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思い出のサマー

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思い出のサマー
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●脳内リゾートへ出発!(できたかどうかはともかくとして)

 さて突然だが場面変わって、涼しいプールから暑い部屋へと視点を移そう。
 暑いなんてものではない。灼熱地獄だ。
 茹だっている。大袈裟ではなく。
 こちらはヒラプニラの官舎、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)夫婦(婚姻関係があるのでこれでいいことにする)の部屋である。
 六月に二人だけの挙式を終え、こうしてセレンとセレアナは生涯を共にする間柄になった。良いときも悪いときも、富めるときも貧しきときも、病めるときも健やかなるときも、
 真夏にクーラーが壊れたときも
 死がふたりを分かつまで、愛し慈しみ貞節を守ることを誓った仲なのである。
 結婚したところで、多忙で多忙で仕方がない。昨年の夏は無人島で優雅にバカンスする時間があったのだが、今年は新婚旅行どころではなく、仕事に追われるばかりの日々だった。
 先日もヒラプニラ南部を根城にする武装盗賊団の討伐任務に駆り出され、やっと任務を終えて自宅へ戻ったら……クーラーがぶっ壊れていた。
 愕然とした。
 せっかくの休日、たった一日の休日が与えられてはいるが、出かける気にもなれず正確にはそんな気力すらなく、ただ漫然と、太陽が部屋をサウナに変えていくのを見守るだけの二人であった。
「ああもうダメ! 気が狂う!」
 ほとんど下着姿だったセレンだが、それであってももう限界、倒れてウチワをぱたぱたやっていたのを投げ捨てて立ち上がった。
 外の温度は摂氏38度をまわっているとか聞いたが、そうするとこの部屋は何度なのだろう。考えるだけで頭がパンクしそうだ。
「セレン……大声出すと体温が上がるわ」
 クールなセレアナも今はもうバテ気味である。さすがに下着姿は裂けているが、タンクトップにホットパンツという服装で、少しでも涼を取ろうとしていた。(あまり成功しているとは言えなかったが)
 そのことばを聞いているのかいないのか、
「ここはリゾート……リゾート地なの……」
 セレンはぶつぶつと呟きながら、突如、ビーチチェアを物入れから引っ張り込んだ。
 さらには、去年バイトした水着ブランドからもらった最新のリゾート水着に着替える。ブルーのグラデーションのタイサイドビキニで、泳げばさぞ気持ち良かろう。
 さらに扇風機で風を送り、どだっとビーチチェアに身を預けると、携帯音楽プレイヤーにヘッドフォンをつないでノリのいい音楽をプレイした。
「いやあ、南国のビーチは気持ちがいいわあ」
 現実逃避はなはだしいが、これがセレンにできるせめてもの抵抗なのだ!
 といっても現実は厳しい。
 扇風機をいくら動かしてもモーター音が煩いばかりで、生温かい空気がかき回されるだけだ。
 全身、あっという間に汗まみれになる。
 ビーチチェアもぐっしょりだ。
「セレン……なんだかすごく、残念なことになっているわ」
 セレアナは実に冷静に、されども軽くつっこんだ。
 う! とセレンの表情が強張るのが判った。
「だって暑いし、クーラー壊れたし、パラミタサマージャンボは全滅したし……」
 それはあまり回答になっていないのだが、そう言うほかないセレンである。
「まあ、こうも暑いとその気持ちもわからないではないけど……」
 セレアナは彼女に背を向けた。
「どこ行くの?」
「冷たい飲み物でも……」
「セレアナ」
「なに?」
 振り返ったとき、すぐ目の前にセレンがいることがわかってセレアナはぎょっとした。それ以上にセレアナを驚かせたのは、
「……そんな悪いことを言う悪い口は、こうして塞いじゃうわよ……」
 と言ってセレンがいきなり自分を抱き寄せ、強い力で唇を吸ったことだった。
「ちょ……ちょっと!……」
 と言いがたいが声にならない。抵抗してみるが無駄だった。熱く柔らかい唇が押しつけられ、もっと熱い舌が割り入ってくる。セレンの舌はセレアナの舌を捕まえた。ふたつは絡み合い、水音を立てて溶け合う。甘美な匂いがセレアナの口を満たした。
「セレン……あなた、何考えてるのよ……」
 必死でそこから逃れ、セレアナは汗でヌルヌルしたセレンの体を押しのけようとする。
「いいじゃない……こうしてイチャイチャしたって……」
 ところがセレンは、さらに密着してきた。セレンは肌を炎のようにうしながらもうっとりした表情だ。
「イチャイチャどころじゃないでしょ、バカ……」
 気がつけばセレアナは、ビーチチェアの上に押し倒されていた。
 潮の香がする。
 ビーチチェアにこびりついた昨夏の名残か。それとも、セレンの匂いか。
「もっと熱くなりましょうよ……セレアナだけひとり涼しげにしてるなんて許せない」
 もう一度、今度は時間をかけて、セレンはセレアナにキスをした。
「セレンったら……もう」
 言いながらもセレアナはすでに、自分のホットパンツを脱ぎ捨てようと身をくねらせていた。