リアクション
杜守 柚(ともり・ゆず)と高円寺 海(こうえんじ・かい)は、小舟を借りて池の上に二人きりで漕ぎ出している。
浴衣を着て少し大人っぽい雰囲気になった柚は、去年、海と二人で竹林を歩いたことを思い出した。
「去年のお月見の時も、海くんと一緒にあの月を見上げていたんですね……」
去年はまだ、海の気持ちがわからなくて、不安になる中で遊びに誘ったりもしていた。
そんな海が、今年は恋人として傍に居て、こうしてまた一緒に月を見ることができた。そのことを、本当に幸せだと感じる。
柚と海はたわいもない話をしながら、水面の月を眺めたり、頭上の月を見上げたり、少し舟を漕いで場所を変えたりした。
言葉が途切れた。
「月が綺麗ですね」
柚は、その言葉の訳……「愛しています」という意味を込めて、そう呟いた。
「ああ、そうだな」
けれど、特に何事も引っかかるようなところのない返事を海は返す。
(あ、あれ? もしかして、「月が綺麗ですね」が「貴方を愛してる」って意味だって伝えないといけない!?)
それはそれで恥ずかしく、思わず鼓動がドキドキと高鳴った。
「柚、どうした?」
「え、えっとね、海くん……」
柚はそう前置きをして、言った。
『月が綺麗ですね』って言葉には『貴方を愛しています』って意味があるんだよ、と。
改めてそう言うと、急に柚の頬に赤みが差してきた。
「……俺も、月が綺麗だと思う」
柚の言葉を聞いた海は、そう答えて柚を優しく見つめた。
そんな海を、柚は肌が触れるほどの近くで見つめ返し……そっと目を閉じた。
唇に当たる柔らかさを感じながら、柚は「これからも海くんと一緒に居られますように」と心の中で月に願う。
「……柚」
少しして柚と海の唇が離れると、海が名前を呼んだ。
「愛してる」
「私も……海くんのこと、愛しています」
頭上に輝く満月は、二人のことを見守るような光を放っていた。