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一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物—

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一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物—
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【温もりをあなたへ】


 クロエが、クリスマスプレゼント制作を頑張る人のためにお菓子を作っているという。
 いつもなら、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)はクロエと一緒にキッチンに立っただろう。だけど、今日は違う。今日は、そういうわけにはいかない。きょろきょろと辺りを見回し、こっそりと工房の隅の方へ行く。ソファの後ろに隠れて、用意した毛糸を取り出した。
「美羽?」
「わあっ!?」
 その時声をかけられて、美羽は飛び上がるほど驚いた。毛糸を紙袋に押し込み背後に隠しながら、ばっ、と顔を上げる。コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)がソファの向こう側にいた。
「何してるの?」
「なっ、何って?」
「だって、ソファの裏でなんか」
「えっ、えへへへへ……内緒」
「?」
 コハクはきょとんとしているが、バレてはいけないのだ。驚きと焦りは心の奥に隠し、美羽はにっこりと笑う。
「それよりコハク、クロエの手伝いしてきてあげなよ」
「うん、そのつもりでいたけど……美羽は?」
「私も後で行くから」
「後で?」
「うん。後で」
 首を傾げるコハクに、美羽は笑顔を押し通す。するとコハクは、何か言おうか迷ったようだったが、「じゃあ、後でね?」と念を押すように言ってキッチンへと歩いていった。ほっと胸を撫で下ろす。これですぐには気付かれないだろう。完成まで、気付かないでいてほしい。
 美羽はソファの裏に戻り、材料を取り出して手を動かした。


 材料や器具の準備をしていると、コハクが言った。
「美羽が何かしてるみたいなんだよね」
「なにかって?」
「わからないけど。こそこそしてた」
「ふぅん」
 コハクは心配しているようだが、クロエはあまり心配していなかった。
「たのしみね!」
「え?」
「だってきっと、たのしいことをしてくれようとしてるんだわ。だから、たのしみね」
「クロエはポジティブだね」
「ふふー」
 考え方もあるかもしれないが、それ以上に、美羽はクロエに色々なことを教えてくれた大好きなお姉ちゃんなのだ。心配いらない。だから、わたしはわたしにできることをする。
「じゃぁ、つくりかたおしえるわね。アレクおにぃちゃんもこっちきて! いっしょにつくりましょ!」


 時間はなかった。けれど、やればなんとかなるものだ。
「でき、た」
 完成したセーターを前に、美羽はほっと一息つく。小さなピンクのセーターと、それより大きなブルーのセーターだ。クロエとコハクのためにと、前々から少しずつ編んでいた。
「ねえ、豊美ちゃん。これ、変じゃない?」
 通りがかった豊美ちゃんを呼び止め、出来を確認してもらう。
「わぁ、素敵ですー。美羽さんの心がこもっていて、とてもいいと思いますよー」
 良かった、と美羽は小さく笑った。笑うことで力が抜けたのか、ふっとひとつ思いつく。
「ねえ豊美ちゃん。このセーターに、魔法をかけてもらえないかな」
「魔法、ですか?」
「そう。着ている人に、幸運が訪れるように」
「はい、分かりましたー。ではちょっとお借りしますね」
 美羽の頼みを快く受け、豊美ちゃんは編まれたセーターに掌に灯した魔力を贈る。桃色の魔力がセーターに宿り、なんだか少しだけきらきらしているようにも見えた。
「豊美ちゃん、ありがとう!」
 ぺこりと頭を下げる。ちょうどその時、キッチンにいたクロエとコハクが部屋に入ってきた。コハクが持つ皿に乗せられたクリスマスプティングを見て、美羽は既視感を覚える。美羽の反応を見たクロエが、楽しさをこらえきれないというように笑った。
「ねえクロエ、このプティングって」
「そう! これ、まえにベアトリーチェおねぇちゃんからおそわったレシピでつくったのよ」
「やっぱり! 懐かしいー!」
 以前クリスマスを共に過ごした際、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が作ったものがこれだった。その頃クロエはまだあまり料理を知らず、熱心にベアトリーチェの教えを聞いていたことまで思い出す。美羽とコハクの関係も、友達同士だった。
 この数年の間に色々なことがあったな、と美羽は思う。
 楽しいことも辛いことも、たくさんあった。
 様々な出来事は、これからも起こる。
 その出来事が、ふたりにとって少しでもいいものでありますように。
「ねえ、クロエ。コハク。あのね――」
 願いを込めたセーターを、あなたに。