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ホワイトバレンタイン

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 人気ジェットコースターの順番が回ってきて、桐生 ひな(きりゅう・ひな)のテンションは最高潮になった。
「さあ、次ですよ、緋音ちゃん♪」
「う、うん……」
 対して御堂 緋音(みどう・あかね)はとても緊張していた。
 絶叫マシン大好きなひなとは逆に、緋音はコーヒーカップとかメリーゴーランドとかゆったりしたものが好きなのだ。
 緊張した緋音を見て、ひなは緋音の手をぎゅっと握ってあげた。
「大丈夫ですよ〜。怖くなったら、私の手を握ってください。どんなに強く握っても大丈夫ですから」
「は、はい……で、でも……」
「ん?」
「怖いけれど、嫌いってわけじゃないから、大丈夫です」
 緋音がそう話すと、ひなはニコッと笑った。
「それじゃいっぱいドキドキしてくださいね」
 ジェットコースターに乗った2人は、上がっていくコースターに緋音はドキドキ、ひなはわくわくしながら落ちるのを待ち……。
「わあああーーーーー!」
「……………………!」
 声を上げて喜ぶひなと声も出ない緋音を乗せて、コースターはぐるんぐるんと回った。
 そして、コースターが終わると、くらくらっとした緋音の手をひなが取ってあげた。
「つかまってくださいですー」
「……あ、ありがとう……」
 ふらふらしながら緋音が立ち上がり、ひなとともに出口に向かった。
「それじゃ次は緋音ちゃんの行きたいところにしましょうー。どこがいいですか?」
「あ、いえ、ひなが何か気になるところがあるなら……」
「私の希望のはさっき乗りましたー。こういうときは順番こです」
 ぴっと立てた指で、ひなが緋音の頬をつんとつつく。
 緋音はちょっと照れながら、一つのアトラクションを指差した。
「それじゃその……ブランコで」
 のんびりと遊園地の中を眺められるブランコ系の乗り物を緋音が指差す。
「はい、それじゃいきましょうー!」
 緋音が自分の意見を言ってくれるのが嬉しいとでもいうように、ひなは緋音を連れてブランコに乗りにいった。

 好きなお昼ご飯を食べて、好きに乗り物に乗って……。
 ひなと研究機関で知り合った頃には想像もしなかったことだ。
 賑やかな遊園地を見て、緋音はある種の開放感を胸に感じていた。
「どうしましたー、緋音ちゃん」
 ひなに問いかけられ、緋音はひなの方を向く。
「いえ、こうやってひなと出かけるのは久しぶりでうれしいんです」
「そうですね〜、冒険とかはともかく、こうやって普通のお出かけってなかったですから」
「ええ。だから誘ってくれたことに感謝してるんですよ。今日はたくさん楽しみましょうね」
 緋音が柔らかな笑みを見せる。
 ひなは明るく人気者で積極的なタイプだ。
 友達が多く、時折、遠い存在になりそうで寂しいという気持ちが緋音にはあった。
 だから、こうやって2人でいられるときは楽しもうと緋音は思ったのだ。
「……緋音ちゃん?」
「はい?」
 答える緋音の腕を、ひなはぎゅっと取った。
「緋音ちゃんらぶなのですー、えへへ」
「……うれしいです、ひな」
 様々な思いを込めて、緋音が感謝の言葉を口にする。
「本当ですよー? 緋音ちゃんにはいつでも一番傍にいて欲しいのです。それを忘れないでくださいね」
「うん、忘れないです」
 ひなに見つめられ、腕を組まれ、緋音はちょっと恥ずかしい気持ちになった。
 この照れる気持ちが何なのか、自分でも分からない。
 でも。
「私もひなと一緒にいたいですよ」
 自分の気持ちがどんなものか判定できなくてもそれだけは間違いないから。
 緋音はその確信を得て、ひなと次のアトラクションに向かった。

 夜になった遊園地は、イルミネーションが輝き、とても綺麗だった。
「さあ、それじゃ、観覧車に乗りましょうか」
 ひなに手を引かれ、緋音は観覧車に乗った。
 この観覧車はパラミタでも有数の大きさの大観覧車で、しかも非常に動きが遅く、一周回るのに1時間かかるという名物観覧車だ。
「ゆっくりと景色を見ましょうね」
 観覧車に座ったひなが声をかけると、緋音はびくっとした。
「は、はい」
「? どうしたのですか? 緋音ちゃん」
 ひなは不思議そうだったが、緋音は実はそわそわしていたのだ。
(チョコ、いつ渡そう……)
 と思っていたので。
 しかし実はひなの方も地味に会ったときから、緋音がチョコをくれるのを待ち侘びていた。
(観覧車で緋音ちゃんくれるかな)
 そわそわしながら観覧車に乗ったひなは、緋音の動きに注目していた。
 そして、観覧車が少し上のほうにあがったときに、緋音が勇気を出してカバンからチョコを取り出した。
「……あ、あの、ひな」
「はい?」
「これ。作ってきたんですけど……」
 うまく言葉が出なかった緋音はそう言いながら、一口サイズの焼きチョコを渡した。
 ひなのために隠し味にほんの少し醤油が入っている。
 渡されたチョコにひなはうれしそうな笑顔を見せ、自分もカバンからチョコを取り出した。
「緋音ちゃん、実は私もチョコ持ってきてるのですよー」
 ひなが用意していたのは紅茶の香りのするチョコだった。
 料理をさせると超危険なタイプのひなは、それを自覚しているらしく、空京のデパートでチョコを買ってきていた。
「せっかくなんで食べましょうか!」
 ひながそう提案し、緋音はひなのチョコを、ひなは緋音のチョコを開けて、食べてみた。
「どう、ですか……?」
 手作りの緋音はちょっと心配そうにひなを見る。
「うん、おいしいです!」
 ニコッとひなが笑顔を向け、ひなも緋音に尋ねた。
「そのチョコ、どうですか?」
「おいしいです。とっても」
「それじゃ、私も味見したいですー」
「あ、じゃあ、ひなも一口……」
 緋音はひなにチョコを差し出そうとして、近づいてきたひなにキスをされ、チョコを落としそうになった。
「ん……」
 口の中をぺろぺろっとされ、緋音は頬を赤らめて目を閉じた。
 しばらくすると、ひなが唇を離し、ニコッとした。
「うん、おいしいですー」
「ひ、ひな……」
 顔を真っ赤にして、胸をドキドキさせる緋音を見て、ひなは自身もちょっと照れながら、緋音に囁いた。
「この観覧車長いですから、チョコを食べるたびにちゅーして一緒に味わいましょう」
 その言葉通り、2人は観覧車が終わるまでチョコレートと互いの唇を何回も味わったのだった。