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リアクション
3
クロエからパーティの話を聞いて、ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)は腕によりをかけて料理を作った。
からあげにフライドチキン、フライドポテトにミートボール。子供受けもいい定番料理をたくさん用意し、工房へ向かう。
「クーちゃーん、メリークリスマ……」
「わぁい、ミーナおねぇちゃんっ! メリークリスマス!」
そして、ドアを開けた瞬間、クロエのダッシュ抱きつきを受けた。辛うじて踏みとどまったが、バランスがきつい。
そう思っている間に、さらに衝撃。フランカ・マキャフリー(ふらんか・まきゃふりー)が、クロエに抱きついていた。
「くーちゃん、めりーくりすますー」
「メリークリスマスっ」
そして、のんびりと挨拶を交わす。
微笑ましい。大変微笑ましいのだが。
「ク……クーちゃ……フランカ……! 料理、料理落としちゃう……!」
「あっ! ごめんなさい!」
必死の呼びかけに、クロエはぱっと離れていった。ミーナの手から落ちそうになっている料理のひとつを受け取り、テーブルの上に置く。ミーナはほっと一息ついて、クロエが料理を置いたのと同じテーブルに他の料理も置いた。
改めてクロエに向き直る。と、クロエはしゅんとしていた。
「ごめんなさい。わたし、うかれちゃってて……」
反省した様子も可愛い。浮かれていたということも可愛い。
「総じて可愛い! から許す!」
「えっ? えっ??」
「いやぁほんと、クーちゃんは今日も可愛いね〜」
抱き締めて頬擦りすると、クロエは戸惑いながらも笑っていた。
「浮かれていいんだよ! ミーナ特製クリスマスセットもあるからね〜」
「ミーナおねぇちゃんとくせい?」
「そう! 美味しいお料理だよー」
ほら、とバスケットを開けて見せた。中身を見て、クロエが「ふわぁ」と可愛らしい声を漏らす。
「すごい! たくさん! どれもおいしそう!」
素直な賞賛に、ミーナはえへんと胸を張った。見た目は派手じゃないけれど、味は保証できる。何せ、食べるのが大好きで味にこだわるフランカがパーティを待ちきれずにつまみ食いするほどなのだから。
「美味しそう、じゃなくて美味しいんだよ。さあ、パーティを始めよう!」
「おいしい!」
ミーナの料理を一口食べたクロエが、幸せそうに笑って言った。
フランカは、なんだか自分のことのように誇らしくなる。
「みーなのりょうりはおいしいんだよ」
「うん。ほんとうに、とっても。すごくおいしいわ」
「あとね、えっとね、ふらんかもてつだったんだよ」
「えっ、ほんとう? えらいわ、すごいわ」
「えへー」
クロエに褒められて、フランカはふにゃりと相好を崩した。クロエに褒められるのは、嬉しい。
フランカは、きょろきょろと辺りを見回した。
ミーナは料理を取り分けて他の人に配っているし、高島 恵美(たかしま・えみ)はリンスと一緒に工房の飾り付けをしている。立木 胡桃(たつき・くるみ)はお客様に尻尾をもふもふされてきゅうきゅう鳴いていた。
お客様は、ミーナの料理を食べたり、リンスと飾り付けをしていたり、胡桃をもふったり、あるいは自分たちだけで話をしていたり、していて。
つまり今だけ、クロエのことを見ているのはフランカだけで、フランカのことを見ているのはクロエだけということだ。
「くーちゃん」
「なぁに?」
「あのね。これあげる」
渡したのは、不器用にラッピングされたクッキーだった。
「このくっきー、ふらんかがつくったの。くーちゃんへのぷれぜんとなの」
「なにかかいてあるわ」
「うん。ふらんかのきもち」
クッキーには、チョコレートで『くーちゃんだいすき』と書いてあった。読んだクロエが、頬を少し赤くして、笑う。
「うれしい」
「……えへへ。くーちゃんがうれしかったら、ふらんかもうれしいの。
くーちゃん、だいすき……なの。めりーくりすます」
近付いて、頬にちゅっと触れるだけのキスをした。
頬が熱い。
それから、嬉しい。
真っ赤な顔でフランカが笑うと、クロエもくすぐったそうに笑った。
フランカがクロエにプレゼントを渡しているのをミーナが見たのは、偶然だった。
ふっと、可愛いふたりが何をしているのかと気になってそちらに目を向けただけ。
丁度ミーナの膝の上にいた胡桃も、ミーナの手が止まったから気になってミーナの見ている方向を向いた。
飾り付けから給仕の手伝いへと移行していた恵美は、フランカたちの飲み物が足りているかと気にして。
それで、偶然、渡す現場とその後を見てしまった。
「……かぁわいい」
「きゅぅ」
ミーナが呟くと、胡桃が鳴いた。肯定しているようだった。
「本当、可愛いですね〜」
のほほんと、恵美が頷く。
三人に見られているなんて知らないふたりは、顔を見合わせて笑い合っていた。
その笑顔がまた幸せそうで、三人も同じように顔を見合わせて、笑った。
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