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第5章 家庭のイメージ

 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は、シャンバラ宮殿の近くの公園に、差し入れを持って訪れていた。
 愛の告白をした相手である、セイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)が今日も空京で、忙しなく働いていると聞いて。
 最近、彼女は人一倍、ロイヤルガードしての仕事を頑張っているようだった。
(大切な友人2人にも、それぞれ恋人ができたしな)
 寂しい気持ちもあるのだろうが、それ以上に、義理堅い彼女はロイヤルガードの仕事を2人の分も頑張ろうと思っているようだった。
「お待たせしました」
 公園に訪れたのは、ティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)だった。
 宮殿に向かう途中に、寄ってくれたのだ。
「セイニィにお弁当持ってきたんだが、よかったら皆でどうぞ」
 作ってきたのは、数種類のオニギリと、保温ポットに入れた味噌汁。
「マホロバでいいおにぎりの具と味噌が手に入ったのでいろいろと作ってみたんだ。
 少し、味見をしてもらえるかな? セイニィの好みに出来てるかどうか」
「ええ、戴きますわ」
 木陰のベンチの腰かけて、ティセラは牙竜が作ってきたオニギリを試食していく。
「施設にいた頃から、作ってるから一応手馴れてはいるんだけど……凝ったものは作れなくて」
 見守りながら牙竜は言い訳のように言う。
 品のあるティセラに、公園で食べていただくものじゃなかったかもしれないと、少し後悔しながら。
「美味しいですわ。セイニィもきっと……いえ、必ず喜びますわ」
 半分ほど食べたティセラが笑みを浮かべる。
 牙竜はほっとする。
 そして、保温ポットとカップを取出す。
「育ての親のシスターの婆さんの言葉だが、男は料理の腕は女性より下で丁度いい……餌付けができないし結婚した時に男の胃袋握ってるほうが家庭円満と教えられた」
 味噌汁をカップに注ぎながら、牙竜は続ける。
「俺は家事を手伝えるスキルは最低限持っていたほうがいいと……そして、積極的に手伝う大切さを教えられた気がしたな……セイニィは、どう思うだろうか?」
「セイニィの家事スキルが心配ですか?」
 くすっと笑いながらティセラが尋ねる。
「いや、そういう意味じゃなくて……結婚、したら。彼女はどんな家庭を望むんだろうな、と」
「そうですね……」
 ティセラは味噌汁を戴き、頷きながら語っていく。
「家事はパッフェルの担当でしたが、セイニィは出来ないわけではないので、家事もこなすでしょうね。男性と女性、どちらが家事、どちらが偉いなどいうことは測りようがありませんし、男性だから出来なくていいとも思わないでしょう。多分、分担を望むと思いますわ」
「そうか」
 ふっと牙竜は息をつく。
 自分のスキル程度を、彼女は好んでくれそうだ。
「夜は少し、連れ出してもいいかな?」
「ええ、早めにあがるようにお伝えしておきますわ。このお弁当のお蔭で、お昼の時間も有効に使えそうですし」
 ティセラは立ち上がると、改めて牙竜からお弁当の入った巾着を受け取った。
「それじゃ、セイニィによろしく。ティセラ達も無理はしないようにな」
「ありがとうございます。ご馳走様でした」
 頭を下げて、ティセラは巾着を手にシャンバラ宮殿へと向かっていく。
「……さて」
 ティセラを見送った後。
「セイニィの仕事が終わる前に、こっちの用事も終わらせないとな」
 牙竜も自分の用事を済ませる為に、街中へと戻っていった。