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はっぴーめりーくりすます。4

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14


 十二月二十四日のクリスマスイブ、ウィル・クリストファー(うぃる・くりすとふぁー)ファラ・リベルタス(ふぁら・りべるたす)と一緒に過ごす約束をしていた。
 テーブルの上には、ふたりで準備したケーキとワインが並んでいる。
 ウィルがワインを持ち、ファラの前にあるグラスにワインを注いだ。注がれるワインを見ていたファラが、ふっと笑った。
「貴公も飲むか」
「いえ。未成年なので」
「固いのぉ。今宵は無礼講でもよいじゃろ」
 では形だけ、とグラスを用意して自分の前に置いた。すかさずファラがワインを注ぐ。どちらからともなく見つめ合い、グラス同士をぶつけた。高く、澄んだ音が響く。
「メリークリスマス」
「メリークリスマス、ファラさん」
 定型文を口にして、ファラがワインを一口含んだ。満足そうに笑うのを、ウィルは幸せな気持ちで見ていた。
 こうして、一年を共に過ごし、また今日を一緒に過ごせる喜びを。
「なんじゃ、にやにやして」
「に、にやにやなんて」
「ふ。まあ良い。なんとなくわかるしの」
「わかるんですか」
「ウィルのことじゃぞ。わかるに決まっておろう」
 返答に、顔が赤くなるのがわかった。ファラは意図せず言ったのだろうが、そんなこと急に言うなんて、ずるいと思う。
「貴公が照れると私も照れるじゃろ」
「僕だけ照れてるのも恥ずかしいので、ファラさんも照れればいいと思います」
「どんな理屈じゃ」
 くすくすと笑うファラに、ウィルは顔を赤くしたまま笑いかけた。
「ありがとうございます」
「何がじゃ」
「僕と、一緒にいてくれて」
「……照れさせる寸法か?」
「本音です」
「…………」
 沈黙が降りた。変なことを言ってしまっただろうか。けれどこれが、ウィルの素直な気持ちだ。
 不意に、ファラが立ち上がった。腰掛けていた椅子から降り、ウィルの隣に歩み寄る。
「ファラさん?」
 何がしたいのかわからなくてきょとんと彼女を見ると、赤い瞳と目が合った。潤んでいるように見えた。その目に自分が映るのを見てすぐ、視界が揺れた。ファラが抱きついたのだった。
「ファ、ファラさん? どうし――」
「ウィル。貴公と契約してから、もうすぐ一年じゃな」
「は、はい。そうですね」
 抱きついているため、ファラの顔はウィルには見えない。けれど、髪の隙間からちらりと覗く耳が赤くなっていたのが見えた。照れている。そのことに気付いて、ウィルも恥ずかしくなった。
「嬉しいぞ。……クリスマスに、これほど穏やかに誰かと過ごせたことなど、今まで一度もなかったからのう……」
 寂しさを孕んだ声に、ウィルは何も言えなくなった。ファラさん。ただ、静かに名前を呼ぶ。背中に手を回し、ゆっくりと撫でる。
「数千年、ひとりでいた。寂しいものじゃった。けれど、今は違う。愛する者と一緒にいられるというのは、なんと幸せなことであろうか」
 撫でていた手が、止まった。そんなこと、本当に、いきなり言わないでほしい。
 ファラの背に回した手に、力を込める。ぎゅっと、抱き締める。愛しいものを、この手からこぼさぬようにと。
「ウィル?」
「そう思ってもらえて……僕も、嬉しいです」
「……ありがとう」
 言うと、ファラは少し身体を離した。真っ赤になった彼女の顔が、ウィルの目の前に来る。数秒、ふたりは見つめ合った。そして、どちらからともなく唇を合わせる。
 深く重ね合わせた唇は、数秒で離れた。名残惜しく思ったが、ファラがふふっと可愛く笑うのでどうでも良くなった。ただ、愛しいと、心から思う。
「ずっと一緒にいような、ウィル」
「ええ……必ず」
 約束を交わし、今度は触れるだけのキスを交わした。
 聖夜が、更けていく。