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イルミンスールの冒険Part1~聖少女編~(第1回/全5回)

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イルミンスールの冒険Part1~聖少女編~(第1回/全5回)

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第4章 ディル救出作戦

 ……薄暗い廊下は怖い。
 そんな理由で、研究棟内を歌いながら疾走する段ボールがいた。

「迫る〜初夏ぁ〜、地獄の予備校〜
 われ等が狙う赤い門
 正規のルートで入学だ
 GOGO レッツゴー 輝く(合格)通知〜
 イルミーン マジック!
 イルミーン フュージョン!
 エリザベート校長 アーデル〜ハイト
 イルミーン イルミーン」

 某有名特撮ヒーローものの、主題歌の替え歌だ。作法にのっとり、マジックとフュージョンのところで絶妙な間の手を入れるアイリス・ウォーカー(あいりす・うぉーかー)は、あーる華野 筐子(あーるはなの・こばこ)と併走しながら、
「どっちに行きますか?」
「実験所かな」
「実験所ってどこでしょうか」
「地図探しながら探せばオッケーだよ」
 受付に地図は貼りだしてあったが、秘密の研究所の地図がそうそう簡単に見付かるはずもなかった。だが、たとえ見付からなくても何とかなるだろう。脳天気な彼女はそう考える。
「そうですか。そうそう、今日帰ったらお夕飯何にしましょう」
 アイリスも筐子と無駄話をしながら、割合のんきだ。その二人が何故走っているかというと、警備兵やキメラに見付かって追いかけられているからである。それが目的だった。かけずり回って囮役をしつつ、ディルも見付かればいいな、その間にディル救出に向かった人が見付けてくれるかな、くらいの気持ちだ。
 だから通路はおろか、開いている扉や、事前に囮班等がぶちこわした壁に無作為に飛び込む。
「ぜーはー、ぜーはー、ちょっと疲れたなぁ」
 スピードが落ちる二人と彼女たちが引き連れた警備兵とキメラに、正面からかち合ったサイクロン・ストラグル(さいくろん・すとらぐる)がおお、と声を上げる。彼は偶然事件に気付いたため、少し遅れてディル救出にやって来た蒼空学園生である。
「キメラども、オレが薙ぎ払ってやるぜ!」
 迎え撃とうとしたが、多勢に無勢、一体を相手にするだけで精一杯で、とても薙ぎ払うところまでいかない。筐子達はそのまま他の敵を引き連れたまま廊下を駆けていく。と、再び目の前に別の集団が現れた。
 色とりどりのモヒカン頭、トゲトゲのスパイクを付けた皮革をまとった、全身によく分からない傷の付いた、人相の悪い一団。どこからどう見ても立派なパラ実生だ。同じくパラ実生のガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)によって、お宝があると扇動されてやって来た生徒達だった。その数、十数人。
 彼らはお決まりの叫びを上げながらキメラに向かって突進していく。
 ガートルード自身は他の数人のパラ実生と一緒に、お宝略奪部隊として研究所の裏から侵入していた。
 本来なら十倍の人数を集めたかったところだが、それは上手くいかなかった。イルミンスール近くのパラ実馬賊に話を持って行こうとしたが、パラ実生の多くは荒野に住んでおり、馬賊は移動の妨げになる森にはいなかったからだ。なのでその辺をうろついている人間をスカウトしてきた。
 ちなみに財宝の話も、略奪部隊も嘘っぱちだ。エルミティを可哀想に思ったのと、ザンスカール家にコネを作るためであり、つまりはディルの救出を目的としている。目指すはキメラ合成の実験室だ。


 シャンバラ教導団所属のユウ・ルクセンベール(ゆう・るくせんべーる)は、パートナールミナ・ヴァルキリー(るみな・う゛ぁるきりー)らと、ディル救出班を結成していた。その七組のパートナーと、一人で参加した者と、全員で15人。
「これだけ人数がいるので、各自パートナーと組んで行動してください。集合場所は研究所入り口です。皆様に、天の月のご加護がありますように」
 ユウの言葉に、全員が思い思いの方法で研究所内に向かっていく。事前に携帯の番号を交換し、連絡は取れるようにしてある。
 ユウとルミナは、研究棟の建物内で目印を付けながら進んでいく。当然のようにキメラが立ちふさがる。
「我が剣はどのような過酷な試練をも切り裂いてみせよう」
 ルミナは切り込んでいった。
 本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)の二人は、エルミティに書いて貰った簡易な地図を見ながら、詳細な地図を求めて奥へと進んでいく。研究棟一階は、囮班に外壁以外、あちこち穴が開いてあらかた破壊尽くされている。上階に進むか別棟に向かうか迷った挙げ句、涼介は廊下にしゃがみこんでいつも持ち歩いている六面体のサイコロを振る。
「出目は……よし、こっちだ」
 出た目は奇数、上階に向かうことに決める。幸い聖少女護衛の者達が行く手のキメラ達を倒してくれていたので、危険はまだそれほどなさそうだ。
「おにいちゃん、いつもサイコロ振って決めてるけど、あんまり太陽チェックとかしちゃだめだよ?」
「それは綴りが違うんだぜ」
 高月 芳樹(たかつき・よしき)アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)は、ディルの居場所が何らかの手術室か牢獄にいるのではないかと予想していた。守衛室のような監視カメラの場所を探せば、ディルについても何か分かるだろう。
 手近な部屋の扉を開ける。壁面が本で埋まった部屋にローブ姿の研究員を見付けると、あっという間に縛り上げる。
「守衛室か警備システムのある場所はどこだ」
 剣を突きつければ、彼はあっさり二階の奥にあると白状した。二人は研究員を床に転がしたまま警備室に向かう。その場にいた警備兵を片付ける。
 イルミンスールには珍しい機械と、魔術的な何かが組み合わされた警備システムは、奥の壁面にいくつもの画面を映し出していた。その一つに映っていたのは、同じく救出班の一員である時枝 みこと(ときえだ・みこと)フレア・ミラア(ふれあ・みらあ)の姿だった。
 みこととフレアは、囮役が派手に突入したのとほぼ同時に適当に進み、ワザと捕まって牢屋に放り込まれていた。暗い牢屋の奥からは、どうも同じように捕まっている合成志願の人間がいるらしい。
 ポケットの中で携帯の着信がチカチカ光るのを確かめて、みことは縛られた後ろ手に、フレアの胸から光条兵器を引き抜いた。その刃でロープを断つと、自由になった手でフレアの縄も切る。
「今私とクレアは警備室にいる。モニターでそっちがぼんやり見えるが、大丈夫か?」
「制御室とかを制圧するの、てっきり囮の人かと思ってたよ」
 着信の相手は涼介だった。当てがはずれたと思ったが、
「こっちは牢屋だ。モニターだとどの辺になってる?」
「表示によると研究の別棟地下だな、キメラがいるって噂の場所だ。ああ、そっちに二人向かった、敵がいるだろうから合流してくれ」
「了解、そのままモニター頼む。オレはディルを牢屋の方から探すから」
 用件だけ言って電話を切ると、みこととフレアは牢屋の鉄格子を断ち、脱出。牢屋に両側に挟まれた通路を歩いて、ディルの姿を求めて歩いた。
 ふと、進行方向からどぉん、という音と共に焦げ臭い煙が流れてきた。
「人を素材としたキメラの作成……気に入らないわ」
 嵐山 稜華(あらしやま・りょうか)が放った炎術が、狼のキメラの頭を直撃したのだった。彼に指示をしていた警備兵は、テオドール・ゴルトベルク(ておどーる・ごるとべるく)が腕を背中にひねって、稜華が持参したロープとテグスで後ろ手に縛り上げる。
「究極のキメラとやらを何のために作るのか知らないけど、魔法使いも科学者も思い上がりすぎだわ」
「惨いことをするものじゃのう。幼子の未来を奪ってまで……わしには理解できん。しかしリョーカ、今回の目的はディルの救出、研究所を壊したりせんようにな」
「分かってるわよ」
 言いながら彼女は不満そうだ。その瞳を奥に向けて、みこととフレアの姿に気付く。
「君もこっちに来てたのね。怪しいのは奥か地下か、と思って来てみたんだけど……」
「せっかくの縁じゃ、共に探そう。俺とリョーカだけでは多少心許ないからのう」
 四人は合流し、地下を見て回る。
 稜華とテオドールは、警備室からの操作で開いた扉でこの別棟にやって来た。入り口の奥は更に扉のある二重構造で、奥の扉は警備室からでも開かないようになっている。
 その小さな玄関にはたった一つ地下に向かう階段があったのでやってきたこの場所は、地下一階に位置し、人間を閉じこめておくためのもののようだった。入り口に一番近い場所が警備兵の部屋になっており、さっき戦ったのが詰めていた一人と一匹だ。
 再び携帯が光り、稜華が取ると、今度はジーナ・ユキノシタ(じーな・ゆきのした)だった。
「そちらの牢屋に他に捕まっている方はいませんか?」
 声の背後に梢のざわめきが聞こえる。ジーナは今も研究施設の外にいた。
 彼女は施設内に向かう人数が多かったので、必要があれば入って保護し、外で待機するつもりでいる。保護する対象には、研究所の職員も含まれていた。
「たとえば、ディルさんのように実験に反対してる人とかいるかもしれませんよね……」
 ジーナにとって、パラミタで生活しても、身に付いているのは今までの一般常識だ。不思議な力を手に入れたからといって、急に切った張ったの世界には馴れるわけじゃない。
「ホームページで見た限り、ここの研究所って、普通の動物関係の製薬・医療施設だったりしましたし」
「そうね、私もできるだけ人は捕虜にするつもりだから。後で聞いてみるわ」
 電話を切ると、ジーナはため息をついた。待機を選んだ理由の一つは、ディルのような普通の人間もいるところに、襲撃するのは、怖かったからだ。中の状況が彼女の一言である程度想像ができた。