イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

人魚姫と魔女の短刀

リアクション公開中!

人魚姫と魔女の短刀

リアクション



【攻防・3】


 かつみ達から数十メートル離れた位置で、こちらも銃撃を行っていた樹は、正面を見据えたまま余裕な事に太壱と雑談をしていた。
「――小娘は小娘で大丈夫だ。実験室の面子には軍人娘や芦原の忍び娘もいる。
 それに、小娘だって子供ではない……怪我したら悲しむ輩がいることぐらい百も承知だろう」
 にやりとした樹に、太壱は眉を顰めた。樹の言う小娘――セシリア・ノーバディ(せしりあ・のおばでぃ)の名前がどうしてここで上がるのか、彼は良く分かっていないのだ。それに樹は苦笑している。
「……何言ってンだお袋? それに何だよその笑い声?」
「いや、気がつかないのは本人ばかり也と言うか何というか。
 ほら、進むぞ……私も銃器を扱いづらい職に就いてしまったので腕が鈍って本調子ではないが」
「……ワケわっかんねぇ。
 って、あーあー、ジナママもマモパパも暴れてるナァ……」
 そうすれば答えが出る訳でもないが額を掌でゴシゴシと抑えながら太壱が見るのは、ジーナと衛のいつも通りの大乱闘だ。
「喰らえー正義のてっつーい!
 必☆殺、ハリセンアターック!」
「おーりゃー!
 アレックさん直伝・ど根性投擲!」
 ハリセンをしならせ唸らせるジーナ。
 その後ろから三段ベッドの支柱を持って今まさに振り回そうとしている衛。
 かつてアレクが衛に教えたのは『ただのパイ投げ』だったのだが、どうしてこうなった。樹の注意する声も思わず棒読みになってしまう。
「おーい、ジーナ・マモルー、非戦闘員の研究者が居たら無傷で捉えろよー」
「それとジナママ! マモパパ! 移動中の被害者を巻き込んで傷は負わせないでくれぇ!」
「わかってやがります樹様! 太壱さん!
 ……アンタ、ワタシのスカートの中覗くなです!」
 隙をついた衛の尻を蹴って踏みつけたジーナ。そのジーナへ――会話をしつつさり気なく矢張りスカートの中身を覗く方向で――衛は問いかける。
「あの部屋、なんかおかしかったな。
 生きてる人間がいても、べらぼうに衰弱しきってるし……」
「何かの素材として『生かされている』程度の処置だな。俺はこんな命の扱い方は許せネェな……こいつら然り、ツェツェ然りだ」
 回復役として同行していた太壱は、先程から何人もの被害者の様子を見てきた。彼から出てきた言葉に、衛は首を傾げる。
「ってーとナニかい、たいっちー、お前さんの思い人はこんな感じで出来上がったとか?」
「……うっく、まあ、そうだよ。
 ツェツェとお袋・親父を護る為に俺はこの世界に来た。
 だから、この戦いが終わったら、俺は……」
「ん? 死亡フラグでございやがりますか?」
 茶化してくるようなジーナの言葉に、太壱は一気に激昂して叫ぶ。
「ちっがーう!! 俺は、アレックスに弟子入りするの!
 身内が全員守れるほど強くなるためには、どうしたら良いか考えてたんだ・
 そんな時、アレックスのあの話だよ。
 良いね、ああいうのに俺なりたいって思ってたんだ!
 だからこの作戦が終わったら、アレックスみたいになる為に弟子入りするんだ!」
 爛々と目を輝かせる太壱。
 彼の言葉に樹は大きな溜め息をつくばかりだ。

 そうしたやり取りが先で行われている中、収容室は遂に空っぽになる。
 伊勢島 宗也(いせじま・そうや)はこれを期に、元々心許なかった天井の明かりを破壊した。
 やってきたT部隊の男が慌てているのが、宗也には『見えている』。彼は唇を歪ませた。
「こちとら仕事休んでこんな地下くんだりまで来たんだ。
 楽しませてもらわねぇとなぁ」
 言葉で威嚇しながら、暗闇に怯む警備兵に向かって飛び込んだ。
 銃弾が何発か当たったが、宗也の武器は赫奕たるカーマインという苦痛を快楽に変えるものだったので、その影響から痛みが気持ちよくすら感じられた。
「……っつー。
 あー……。いーい気分だぜクソッタレ」
 『相変わらず』痛みに関しては耐性が無いのに――、妙な気分だと宗也は笑うのだ。
 
 最終的に階に居た『敵』を前に最後を飾ったのは、舞香のくノ一忍法だ。
 己の身体よりも倍以上大きなT部隊たちを相手に、スキルで強化したスピードで間合いを一気に詰めると、警備兵を取り囲むように分身して投げキッスを送る。
 この[魅惑の投げキッス乱れ撃ち☆]は、悪魔が人間を魅了するために用いるマニキュアを塗った指で行われたので、警備兵は大混乱に陥った。
 あとはもう簡単で、それぞれの急所へ容赦なく蹴りを喰らわせて行くだけだった。
 こうして場が片付くと、壮太と宗也が明倫館の帯を捕縛のロープにとキアラの元へやってくる。
「あー、お願いするっス。
 こっちだけじゃ手が足りなさそうだし」
 収容室には被害者が居る。
 真の流した偽情報で混乱していた事から、警備員や警備兵はそれぞれ独自の判断で突入部隊が絶対にやってくるであろうここへ集中したようだ。結局倒した人数はかなりのものだった。
 キアラが申し出に頷いていると、「待って!」と、舞香が声を発した。
「キアラ、これは貴女達の戦いなんだから、貴女が手錠をかけるべきだわ」
 その言葉に一度面食らったように目を丸くして、それからしっかりと返事をして、キアラは壮太に渡された帯で目の前の警備兵を縛り上げる。
 終わったところで、舞香が肩を叩いてウィンクしてみせた。
「お手柄ね、キアラ分隊長☆」
「うん……うんッ!!
 皆、ホントに有り難う!」
 感極まった様に舞香抱きついたキアラの背中を、舞香は暫く優しく撫でていた。