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着ぐるみ大戦争〜扉を開く者(第4回/全6回)

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着ぐるみ大戦争〜扉を開く者(第4回/全6回)

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第4章 ライト・スタッフ(正しい資質)

 さて、例によって訓練を続けている航空部隊である。JG301(第301駆逐戦闘航空団)の設立により、実戦配備が始まっている。訓練中の面々にも熱が入ろうと言うものだ。もっとも、状況は思わしくない。
 「それにしても、どうしたものかしらね」
 一ノ瀬 月実(いちのせ・つぐみ)は模擬弾の樽に腰掛けてそらを見ながら言った。
 「理想はワイヴァーンの頭を上げてもぶつからずに間に合う距離から投げて目標に届く事よね」
 アリシア・ミスティフォッグ(ありしあ・みすてぃふぉっぐ)も帽子を取って頭を掻いた。
 「とはいえ、速度が足りないと届かないし、速度上げると引き上げが間に合わない……。上空から急降下して二次曲線描いてその下方頂点で投げる……。結局引き起こしの距離が問題になるわね」
 「ああ、アリシア様が考えてらっしゃる……。珍しく」
 お付きの脱力系騎士、小鳥遊 律(たかなし・りつ)が容赦なく平坦な口調で述べる。
 「何よ、私はいつだって考えているわよ小鳥遊 律!」
 「で、アリシア様、燃えていらっしゃるのは結構ですが策は見つかったのですか?」
 「それが難しいから困ってるんでしょうが!」
 「まあまああなた、焦らずに、何か手はあると思いますし、意外と簡単の様に思います」
 一ノ瀬はなだめて回る。
 「例えば?」
 「樽にロープをつけて遠心力で飛ばす」
 「ワイヴァーンは足で振り回すのは無理よねぇ」
 「樽にパラシュートをつけて速度を落とす」
 「速度が落ちすぎて奥まで届かないわよねぇ」
 「やっぱり無理?」
 「いや、樽にロープやパラシュートをつけていけないとは言われていないわよぉ。そう言った工夫はOKだと思うのよ。でもそこから先が……」
 「洞窟の正面から加速、適度なところで翼をたたんで慣性で突っ込む、で樽を投げ込んで翼を開いて急ブレーキ、同時に横に折れて離脱」
 「翼をたたんで慣性で突っ込む段階で地面に激突ね、それと翼を開いてブレーキを掛けるんなら横に折れる余裕はないわよ」
 一ノ瀬のやり方では直線部分で翼をたたんだ段階で揚力はゼロになるので慣性で飛んでいる最中も重力によって下に落ちるベクトルが加わる。おそらく地面に接触して大怪我だ。
 「普通の急降下爆撃機と違うんだもん」
 通常、急降下爆撃機には急降下制動板(ダイヴ・ブレーキ)という物が翼についている。これを動かして急降下時に速度を一定にしながら攻撃するのであるが、ワイヴァーンの翼にはそんな物はつけられない。そのため、急降下爆撃時には敵前で翼を開いて減速し、同時に爆弾を離すことになる。この点がワイヴァーンと急降下爆撃機の違いになる。
 「アリシア様、小鳥遊は整備に尽力しております。樽に加工があれば承ります」
 「あ〜解ったわぁ」
 そんなわけで一ノ瀬とミスティフォッグは理論派であるが、実戦派もいる。
 「まっすぐに樽を投げ入れないと届かないのに直線に飛ぶと回避の問題がある……」
 月見里 渚(やまなし・なぎさ)は必死で宙返りの訓練を続けている。月見里は上空で成果を見せるつもりである。
 「いい子ね……落ち着いて、落ち着いて……」
 月見里が選んだワイヴァーンは一番おとなしそうなのを選んでいる。飛行機でいうなら安定性重視だ。一方で運動性は悪いと言っていいが、操縦がピーキーなのは初心者にはつらいところだ。確実さをとって選んだと言える。
 目標である洞窟の位置を確認。一気に急降下に入る。視線は目標手前から外さず見つめたまま落下、直前で翼を広げブレーキを掛け、そのままくるりと一回転して樽を放り投げる。
 「!」
 樽は洞窟に入ったがすぐに地面に落っこちてころころと転がった。
 旗が挙がり黒旗が提示される。失格である。月見里は急降下の勢いをそのまま利用して宙返りして放り込もうとしたが地面手前でブレーキを掛けなければならず、樽に乗せられる勢いのエネルギーは宙返りした分だけである。それでは届かない。
 次にメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が試みた。ポーターの場合は急降下して勢いをつけて投下後、横に逃げると言うものであった。
 「曲がったのですぅ〜」
 情けなさそうな声を上げる。ポーターの場合も洞窟に入るは入ったが横の壁にぶつかり、失格である。問題点は月見里と同じ。急降下する方法では直前で減速しなければならず結局樽にスピードがのらない。(よく考えれば解ることだが、急降下時は頭を下にして降下してくる。向きを変えるにはブレーキを掛けなければならない。つまり、投下よりブレーキが先である。投下してからブレーキを掛ける、というのはすべてアウトである。そのため、ワイヴァーンが自動的に回避行動に入ってしまう。従って投下したときにはすでに曲がっているので樽はまっすぐ飛ばない)
 「あ〜メイベルちゃん、駄目みたい〜」
 「困りましたね〜」
 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)は遠くい見える状況を見ていった。概ねパートナーは皆支援要員を行っている。現状でワイヴァーンの機数が少ないからだ。パイロットの方が多いくらいである。ポーターが駄目だとライトやアヴェーヌも困ってしまう。皆で支援要員をやることになりかねない。
 「それにしても、難しそうだよね」
 「出来ないことではないはずですのに」
 ライトはこの間からよく樽を運んだり転がしたりすることが多い。これは速やかに爆装を整えて連続出撃出来るようにするための訓練だ。要するにF1レースと同じように出撃時には素早く装備の交換などが出来るようにしておかなければならない。一方でアヴェーヌは通信・管制の訓練である。これには手旗信号なども含まれる。発進時に順番を指示したり、帰還時に位置を示したり、確認できる状況なら旗などを使った方が確実な場合もあるからだ。
 「私、応援団ではないのですが〜?」
 アヴェーヌは大きな旗を振り回したりさせられている。通信機は意外と通信手として使うのは難しい。不調の場合、原因は気象的な物なのか、何らかの阻害要因なのか、判断して対応しなければならない。電子機器の知識も必要なのでおっとりお姉さんには厳しいところだ。
 「応援ってミニスカートはいてボンボン振り回すと思ってましたのに」
 「それはチアガール」
 ややあきれてライトは首を振った。いわゆるパートナーの中には時代感覚が違う者が存在する。それは善し悪しだ。
 「それにしても機数は少ないので大変です」
 リズリット・モルゲンシュタイン(りずりっと・もるげんしゅたいん)もいまは手伝いをしている。最近、手榴弾をパチンコ?のような物で打ち出す特訓をしている。モルゲンシュタインとしては何とか襲撃機要員として役に立ちたいらしい。
 「ざっと十機に満たないのでどう見てもワイヴァーンよりパイロットの方が多いのです」
 「三機で一小隊だから三個小隊……九機ってことよね」
 「大体、パイロットになれるのは六人くらいですよ」
 「じゃあ、シートは後3,4人なのね?それは厳しいわあ」
 モモンガパイロットもいるので当然だ。九機全部が地球人というわけではない。
 「何人なれるのかな……」
 何度も投下が行われているが今の所成功しない。
 再び、一機交代して飛び立つ。その様子を見ていたのはミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)だ。ワイヴァーン用の切ったお肉をバケツに入れて運んでいるところだ。ワイヴァーンに限らず、生物を活用する場合飼育が大変である。
 「大丈夫かな……」
 さすがにコーミアも心配している。振り向くと、訓練用のワイヴァーンが休んでいる。肉の匂いをかぎつけ、早くくれ、早くくれ、とばかりに口を開けている。
 「ワイヴァーンの様子はどうだ?」
 そこに立っていたのは指揮官の角田 明弘(かどた・あきひろ)少佐である。
 「はい、大分慣れてきました」
 「それはいい。ワイヴァーンは世話が大変だからな。……まあ細かい部品を取り替えたりしなくていいのは助かるが」
 「それにしても……大丈夫でしょうか?」
 「ん」
 角田はコーミアの視線を追った。飛んでいるワイヴァーンは点に見える。
 「ああ、いま飛んでいるところか……。何とも言えないが、正直難しい部分もある」
 「でも、菅野はがんばっております」
 「それは解る……が、我々は戦場に行くのだ。未熟な者では死にに行く様なものでしかない。戦場である以上、死ぬことはあるかもしれないが我々とて犬死にをさせるつもりはない。それ故厳しくしなければならない」
 厳しいが現実である。
 「でも、みんな失敗している様ですし」
 「必ずしも当てさせることが目的ではない。我々が見ているのは単なる操縦技術ではない。パイロットが第301駆逐戦闘航空団の一員としての素質があるかどうか、やっていけるかどうか、それら全体を見ている」
 「素質……ですか?」
 「例えば、おそらくいずれは機銃などの装備をつけた『戦闘機型ワイヴァーン』が出てくるだろう。そして敵となる物も航空兵器を持ち出してくるかもしれない……。そこでもし、戦闘機が攻撃機を護衛して飛んでいくとする。敵の迎撃機を戦闘機が撃墜するわけだが、このとき、攻撃機をほったらかしにして迎撃し、敵もやっつけたが味方の攻撃機も多数撃墜されたとしたら、果たしてこのパイロットは優秀だろうか?それと、敵をやっつけられなかったが、味方の攻撃機の損害を押さえ、攻撃が成功した場合と比べてどうだろうか?航空部隊のパイロットは大きな思考・判断をとっさに行わねばならない状況が非常に多い、そう言った素質、航空部隊員としての『ライトスタッフ』があるかどうかを見ているのだ」

 上空に上がった菅野 葉月(すがの・はづき)はそこから一気に急降下に入った。
 「洞窟の奥に届くようにするにはいかに山なりの放物線を描くいて投下するか……」
 地面直前でブレーキを掛け、急上昇するその際に樽を放り投げるが、やはり、入り口にポテッと落ちて終わった。
 「ぬっへえ!」
 菅野の方法もポーターと実は全く同じである。急降下、急上昇をやるのにブレーキを掛ければ勢いが殺されて届かない、ブレーキを掛けずにやろうとすれば地面に激突しないためにはかなり手前で引き上げを開始し、直線で飛ばねばならない。

 結果的に総員全滅状態である。この件について、協議の結果、再試験を行うことになった。逆に言えば、こういう任務が発生した場合、航空部隊は手も足も出ないことになるからだ。
 「ふむ、却って力量に頼り切りの者が多いのかな?」
 角田は報告を見て呟いた。