服のほとんどは引き裂かれていたが、腰にはまだ、ちぎれかかったパンツがひっかかっていた。
「価値がないと判断したものには野蛮に振る舞うことも辞さないが、お前のような美しいものに対しては、別だ。それでは、取り引きをさせて頂こう」
「取り引き? 何よ、それ?」
 ルシアは、何とか脱出しようと手足を動かしたが、触手は彼女の身体を完全に拘束してしまっていた。
 無理やり立たされて、身体を仁王立ちにさせられている。
 この状況でそのポーズは、たまらなく嫌だった。
「我こと、宇宙王の女になるのだ。自らそのことを受け入れ、身体の全てをさらすなら、お前以外の生徒には傷をつけないことを約束しよう」
 宇宙王は、厳かな口調でいった。
 ルシアは、下唇を噛んだ。
 女になれとは、どこまでも野蛮な提案だった。
 この取り引きのために、わざわざルシアの下着の一部を残しておいたのだろうか?
 宇宙王のいやらしさに、ルシアは身が震えそうになった。
 しかも。
 自分は、仲間のことを思うと、その提案を受け入れざるをえなくなりそうだったのだ。
「どうする? 拒否するなら、お前以外の生徒を全て抹殺する。承諾するなら、その最後の衣も脱ぎ捨てるのだ」
 宇宙王の口調が、冷酷なものへと変わっていった。
「……わかったわ」
 ルシアは、うなずいた。
「言葉でいうだけではダメだ。行動で示せ」
「くっ……」
 ルシアは、腰の下着に手をかけた。
 もう、恥ずかしさなど、どこかへ飛んでいってしまえと思った。
 そのとき。
「ルシア、ダメだよ!! そんな話に騙されちゃ!!」
 小鳥遊美羽(たかなし・みわ)が、自転車に乗って全力疾走で特攻してきた。
 月の重力下で、自転車のスピードは恐るべき程度になっていた。
 弾丸のように、美羽の自転車はエイリアンたちを蹴散らして走っていた。
「美羽さん!」
 ルシアは、何だか我に返ったように感じた。
「そんな話、絶対嘘に決まってるよ!! ただルシアを精神的にいたぶって楽しんでいるだけの最低の行為だよ!! 絶対許さないから!! でも、闘う前に、対話だけはする!! 平和的に解決できるかもしれない、一縷の望みに賭けて!!」
 美羽はそういうと、宇宙王の声がする方角へ向けて、人差し指を突き出した。
「何だ、それは?」
 宇宙王は、不審がった。
「コンタクトだよ。私との対話を受け入れて、撤退してくれるかどうか」
 美羽はいった。
「お前も、美しい身体を持っているのだから、それを我の前によくさらしてみせよ。その身体の価値によって、返答を決めよう」
 宇宙王はいった。
「それじゃ、ルシアにした話と同じだね。信用できない!! 宇宙王さんは、自分の姿さえみせてくれないんだから!! 全然対等じゃない!!」
「我を敬え。話をしたいなら、ひざまずくのだ」
 宇宙王は、きつい口調になった。
「わかったよ。交渉決裂だね」
 美羽は、意を決した。
「コハク!!」
 自転車であちこちを走りまわってエイリアンを追い払いながら、パートナーを呼ぶ。
「はい!!」
 空高くジャンプして現れたコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が、両手に持った槍で、美羽を襲うエイリアンたちの胸を貫いた。
「美羽さん!!」
「ルシア、いま助けるからね!!」
 美羽は、ルシアを助けようと奮闘した。
 だが、やはり多勢に無勢だ。
 そのとき。
「ルシア。やっとここまで来れた」
 ルシアの足下から、紫月唯斗(しづき・ゆいと)の声が響いてきた。
「唯斗さん!! そこに身を隠しているの?」
 ルシアは、明るい口調になった。
「ああ。国頭との闘いで部屋を爆破してしまった後、ここまで、エイリアンに気づかれずに移動するのは大変だった。おかげで怖い目にあわせてしまったが、もう大丈夫だ。いま解放しよう」
 唯斗は、姿を現した。
 床に、仰向けになっている唯斗は、拘束されているルシアを、下から見上げる格好になっていた。
「へ、変なところ、みないでね」
 ルシアは、急に恥ずかしくなってきた。
「うん? 大丈夫だ」
 唯斗は請け合ったが、正直目のやり場に困っていた。
 ルシアを拘束する触手を破壊し、解放に努める。
 そのとき。
「おっ、ルシア、いいケツしてるじゃねえか!!」
 オヤジくさい発言とともに、ラルクとレグルスが現れた。
 言葉の内容はいやらしいが、不思議とさわやかな感じもさせるラルクたちであった。
 だが。
 そのラルクたちの姿をみて、ルシアは悲鳴をあげた。
「きゃ、きゃああああ! な、何かで隠してよ」
「うん?」
 ラルクたちは、自分たちがそれこそ全裸で走ってきたことを想い出した。
 でも、問題にしない。
「いや、いや、大丈夫だ。気にするな!! いま、こいつらをぶっ飛ばして助けてやるぜ!!」
 豪快に笑いながら、ラルクたちは拳でエイリアンとわたりあい始めた。
 そのとき。
「あああ、お前ら、邪魔だ!! あともう少しで、ルシアのパンツが落ちてくるというときに!!」
 耐えられなくなって、身を隠していた国頭武尊(くにがみ・たける)が姿を現した。
 その姿をみて、ルシアはまたしても悲鳴をあげる。
「きゃあ! い、生きていたの?」
「当たり前だ。あの程度で死ぬか!!」
 唯斗によって部屋を爆破され、その巻き添えになりながらも、国頭は這って爆風を避けることを知っていたのだ。
 ほかのパンツは燃やされてしまったので、いまや、月面でルシアが履いているパンツは、目の前の着用中のものだけになってしまった。
 宇宙王との取り引きをみていて、黙っていてもパンツが落ちてくると思っていたら、この展開だ。
 国頭の怒りは、いまや爆発寸前だった。
「懲りない奴だ。今度こそ始末しよう」
 唯斗は、国頭と闘う覚悟を決めた。
 だが、そのとき。
「おい、お前たち!! 何をしている!! よってたかってルシアの身体をみて喜んで、襲おうと考えているだろう? 許さないぞ!!」
 やっとやってきた神条和麻(しんじょう・かずま)は、ルシアとその周りの生徒たちをみて、ひどい勘違いをした。
 特に、全裸で暴れまわっているラルクたちのことは、激しく誤解したようだ。
「う、うわああああああ」
 叫んで、ルシア以外の全ての生徒に攻撃を仕掛け始める和麻。
「か、和麻さん、待って!!」
 ルシアの言葉も、耳には入らないようだ。
「おい、落ち着けよ。あーっ、たく、国頭もいるってのに、これじゃ、乱戦になっちまうじゃないか!!」
 ラルクは毒づいたが、現状を打開するには、闘い続けるしかないようだと判断した。
 修羅の道。
「おう、面白いじゃないか。どこまでもやってやろうぜ。補充の弾もみつかったしな」
 銃に弾丸を装填しながら、レグルスがニヤッと笑っていった。
 ズキューン!!
 銃声が、エイリアンをおびやかす。
 ルシアを中心とした、ヒーローたちの集結であった。

「みんな、待って下さいよぉ!! 危険な奴がくるっていうのに!!」
 八神誠一(やがみ・せいいち)は、ルシアを中心とした乱闘に、敢然と分け入っていった。
「うん? 何やつ!?」
 素早く反応した唯斗が、音もなく誠一に近寄り、背後から攻撃しようとする。
 だが。
「おお!?」
 唯斗の目が、大きく見開かれた。
 誠一に振り下ろそうとした腕が、空中でみえない腕にとらえられたかのように、動かなくなってしまったのだ。
「おっと、気をつけた方がいいですよぉ。みなさんが暴れている間に、鋼糸を仕掛けさせて頂きましたからねぇ」
 誠一が、不敵な笑いを浮かべていった。
「ちょ、ちょっと、いつになったら私を救出してくれるの!? ずっとこのまま身体をさらしてなきゃいけないなんて嫌だわ」
 ルシアが、半狂乱になって叫んだ。
 だんだん、異常な状況に耐えられなくなってきていた。
 これ以上、男子の視線に自分の敏感な肌を撫でさせるのは嫌だった。
「ルシア! すまない。いま、助ける!!」
 和麻は、闘いを中断して、ルシアの拘束を解きにかかった。
 そして。
 ついに、ルシアは触手から解放されたのである!!
「はあ。和麻さん」
 ルシアは、和麻の胸に倒れこんだ。
「だ、大丈夫だよ。もう安心してくれ」
 いいながら、和麻の顔が赤くなってくる。
 ルシアの柔らかい肌の感触は、あまりにリアルだった。
 和麻がルシアを抱きしめると、ルシアもそれにこたえて、強く顔をこすりつけてきた。
 そして。
 ルシアは、安堵の涙で目がうるんでいる顔をあげた。
 和麻と目が合う。
 和麻は、ドキッとした。
 ルシアの唇と、和麻の唇が接近する。
 だが。
 それだけだった。
 ルシアはまた、和麻の胸元に顔を埋める。
 なかなか、それ以上にはいけないようであった。
「おっ、いいねえ。お熱いことだ。俺たちもああなるといいな、レグルス」
 ラルクが、ヒューと口笛を吹いて、いった。
「何をいっている。そこまでの関係にいきなりなれるようなおいしい展開は、そうそうないぞ」
 レグルスは、牽制した。
「だーかーら、そういう微笑ましいやりとりしている場合じゃないんだってば」
 誠一は、自分の存在を強調した。
「むう。いったい何が起きるというのだ?」
 唯斗が尋ねた。
「この月面に、エイリアンのほかに、あいつがいるらしいんだよ。すっかり異形になってしまったけど、おそらく宇宙服は着てるだろうね」
 誠一は、ほのめかすようにいった。
「あいつ……って?」
 ルシアが、和麻の胸から顔をあげていった。
「もうすぐ出てくるはずだよぉ。ほら、もう、唸り声がしている!!」
 誠一は、ある方角を指さした。
 そこには。
「ぐるるるるるるるるるるるる。うがああああああああ」
 不気味な声をもらしながら、よたよた歩いて近づいてくる、異形の影。
 エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)であった。
「おやおや、異形の身体に合った宇宙服を着ているようですが、どこで発注したんだろうね」
 誠一は、肩をすくめていった。
「きゃ、きゃああああ!!」
 エッツェルの異様な姿に、ルシアは悲鳴をあげた。
「ルシア、俺がついているぞ」
 和麻は、ルシアを抱きしめた。
 ルシアを愛しく思う気持ちは、いまや、爆発寸前なまでにたかまっていた。
 たとえ何があろうと、ルシアを守る。
 和麻は、肚を決めた。
「うがあああああああああああ、うぼうぼ」
 唸りながら近づいてくるエッツェルに、どういうわけ、エイリアンたちがつき従っている。
「まさか、宇宙王の正体は、こいつか!?」
 唯斗は、戦慄した。
 そして。
「ぎいいいいいいがああああああああああ」
 ひときわ高い唸り声とともに、エッツェルは、ルシアたちに襲いかかってきたのである!!

「あら? 地球からの連絡だわ」
 宇都宮祥子(うつのみや・さちこ)は、宇宙船を修復する手を休めて、アルテミスのモニターを見上げた。
 緊急の超高速通信が、地球から入っている。
「え? 衛星からのミサイルで月面のエイリアンたちを殲滅する? アルテミスのスタッフは全員脱出せよ、か。これは、大変だわ。急がないと」
 祥子は、修復を急ぐ決心をした。
 本当は改造した飛空艇で宇宙に出たかったのだが、アルテミスのスタッフから、修学旅行の生徒たちが月面にくるのに使った宇宙船が何とか使えそうなので直して欲しいと頼まれ、修復に着手したところだった。
 結果として、これでよかったのだと祥子は思った。
 自分の飛空艇では、他の生徒も乗せて脱出することは難しかっただろう。
 祥子は、通信の結果を、ただちに他の生徒たちにも伝えていった。
「みんな、急いで、宇宙船にまで集まって!! 基地周辺にミサイルが発射されるわ。アルテミスのスタッフも、修学旅行の生徒たちも、みんな、急いで集合よ!!」
 全員集まれる保証などなかったが、それでも祥子は呼びかけるしかなかった。
 心臓が、早鐘のように鳴り出していた。

「アルティマ・トゥーレ!!」
 誠一が叫ぶと同時に、その場に張り巡らされた想念鋼糸が、エッツェルと、エイリアンたちを絡めとり、鋼糸から、極寒の冷気が放たれた。
 たちまちエッツェルの身体は凍りつき、動きを封じられてしまう。
「エッツェルさん、ここで会ったが何とやら。せいぜい、浄化させてあげようかなぁ!!」
 誠一は、ぴんと、鋼糸を鳴らした。
 ごおおおおおお
 エッツェルの身体が、今度は灼熱の炎に包まれた。
「封滅陣四重奏、梅花千裂……。これで、終われ」」
 誠一は、再びぴんと、鋼糸を鳴らした。
 そして。
 どごーん
 エッツェルの身体が、大爆発を起こした。
「これで、混沌の宿命から逃れることができた、よねぇ?」
 誠一は、くずおれるエッツェルの身体を見下ろしながら、首をかしげてみせた。
「おのれ。貴様ら、よくも、見苦しい抵抗を……」
 どこからか、宇宙王の声が響いてくる。
「次は、あんたをやろうかな。どこにいるのかわかんないけどね」
 誠一は、声のする方に身構えた。
 そのとき。
「宇宙王、もう遅いぞ!! お前がルシアの身体に固執している間に、他の女子たちは俺たちが救出した!!」
 風森巽(かぜもり・たつみ)、いや、仮面ツァンダーソークー1が、エイリアンたちを爆炎の腕で燃やしながら叫んだ。
「むう。お前は、仮面ツァンダーか。いつも我々の邪魔をする、にっくき存在」
 宇宙王の言葉に、巽は驚いた。
「仮面ツァンダーを知っている? 私以外の者に会ったことがあるのか? お前は、いったい?」
「教えてやらんぞ。死ね!!」
 エイリアンの大軍が巽に襲いかかる。
「ツァンダー、轟雷の腕!!」
 巽の腕から、雷撃が放たれ、エイリアンたちを感電させていく。
「みんな、ここは私に任せて、早く宇宙船へ!!」
 巽は叫んだ。
「ソークー1、ありがとう。気をつけて!」
 ルシアたちは礼をいって、その場を離れていく。

「ふう。触手に拘束されてしまったホリイを助けていたら、すっかり時間がかかってしまったな」
 やっとの思いでパートナーの救出に成功した夜刀神甚五郎(やとがみ・じんごろう)は、額の汗を拭っていった。
「ひーん、怖かったです!! みなさん、ごめんなさい、ありがとう!!」
 ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)は、すっかり全裸になってしまった身体にタオルを巻きつけながらいった。
「まあ、時間がもったいないから、ソークー1に協力して、わらわも他の女生徒を救出しておいたぞ」
 草薙羽純(くさなぎ・はすみ)がいった。
「ルシアも救出されたようですし、とりあえず、宇宙船に急ぎましょう。そこでこそ、私の宇宙空間での作業が求められそうですが」
 ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)が、落ち着いた口調でいった。
「あの、オシッコ、したいんですけど」
 ホリイが、申し訳なさそうにいった。
「月面で、しておくか?」
 羽純が冷淡な口調でいった。

「わー、助かるわー!!」
 祥子は、ブリジットに礼をいった。
 宇宙船は、アルテミスのスタッフと修学旅行の全生徒を乗せて、緊急発進していた。
 あまり急いだので、修復が完全に終わってなかったのだが、そこでブリジットが直接船外に出て、動いている船に張りつきながら修復をしてくれることになったのだ。
「いえ。礼には及びません。自分たちの生存のためでもありますから」
 ブリジットは、淡々と答えた。
「まあ、継ぎはぎみたい修復になっちゃって、それで大気圏を突破できるか不安はあるけど、仕方ないわね。緊急時だし」
 祥子は、船の計器をチェックしながらいった。
「ところで、祥子さん、宇宙船の操縦は?」
 ルシアが尋ねた。
「ううん。はじめてよ。できるかどうかも、ぶっつけ本番ね!!」
 祥子は、明るい口調でいってのけた。
 エイリアンとの戦闘で基地のスタッフは負傷していて、宇宙船の操縦をする者がいなかったのだ。
 修復に関わった祥子が操縦するのは、ごくごく自然な成り行きともいえた。
「だから、せめてルシアに手伝って欲しいわ」
「私も、多少は習ったけど、大気圏突破なんてはじめてで……」
 ルシアは、不安そうにいった。
「大丈夫だ! 俺がついている!! 宇宙船の操縦はわからないけどな!!」
 神条和麻(しんじょう・かずま)が、ルシアの側で熱血な声をあげている。
「はあ。不安だわ」
 いいながら、ルシアは席をたった。
「あれ? どこへ行くんだ?」
 後を追おうとした和麻を、ルシアは苦笑して押し返した。
「ごめん。お手洗いに行くの」
「ああ、大丈夫だよ。俺は、そこでは、向こうを向いているから……」
「だから!! ここにいてね!!」
 ルシアは大声でいうと、ダッシュで退出した。
「ルシア。心配だよ。一人で行くなんて」
 和麻は、呟いた。
 しかし、エイリアンから救出したときはルシアとかなりいい感じになったのだが、宇宙船に乗り込んでから、また、徐々に距離ができているようだ。
 なぜだろう?
 和麻には、わからなかった。
「私なら、ぶっ飛ばしてるけど?」
 祥子が、意味ありげな言葉を和麻に吐いた。