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『君を待ってる~封印の巫女~(第3回/全4回)』

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『君を待ってる~封印の巫女~(第3回/全4回)』
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第9章 決着、そして
「せっかくパートナーになったのに、こんなのってないよ!」
 シャミア・ラビアータ(しゃみあ・らびあーた)は憤りながら、バジリスクにリターニングダガーを放った。
 先日契約したばかりのクェンティナ・レンティット(くぇんてぃな・れんてぃっと)が石化し倒れたというのだ。
 今、クェンティナは他の被害者と共に保健室で休んでいる。
 シャミアの助けを信じて。
「シャミアさんが単純なのか、クェンティナさんが狡猾なのでしょうか」
 必死にバジリスクを狩るシャミアをサポートしながら、もう一人のパートナーであるリザイア・ルーラー(りざいあ・るーらー)は胸中で呟いた。
 クェンティナが仮病な事に、リザイアは気付いていた。
「まぁ、人さまの為ですし、本気になったシャミアさんは止められませんし……盗賊としては、命を盗まれた人々を放ってはおけませんしね」
 命を盗む事は、一流の盗賊としては恥ずべき事だから。
「盗まれたモノ、返していただきます」
 シャミアのリターニングダガーに合わせ、リザイアはハンドガンで一斉攻撃を試み。
「うわっ、何か砕け散ったよ!?」
「シャミアさん、多分それで正解です……続けましょう」
「……了解よ」
 二人はコンビネーション良く、バジリスクを狩っていく。
「……バジリスク共……貴様等、只では済まさんぞ」
「……クルード様」
 野太刀【銀閃華】を構えたクルード、その声にアイシアはビクリと身を固くした。
 いつも通りのクルードに見えた。ユニが倒れても、いつも通りの冷静さを保っていると思っていた。
 だが実はそうではなかったと、クルードはとてもとても怒っていたのだと、この時アイシアは気付かされた。
 そして、それを裏付けるように。
「……生憎と俺は怒っている……それに、早く貴様等を片付けてユニの所へ行かなければならない……手加減はしない……覚悟しろ! 侵掠する事火の如く! 冥狼流奥義! 【破狼爆炎陣】!」
 気合一閃、狼の形をした爆炎波がバジリスクの群れに襲いかかる。
「まだだ! 動く事雷霆の如し! 冥狼流奥義! 【驟雨狼雷斬】!」
 更に飛び上がりざま、上空から轟雷閃が放たれる。
「禍祓いが私の使命……あなた達の闇、私が祓います! 行きますよ……主より授かりし、断罪の剣! 出でよ……【聖剣デュランダル】!」
 遅れじと、アイシアもまた戦いながら、どこか胸が重く苦しかった。
 クルードに背を向けているのは、炎が怖いから。
 そして、ユニの為に戦うクルードを見たくなかったから。
(「こんな事を考えるのは不謹慎ですが……ユニ様が少しだけ、羨ましいです」)
「……何だ」
 と、ふとクルードの怪訝そうな声。
 思わず振り返ると、そこにはクルードしかいなかった。
 大半はクルードに倒されたとはいえ、さっきまで残っていたバジリスクがいなくなってしまっていた。
「一体どうして……?」
「……分からん……だが、これで……ユニは……」
 ホッとしたように瞬間、クルードの口元に淡い微笑がかすめた。
 それは僅か、本人でさえ意識していなかっただろう、もので。
 だからこそ余計に、アイシアの胸はざわめいたのだった。
 勿論、ユニが元気になるのを喜ぶ気持ちも確かにあったのだけれども。

「だぁぁぁぁぁっ、どけどけどけぃっ!」
「どうして陸斗殿は会う度に厄介事に巻き込まれているのだろう?」
 バジリスクの群れと闘う陸斗を見、藍澤 黎(あいざわ・れい)は思わず首を傾げてしまう。
 と、その後頭部をドツく者、あり。
「なんで今度も、自分からこないなことに巻き込まれてんや、このムッツリー! もっと周りを頼ったらどないやねんー!」
「れいちゃん、だいじょーぶ?」
 プリプリしながら仁王立ちしていたのはフィルラント・アッシュワース(ふぃるらんと・あっしゅ)、その隣で心配そうなのはエディラント・アッシュワース(えでぃらんと・あっしゅわーす)だ。
「む……何故怒っているのだ?」
「ん〜、それはフィルラにーちゃんがれいちゃんを心配してるからだと思うな」
「エディラ余計な事、言うんやない……ボクはただ、考えるより先に動くクセをどうにかしろと言いたいだけや」
 実は陸斗と黎はよく似ているのでは、と最近疑うフィルラントだった。
 陸斗もそうだが黎だって、先日倒れたばかりだというのに。
 その辺を全然気にしてないのが……こっちは心配なのに。
「……陸斗殿が」
 と、不意にヴァルフレード・イズルノシア(う゛ぁるふれーど・いずるのしあ)が言葉を発した。
「……何やら珍妙な事に」
 無口なヴァルフレードにしては珍しい事に、続けてだ。
 言われて見てみると確かに。
 エネルギー切れを起こしたのか、地面に突っ伏した陸斗がバジリスクの群れに突かれていたりした。
(「いや、アレはどちらかというと、じゃれられているのだろう。動物にまで陸斗殿は好かれておいでなんだろうさ」)
 と判断したヴァルフレードは一つ頷いた。
「……問題ない」
「問題大ありやろ?!」
「陸斗殿!」
「……まったく、何面白い事してるの」
 駆けよる黎、同様に陸斗に気付いた十倉 朱華が、何とかバジリスクを追い払い陸斗を引っ張り出す。
「あぁぁぁぁ、ヒールやヒール、ついでにキュアポイゾンもかけたる」
「うぁ、助かる」
「陸斗にーちゃん、辛そうだね?」
 オレも助けてあげるね♪、言ってエディラントはほっぺにチュー☆、した。
 アリスキッスなのだが。
「……不憫」
「え〜? 男にチューされてふびんって事? ひっどーーーい! ぐすん」
「いやいやいや、助かった。元気になった、ありがとな」
 頬を膨らませたエディラントは陸斗に言われ、途端元気を取り戻した。
「うん! みんなでここを乗り切る為にもオレ、がんばる!」
「僕も……バジリスクを倒せば良いんだよね? 陸斗くんは少し休んでて」
 エディラントに続き朱華も言い、剣を手にバジリスクを向かったのだった。
「ヤバい、危ない所だったぜ」
「そういえば陸斗殿」
 ホッと一息つき、黎は陸斗に尋ねた。気になっていたのだ。
「以前、キア殿が『陸斗殿が死ぬかも』と仰っていたが……キア殿とはどういう経緯で契約を?」
 問われ、陸斗は眉間に皺を寄せた。
「どういう経緯って……ん〜、『シャンバラを守る為に命張れる?』って聞かれたから『いいぜ』って答えた」
「……即答ですか」
「まぁ良く分からなかったけど、守りたいモノあるしな」
 ふっと笑んだ陸斗は直ぐに、だけどちょっと甘かったかもしれない、と呟いた。
「この世界も地球も大事だし守りたい。その気持ちは本当だ。だけど、世界と大事な奴が秤にかけられたら……正直どうしたらいいのか分からねぇ」
「それは雛子殿の事ですか?」
「なななっ、何でヒナ? いっいや、別にヒナってわけじゃないです事よ? ホントですじょ?」
「……何て丸分かりの動揺の仕方なんや。突っ込む気にもなれんで」
 脱力しながらフィルラント、黎もさすがに苦笑気味だ。
「……異変」
「陸斗くん!?」
 と、ヴァルフレードの呟きと朱華の驚きの声が上がった。
 見ると、先ほどまで陸斗を突いていたバジリスクの群れがキレイサッパリ消えていた。
「どうしたのだろうか?」
「朱華、とりあえずウィスタリアはもう大丈夫だと思う……保健室に行ってやれ」
「うん、分かったけど……陸斗くんは?」
「花壇に行く……嫌な予感がする」
「御一緒しよう」
 いつにも増して厳しい顔で立ち上がる陸斗、黎もまた気持ちを引き締めたのだった。



「クェンティナ無事?!」
 保健室に飛び込んだシャミアが見たのは、ベッドでぐったりとしたままのクェンティナの姿だった。
「あぁ……シャミア様、来て下さったのですね」
 らしくなく儚く微笑むクェンティナに、シャミアの胸がズキンと痛む。
「バジリスクがみんな急に消えたから、クェンティナも元気になったんじゃって思ってたのに」
「……他の皆さんは回復してますけどね」
 悔しげに唇を噛みしめるシャミアには、周囲を冷静に観察したリザイアのセリフは届かなかったようだ。
「唇は噛んではいけません。それは重ねる為にあるのですわ」
 こちらは敢えて聞こえないフリ、なクェンティナはシャミアの腕を掴むと、グイと引き寄せた。
「……あ」
 不意を突かれあっさりとキスを許したシャミナ、その反応を楽しむように更に深く口付ける。
「はうん……でも、これでクェンティナが助かるのなら」
「……騙されてます。そして、場所を考えて」
 頬を上気させるシャミアに思わず突っ込むリザイアだったが。
「あら、仲間外れになんてしないですわよ」
「ちょっ……どこを触って……ダメ止め……」
 盗賊としては恥ずかしい程にアッサリ唇を奪われてしまう。
「ここは保健室、イチャつくなら他所でやってが良かろう!」
 それは見かねたカナタがドカンと雷を落とすまで続いたのだった。


「……にゃにゃ、ヒナ?」
パム! 良かった」
「にゃにゃにゃ、おはようにゃ」
 保健室のあちこちで、歓喜の声が上がっていた。
「あの馬鹿……リュースを殴りに行かないと」
「グロリアったら、石化が解けたとはいえ、そんなに急に動いたら身体がビックリするわ」
「でも私、今すぐにでもリュース兄様に会いたいです」
「そうよね。私も早く真くんに無事な姿を見せたいわ」
 だが、喜び合う友達を微笑んで見ていたエヴァがふと、表情を引き締めた。
「これは……皆、心を強く持って下さい!」
 バジリスクが消滅したのだろう、生命力が戻り石化が解け。
 だが、今度は逆に何かが……昏い何かが心に侵入してこようとしていた。
「落ち着くのだ!」
 カナタが叫ぶが、混乱は止まらない。
 闇に呑まれた生徒は、回復を喜んでくれたパートナーや友達を突き飛ばし、何処かへ向かおうとし。
「……人形使い」
 青ざめた風間先生がポツリと呟いた。
「鏖殺寺院の中に……影使いとも人形使いとも呼ばれる者がいる、と聞いた事があります。まさか、これは……」
「風間先生、どうしたら……?」
「とにかく気をしっかり持って……とりあえず気絶させるのも良いかもしれません」
 望がノートを気絶させたのを見てから、風間先生はパムに手を振り払われた雛子へと、向かい。
「パム! 先生、パムが……」
「もし春川さんが犠牲になる事で、この事態が収束するとしたら、どうしますか?」
 意を決したように問いかけた。
「私が……?」
「以前、御柱さんが春川さんがこの世界と、封印の場を繋ぐもので、楔だと言っていたと聞きました。とすれば多分、雛子さんは扉とパートナー契約をしている状態なのだと思います」
 パートナーが死ねば、残された方も多大なダメージを被る。
「おそらく春川さんが命を捧げれば、扉が消える……封印の場とこの世界との道は断たれるはずです」
 そして、そうすれば災厄も止まる。
「風間先生!」
 ベアトリーチェが思わず声を荒げた。
 らしくなく、眼鏡の奥の瞳が非難の色をにじませる。
「教師のセリフとも思えませんね」
 気を抜けば意識を持って行かれそうな中、必死に抗いつつウィスタリアが雛子を抱き寄せるようにして、庇う。
「……確かに、僕は教師失格です。ですが、もうこれ以上、君達の苦しむ姿は見たくないんです」
 そして、風間先生は苦悩を振り払うように顔を上げ、宣告した。
「大切な生徒達をより多く救う事が出来るなら、僕は一人を……春川さんを犠牲にする事を選びます」