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そんな、一日。

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そんな、一日。

リアクション



12


 空京に行こうぜ、と脈絡もなく誘われ、丁度予定も空いていたから二つ返事で了承して。
 いざ到着しショッピングモールを前にした時、マーリン・アンブロジウス(まーりん・あんぶろじうす)は言い放った。
「欲しいものなんでも買ってやる」
 あまりにも大まかな指定に、沢渡 真言(さわたり・まこと)はぽかんとしてしまった。
「あーほら。誕生日だから」
「……ああ!」
「忘れてたのか?」
「そういうわけではないのですが。理由が見当たらなかったもので」
 そうか、誕生日か。それなら納得だと頷く。
「理由だったらあるけどな」
「え?」
「いや、なんでも」
 のらりくらりとしたマーリンの調子に、答えるつもりはないのだと察する。そうですか、と話を切って、店の立ち並ぶ通りを歩く。
 服にバッグに靴。可愛らしい雑貨。
 この街には様々なものがあるけれど、こういう時、何をねだればいいのかがわからなかった。
 歩き続ける真言をの隣を、マーリンは急かしたりもせず歩いている。早く決めたほうがいいのだろう。そう思うとなおさら、どうすればいいかわからなくなる。
「……あ」
 そんな中、ふと目に入ったルージュが足を止めるまでに至った。真言が好む、ほんのりとした色づきのものではなくて、もっと女の子らしい艶やかなルージュ。
 なのに気になったのは、本当にとても綺麗な色をしていたから。
(マーリンは好いてくれますかね)
 じっ、と見つめていると、横から声がした。
「これ?」
「はい」
「ふーん」
 真言が選んだ色を、マーリンが手に取る。
「口紅か」
 ごく小声で、何か言っているのが聞こえた。
「何か?」
「いや? あとで返ってくるといいなって」
「なんですか、それ。プレゼントなんじゃないんですか?」
 そもそも返したってどうしようもないだろう。まさか自分で使うのだろうか。疑問に首を傾げていると、マーリンは「あー」と不明瞭な声を出した。次いですぐ、苦笑まじりに頭を撫でられる。
「ちょっ」
「意味はまた後で。買ってくるから待ってて」
 レジへと消えるマーリンの背姿を見ながら、あのルージュをマーリンが塗ったら、という想像をしてみた。
 似合ったりなどしなかったけれど、その姿は妙に色っぽく思えて、真言は慌ててイメージを消した。
 それでもまだ恥ずかしくて、「お待たせ」と隣に立つマーリンのことを、少しの間見ることができなかった。