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リアクション
対峙 1
「やはり来たか」
来るのが判っていたかのように、踏み込んだ途端に選帝の間に響いた、嘲笑うような声に、セルウスは剣を構えたが、何かが襲い掛かってくる気配は無い。そして、まるで待っていたかのように、ブリアレオスがその正面からセルウスを見下ろしていた。
その奥で、巨大な幹を伸ばすアールキングの中に、辛うじて荒野の王の上体が窺える。薬の副作用もあるのだろう、髪も目も変質した荒野の王は、セルウスの姿を認めると、その周囲を取り囲むようにして構えるドミトリエや契約者達に目を細めて、にい、と口角を上げた。
「相変わらず、仲良しごっこか……皇帝として、余を討ちに来たか」
呟くように言って、目を細めた荒野の王はこの状況を愉しんでいるかのように肩を揺らしながら、けれど静かに憎悪の燃える目を細めた。その目を真正面から受け止めて、セルウスは首を振った。
「違う……お前と決着を付けに来たんだ!」
予想外の言葉だったのか、一瞬荒野の王もその目を軽く見開いたが、直ぐにふん、と鼻を鳴らして「……いいだろう」と口元を歪ませると、邪悪な光を纏った右手を突き出し、ぐっと何かを潰すような素振りで拳を握り締めた。
「貴様が選ばれたのが、運命の過ちだったと、思い知らせてやろう……!」
荒野の王の指が、パチンッと高く音を立てたと同時、起動するブリアレオスが唸り声のような音を上げた。
セルウス達を敵と認めて、距離を詰めようと足を踏み出した巨人を相手に、まず動いたのは白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)だ。
「荒野の王と戦るのも興味があるが……その前に、潰しとかなきゃならねぇ奴がいるみてぇだな」
見上げるような巨体に怖気ずく気配もなく、それどこか並び立つほどの威圧感を放ちながら、殺意溢れる笑みで剣を構えた。
「まずはてめぇからスクラップにしてやろうじゃねえか!」
一声と共に飛び出した竜造は、正面からではなく、位置を捕捉され辛くするあめに、わざと左右へと疾って距離を詰めていく。巨体の割りに素早いブリアレオスの拳が、時折直ぐ傍の床を抉って破片を散らしたが、それがつける程度の小さな擦過傷など目もくれず、速度を乗せた全力の一撃を、すれ違いざまに脚部へと繰り出した。硬い装甲の前に、ダメージは浅い。だが、衝突の瞬間確かに生まれる、一瞬の間に更に振り返りざま一閃。関節狙いの一撃は、装甲の隙間に滑り込んで先程より深い手ごたえを感じ、竜造は目を細めた。
「……そこだな」
だが、強い力同士の激突で間が生まれるのは、片方だけではない。斬撃を放った直後に生まれる間を狙うようにして、ブリアレオスの拳が振り下ろされた。巨体が真上から振り下ろすそれは、落とす、と言うのに近い。風圧を引き連れて向かうそれに、竜造は退くことなく下から斬り上げる動きで剣を払い、その側面を滑らせる形で無理矢理に軌道を流して直撃をいなした。が、当然直撃が免れたところでその衝撃がなくなるわけではない。床を叩き割る拳が放った際の衝撃波に、吹き飛ばれそうになるのを堪える竜造の頬を、弾け飛んだ瓦礫が抉っていった。赤い飛沫が飛ぶ中、目も閉じず、竜造は床に僅か埋まった拳を足がかりに跳躍し、巨体故に小回りの効きづらいその腕の関節を狙って剣を振り下ろす。
「おら、そんな鈍さじゃ、俺は潰せねえぜ!?」
構造上、最も柔である関節部分とはいえ、一撃でどうにかなるような、柔な相手ではない。だがそれが愉しいとでも言わんばかりの表情で、再び振り上げられた拳から、一旦距離を取った。
それを追おうとしたブリアレオスに、続けて空中から飛び込んだのは、アリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)と合体し、ドール・ゴールド(どーる・ごーるど)、黒子アヴァターラ マーシャルアーツ(くろこあう゛ぁたーら・まーしゃるあーつ)を纏ってワイルドペガサス・グランツへ騎乗した裁だ。マーシャルアーツの生み出す風を受けて、小型飛空艇を凌駕するスピードによる負担をドールによって軽減している裁は、その機動力を最大に生かす形でブリアレオスに肉薄した。
「ごにゃ〜ぽ☆ さあ、行っくよー!!」
そのスピードを保ったまま、あわや激突か、と思われた瞬間、ペガサスは殆ど体を真横に倒す形に体勢を変えてその横をすり抜けた。それによって発生したソニックブームがブリアレオスに襲い掛かった。僅かにたたらを踏むブリアレオスに、上空で旋回して軌道を変えたペガサスは今度は急降下し、効果のエネルギーも利用して頭上から足元まで一気に落ち、地上に激突する前に上昇する。爆発のような轟音と共に、ブリアレオスの上体が押し付けられるように一瞬前へ傾ぐ。そのまま、叩き落とそうとするように巨体の腕が振りかぶられたが、この速度相手に当たる筈もない。
「ボクは風……風を捕まえることは出来ないよ!」
頑強なブリアレオスの装甲では、一撃一撃でのダメージは一見しては浅いように見える。だが、ソニックブームは音の衝撃だ。傍目にそのダメージはわからない。問題は、それを何処まで喰らえば倒れ、どこまで攻撃を仕掛け続けられるか、だ。
「後は、体力勝負というところかな……っ」
ブリアレオスの巨体から繰り出される拳撃と、衝撃波の連続する、上空から地上から、激しい戦闘が展開される様相を見やるセルウスが、ぐっと剣を握ったのを見て、美羽は首を振って、その手の平に触れた。
「駄目だよ、セルウス。戦う相手、違うでしょ?」
そのまま、でも、と言う反論を奪うように、コハクと共に並んだ美羽は視線をブリアレオスへやったまま、ぐっと構えた。その横に並ぶ騎沙良 詩穂(きさら・しほ)も「ここは、私達に任せてください」と剣を構え、パートナー達と飛び出していく。その背中の遠ざかる中、美羽とコハクは、セルウスの肩を叩いた。
「セルウスは荒野の王と決着を!」
「……うん!」
そうしてブリアレオスへ向かっていく美羽に、力強く頷いて返し、構えを直したセルウスの視線を受け、刀真たちは一斉に飛び出した。
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