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リアクション
「アイシャ」
吸血鬼の少女 アイシャ(きゅうけつきのしょうじょ・あいしゃ)のパソコンにリア・レオニス(りあ・れおにす)の姿が映っている。
リアはアイシャを見舞いに日参しているが、今日は面会を断られてしまったため、パソコンの画面を通じて連絡を入れたのだ。
「リア、今日も面会ができなくてごめんなさい」
アイシャの体調は少しずつ良くなってはいるとはいえ、まだ起きているのもままならない。
リアは、アイシャの体調に触らない程度に、少しの間テレビ電話でやりとりをする許可を得て、話をしていた。
「俺のことは気にしなくていい。アイシャを元気付けて支えられれば、いいんだ」
リアの隣では、レムテネル・オービス(れむてねる・おーびす)が静かに様子を見ている。
「まずは、時計を贈ってくれて、本当にありがとう」
リアはアイシャが贈った時計を着けている腕を見せ、その腕を抱き締めて笑った。
「気に入ってもらえたようで、とても嬉しいです」
「起きるのもままならないのに、俺の為に選んでくれて凄く嬉しい。それに、それができるくらいになったんだって分かったのも嬉しいよ」
本当に幸せそうに笑うリアを見て、レムテネルも微笑んだ。
テレビ電話での面会時間も、刻々とすぎる。リアは腕時計のお礼の後に、本題を切り出した。
「アイシャ、今模擬結婚式って企画が行われてるんだけど、やってみないか?」
「模擬結婚式……ですか? やってみるって……」
どうやって。そう訊ねたさそうなアイシャの顔を見て、リアは悪戯っぽく笑った。
「大丈夫、病室でやれるんだよ」
そういってリアは、アイシャの元についている看護師に頼んでノートパソコンからMMORPGを立ち上げてもらった。
画面に、教会の景色が映る。
「これは? ……あれ、もしかして」
白いドレスを着て神父の前に立っているのは、アイシャの姿をしたアバターだ。
その隣には、タキシード姿のリアのアバターが立っている。
「パソコンの画面の中で実際の結婚式みたいな事ができるんだ」
このデータは、今日こうしてアイシャと模擬結婚式ができるよう、あらかじめリアが作っておいたものだった。
長時間アイシャと面会できないことを鑑みて、式のクライマックスだけを体験できるように設定してあった。
「ちゃんと神父も設定されてて、画面の演出もあるんだぜ」
そう言いながら、リアのアバターが神父に話しかける。
「……あっ!」
思わず声を上げるアイシャに、レムテネルが微笑んだ。
神父のアバターは、レムテネルの姿をしているのだ。
「そうです。神父役を務めさせて頂きますね」
画面の中で、神父アバターのレムテネルがリアのアバターに「愛を誓いますか」と問いかけている。
リアが「誓います」と答える。
「……さあ、次はアイシャの番だよ」
「え、えっと……」
リアは優しく微笑んだ。
「アバターに話しかけてみるんだよ」
リアに教えられたアイシャが、レムテネルのアバターに話しかける。
「愛を誓いますか」
そう問いかけるレムテネルに、アイシャも「誓います」と答えた。
リアとアイシャのアバターが指輪の交換を済ませると、明るく祝福する音楽とともに、花吹雪が舞い、クラッカーの音が鳴り響いた。
リアに教えてもらいながら簡単な操作をして、アイシャは心底楽しそうに笑った。
「凄いですね……見ているだけで楽しくなります」
アイシャの喜ぶ声に、リアも嬉しくなった。
短い時間ではあったが、アイシャの心が晴れたのは確かだ。
「こんなに素敵なものを見せてくれて、本当にありがとう」
こうやってアイシャが楽しく過ごしてくれるのが、嬉しかった。
リアとレムテネルは嬉しそうなアイシャの笑顔を見ながら、今日の面会を終えたのだった。
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