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リアクション
猫を追う者達
「早い早い早い!」
地面を物凄い速度で走るはラッキー機こと、大熊 丈二(おおぐま・じょうじ)とヒルダ・ノーライフ(ひるだ・のーらいふ)が装着するさんぜんねこスーツ陸戦特化仕様だ。
「遅い遅い遅い!」
それを追うは、テンペストを装着した鳴神 裁(なるかみ・さい)だ。
彼女はドール・ゴールド(どーる・ごーるど)を装着し、物部 九十九(もののべ・つくも)を憑依させ、黒子アヴァターラ マーシャルアーツ(くろこあう゛ぁたーら・まーしゃるあーつ)を装備する事で機体の性能の数字以上の速度でラッキー機を追う。
「あんな小さな点だったのに、早すぎるであります!」
「いいからとっとと逃げるわよ!」
ラッキー機は高得点目標。他の乱入機は文字通り戦いに乱入するのが役目だが、ラッキー機は撃墜されない事が仕事だ。
小型で高機動のパワードスーツはその役割はばっちり、だったのだが、まさか同じパワードスーツにこうも追われる事になるとは思ってもいなかった。
とにかく必死に丈二は逃げる。追う側の裁にはまだ余裕があり、まだまだ早くなりそうな雰囲気があるのが怖い。
「ん?」
そのままの速度で、二人はトマスの小隊の横を横切った。
彼らもどうやらパワードスーツで参戦しているようだ。流行っているのだろうか。
「ちょっと、追ってこなかったからいいけど、進路はちゃんと考えなさい」
「そんな余裕は無いであります!」
そう返答しつつも、逃走経路はちゃんと考えないと挟み撃ちになりかねない。
そこでレーダーを活用し、逃げ道を考慮する。空を飛ぶブラックバードが敵の情報を逐一送信してくれているので、乱入側も敵の位置を知る事ができるのだ。
「よし、こっちであります!」
途中で進路を変更、速度は限界ギリギリのまま突っ走る。
するとその先には、同じくパワードスーツの姿がある。だが、今度は参加者ではなく、乱入側のパワードスーツだ。
「おーい!」
出来る限り大きな声を出すと、パワードスーツ部隊の一人エクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)が振り返った。
「うん?」
当然だが彼女、及び彼女達は状況を飲み込めていない。
「後は任せたであります!」
その中を、丈二とヒルダは奪取で通り過ぎる。
「ちょっと! どういう事よ!」
ディミーア・ネフィリム(でぃみーあ・ねふぃりむ)の言葉に反応を示さず、駆け抜けていく丈二は、みるみる小さくなっていった。
一体何が、という疑問はすぐさまセラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)の、
「敵機が接近してるねぇ」
の一言で一応は判明する。
「敵機って、早っ、ちょっ」
襲い掛かるは人間程の大きさの弾丸、ではなく、パワードスーツが一機。美麗な緑の花火があがった。
「え? え? え?」
何が起きたのか、よくわからないエクス。そんな彼女の視界を、赤い対神像大型レーザーライフルのレーザーが通り過ぎていく。
セラフの狙撃だ。敵が居るのはわかってる―――のだが、その射撃位置は撃墜されたディミーアの位置と離れすぎている。
「え? どこに居るの? 見えない敵なの?」
爆発音。空に映える赤の花火。セラフがやられた!
「……絶対に生き残ってやるんだからー!」
何か居るのは間違いない。だが、見えない。エクスは闇雲に対神刀を振り回した。
その切っ先から、とんと軽い振動が伝わる。
「ごにゃ〜ぽ☆とっかーん♪」
とんとんとん、と剣を伝わってきた裁のショートアッパーが華麗に決まる。鮮やかな青の花火があがった。
「まさか、いくら航空ショー用の飛行型PSで装甲は薄いとは言っても、一分も耐えられずに全滅だと」
湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)はわなわなと震える。
ネフィリム三姉妹はアクロバット飛行に最適化された広報装備であるため、装甲は薄く戦いにあまり向いてはいない。だが、良好な機動力がある。あったはずなのだ。
それが、もはやよくわからないままに全滅してしまった。相手は何か特別な術や魔法を使ったか、否、わけのわからない速度と機動力だけでかく乱し、各個撃破していったのだ。
「だが、まだだ。終わらんぞ!」
凶司はその場の離脱を試みる。幸いにも、{ICN0005582#広報用高速飛空艇}は三姉妹から十分距離を取っていたし、逃げるのに十分な足がある。
こんこん。
「なん……だ?」
ふと奇妙な音、まるでノックのような音がして、凶司はそちらに視線を向ける。一枚の風防の向こう側、そこにはたった今三姉妹を撃墜したスピードお化けの姿があった。
「なんとか逃げ切ったわね」
「そうみたいであります」
丈二は後ろを振り返り、まだ赤と青と緑の煙から随分と自分達が遠くに来たという事を自覚する。
「開始早々やられるかと思ったであります」
「さすがにそれじゃ格好つかないものね」
岩の陰に隠れて、二人は腰をついて休憩する。荒くなった息を整えていると、突然地面が爆発した。
敵の攻撃、ではなかった。
一度は捕捉されたが、二人は別の部隊を囮にしてなんとかここまで逃げ切ったのである。
では何か、その答えは敵が地面から飛び出してきたのだ。
乱入組みは、敵機の位置を把握する手段を持たない。だが、高高度を飛行しているブラックバードが、逐一情報を送信しており、これを頼りに獲物を探したり、あるいは逃げ回ったりできる。
だから、この地点には敵が居ないと二人は信じていたのだ。
そもそも、イコンが主役の大会で、パワードスーツで地面に蛸壺壕を掘って身を隠しているなんて想像もつかない。
砂煙を撒き散らして飛び上がった影は三つ、機体はアーコントポウライ、装着者はそれぞれ三船 敬一(みふね・けいいち)と白河 淋(しらかわ・りん)とコンスタンティヌス・ドラガセス(こんすたんてぃぬす・どらがせす)。
「にゃ、にゃーん」
丈二はデフォルメされた猫の動きをしてみせた。中身は何であれ、見た目はさんぜんねこスーツの可愛らしい猫姿。人の心があれば、暴力なんて仕掛けられるわけがない。
だがしかし、彼は見てしまった。お互いパワードスーツで顔は隠れているが、何かの偶然かはたまた奇跡か、丈二を見据える敬一の目は、完全に獲物を狩る者そのものであったのだ。
(あ、だめだ)
理解した。
このあとコンマ数秒後、それはもう再起不能になるまで攻撃を加えられるだろうと。
そしてその予感は、寸分の違いもなく、現実のものとなった。
「いやはや、仕事らしい仕事がありませんでした」
{ICN0005599#クリバノフォロス}を操るレギーナ・エアハルト(れぎーな・えあはると)が通信で敬一達に声をかける。
「手間がかからないのはいい事だ」
「まさかあっちから勝手によってくるとは、僥倖でしたな」
「穴を掘るのはちょっと大変でしたけどね」
「さて、これはどうしますかな?」
コンスタンティヌスが倒れた二人のラッキー機を示す。
二人はぼろぼろで、しばらくは起き上がれないだろう。
「ふむ……丁度いい穴がある。隠しておくには丁度いいだろう」
「いや、隠さなくてもいいのでは?」
「亡骸を放置しておけば、我々の活動が敵に見つかる危険がある。作戦行動が露見せぬように、隠しておくべきだ」
「地面に転がしておくとイコンに踏まれたりして危ないから、ですよね」
「では、そうしますか」
ノックダウンするまで攻撃された丈二とヒルダは、敬一達が作った蛸壺に放り込まれた。一部始終を見ていたレギーナと観客達には、どうみてもそれが墓穴にしか見えなかった。
「おっと、乱入早々ラッキー機が撃墜されてしまいました! 意外と早かったですね」
「対イコンを想定しての小型ラッキー機でしたが、開幕から最後までパワードスーツに追い回されてしまったのが不運でしたね」
実況席の二人は、磐石の実況をしていた。
「あ、ここでお知らせです。大会参加者のグラキエスさんですが、ドクターストップがかかってしまい、リタイアとなりました。お知らせは以上です」
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