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終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア

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終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア
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リアクション


●イコプラショップ開店!

 イコンの格好良さに惹かれて天御柱学院に入った辻永 理知(つじなが・りち)だから、卒業後、そのイコンにたずさわれる仕事に就けたことを、本当に嬉しく、誇らしく思っているのである。
 どんな仕事か?
 それは……イコプラショップ!
 イコンのプラモデルを売る専門店を、彼女は独力で立ち上げることに成功したのだ。
 イコンそのもののパーツを製造したり取引したりするのとはちょっと違うが、これだって、イコンの魅力、もうちょっと単純に言えばそのカッコ良さを世に伝えるためには必要不可欠な仕事だといっていい。
 開店までの道のりは平坦ではなかった。
 天御柱学院卒業後、理知はイコプラショップで働きながら、商売のノウハウを一から覚えていった。
 資金のこともあり、開店できるようになるまで五年の歳月がかかっている。
 情熱だけでは仕事につながらない。けれど情熱がなければ、良い仕事はできない。彼女の五年間はイコプラへの情熱、そして勉強と努力が、実となるまで必要な時間であったのかもしれない。
 それはともかく、もうじき開店だ。
 店内は綺麗に掃除されていて、棚にはぎっしり、イコプラの箱が積み上がっている。塗料や工具類も充実しており、イコプラ初心者からマニアまで、幅広い客層にアピールしていた。イコンに関する歴史やムックなどの書籍もできるだけ揃えたので、イコプラを作らない人であっても楽しめることだろう。
 ガラスケースに入ったディスプレイ棚には、理知や翔、それに友人のモデラーが作った力作が展示されている。密林戦をイメージしたジオラマを組んでいるものもあった。これは理知による自信作だ。
 レジ横のカウンターに花を飾る。ブーゲンビリアや百合をあしらったアレンジメントだ。
 この花は、以前理知が働いていたイコプラショップの店長が激励のメッセージとともにサプライズで届けてくれたものだった。これを受け取ったとき理知はちょっとびっくりして、ちょっと、胸が熱くなった。
「開けるぞ」
 彼女の夫辻永 翔(つじなが・しょう)がシャッターの前で言う。今日、翔は仕事を休んで特別に手伝いに来てくれているのだ。翔の本職は現在でも天御柱学院の教官であり、順調にキャリアを重ねていた。
 九時ちょうど、シャッターが上がった。
「え……!?」
 理知は飛び上がりそうになった。
 なぜなら店の外には、イコプラファンが詰めかけていたからだ。店がパンクするほどの客数ではないが、埋まるには充分といっていいだろう。
「開店セールだから多いのは当然かもしれないけど……びっくりだよ!」
「予想以上だな」
「ちょっと、じんと来たかも……おっと、そんな暇はないよね!」
 理知は大きな声で、ファンたちに呼びかけた。
「ありがとうございます! これより開店です!」
 その日は一日、客足が絶えることはなかった。
 詰めかけた客のなかには、天学生の姿も見られた。現役学生はもちろん、理知に会いに来た級友の顔も。
「懐かしいな……! 元気だった? 卒業してからはイコンのメンテに行くぐらいだから……来てくれてとっても嬉しいよ!」
 この店の売りはレアなパーツが豊富なこと、それに、取り寄せが早いということ。ここには現役イコプラファンの翔の要望が取り入れられている。
 ファンが集う店になればいい、情報の交換場所や、交流を深める場所になれば――これが理知の願いである。

 閉店時間が来てシャッターを下ろしたときにはもう、理知はくたくたになっていた。
 パートナーたちや翔ともども一生懸命働いたのだが、目が回るほどの忙しさだったのである。食べないと体力が持たないので昼食はかきこんだものの、それに割ける時間は五分少々しかなかった。
 帰宅して着替えた彼女が最初にやったこと、それは、翔にダイブすること!
「疲れたー」
 彼をぎゅっと抱きしめるのが、彼女にとってのエネルギー充電法だ。
「お疲れさん」
 自分も疲れているだろうに、それでも平気な顔をして、翔は妻の頭を撫でる。
「疲れたけど……お客さんにいっぱい来てもらえて、充実した気分だよ」
 嬉しくてにやけてしまう
「何度も足を運んでもらえるように色々工夫しなくちゃね」
「そうだな。たとえば……定番だがイコプラのコンテストを行うとか……」
「さすが翔くん! ちょうどそれを考えてたんだよ」
 抱きついたまま理知は言うのだ。
「大会には、もちろん翔くんの出場は決まってるんだからね!」
「俺もか!?」
 と驚いた様子ながら翔の声は弾んでいる。
 食事を終えて、ふたりで風呂につかって、そうしてふたりは同じベッドに入った。
 理知は伸びをする。
 やはり疲れていた。頭の先から爪先までぐったりだ。
 けれどなんだか目が冴えて眠れない。一日やりきったという興奮がそうさせているのだろうか。体は火照って顔も熱くて……なんていうか……疼く。
「翔くぅん」
 なので彼女は猫のように、翔に身をすり寄せて、がばっと彼に抱きついたのである。
「おっと、今日はずいぶんと積極的だな……」
「だってぇ〜」
「わかってるって」
 翔は目を閉じた。今夜は理知に主導権を渡そうというのだろう。
 それは願ってもないこと。
 この体の火照り、ちょっとやそっとじゃ収まりそうもないから!