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横山ミツエの演義乙(ゼット) 第1回/全4回

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横山ミツエの演義乙(ゼット) 第1回/全4回

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敵か味方か


 ミツエを賞金稼ぎなんかに捕らえられてたまるか!
 と、意気込んで荒野に繰り出したサレン・シルフィーユ(されん・しるふぃーゆ)だったが、ミツエレーダーを持っているわけでもないので、どこにいるかなんてわからない。
 だから、片っ端から検問に当たっていった。
「さっさとその女の子を放すっスよ!」
 ボカーン!
 と、音が聞こえそうなパンチで検問所で女の子を捕まえていたパラ実生をぶっ飛ばすサレン。
 今は『愛と正義のヒロイン・ラヴピース』に変身している。
「おっ、お前は前回ガイアのレールガンを阻止してたやつ!」
「それがどうしたっスか!」
「あぎゃっ」
 二人目が背負い投げの要領で遠くへ投げ飛ばされる。
「この野郎っ」
 いきり立ったパラ実生が銃を撃ってくるが、サレンは検問の看板を引き寄せて弾丸を防いだ。そしてその看板を盾にパラ実生へ迫り、それで叩き伏せた。
 相手が被っていたヘルメットに当たったのか、サレンの手がジーンとしびれた。
 残った数人のパラ実生は遠巻きに銃や刃物を構えている。
 サレンはポカンとしている女の子に近寄り、やさしく声をかけた。
「さ、今のうちに行くっス。……あれ、それは?」
「バイト……」
 偽者っぽい伝国璽を持つバイト?
 首を傾げるサレンだったが、女の子を行かせるほうを優先した。
 彼女が行った後、改めて周りを見渡したサレンに、おずおずと近づく一人がいた。
 後ろ手に何か持っている。
 警戒するサレンに少し距離をとって立ち止まった彼は、体を直角に曲げて何かを突き出した。
 そして必死の大声で言った。
「こここっ、こっ、ここにサインください!」
 ピリピリしていた空気は一瞬にして間抜けなものに変わった。

 ほぼ潰されたと言って良いようなこの検問所は、桐生 ひな(きりゅう・ひな)李厳 正方(りげん・せいほう)が通ったところだった。
 その二人はまだミツエを見つけられずに荒野を歩いていたが、そこにメールの着信音が鳴った。
「……! ひな殿、ミツエ殿の居場所がわかりましたぞ。急ぎ向かいましょう!」
 早口に言って李厳は馬上にひなを引き上げると手綱を任せ、武器も返した。
 メールを送ってきたナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)の伝えてきた場所へ、ひなは馬を走らせた。

卍卍卍


 その頃、横山ミツエいやほてやみつえ一行は何も知らずにイリヤ分校を目指していた。
 念のため街道をはずれて進んでいたのだが、後方からバイク音が接近してくることに気がついた。
 いっせいに武器を取り身構える一行。
 バイクの乗り手は大きく手を振り、何か叫んでいる。やがて聞こえてきた声は。
「待て! 敵じゃねぇ!」
 それでも警戒を解かずに待っていると、バイクは敵ではないことを示すように距離をおいて止まり、乗り手の顔がようやくはっきりした。
 そして彼は腰に差していた綾刀を足元に置くと、軽く両手をあげて名乗った。
「初めましてだ、俺は景山 悪徒(かげやま・あくと)。形式上はパラ実に所属している」
 何やら引っかかる自己紹介だが、みつえも護衛達も黙って聞いていた。
 続いて悪徒はポケットから何かのロゴがプリントされた携帯を見せる。
「そして、この機晶姫の向こうに繋がっているお方が、我らが大首領様」
「初めましてだな、ミツエとやら」
 携帯に見えて実は機晶姫だったそれが突然しゃべりだした。
 だが、その先は悠久ノ カナタ(とわの・かなた)によって遮られてしまう。
「待て。彼女はミツエではなくみつえじゃ。人違いじゃ」
「フン……噂に違わぬロリ体型……ゲフンッ、失礼。パラ実女子の制服にメガネ、三つ編、何よりその伝国璽! ミツエ以外の誰だと言うのだ?」
 どうやらこの機晶姫小型 大首領様(こがた・だいしゅりょうさま)は、諸葛涼 天華(しょかつりょう・てんか)が言っていた『一部のパラ実生』とは違うようだ。
 ミツエは観念して前に進み出た。悪徒に本当に敵意がないことは、彼の様子から見て取れた。
「あたしに何の用?」
「うむ、率直に言おう。我らと手を組め。貴様がどれだけの頭脳を持っていても、駒が存在しない今の貴様にできることなどたかが知れている。だから我は駒を提供しよう。ここにいる景山悪徒を」
 エッ、という小さな驚きの声が悪徒から漏れた。初耳だったのかもしれない。
 ミツエは胡散臭そうに悪徒と大首領様を見つめている。
「……あんた達、何者なの?」
 機晶姫から低い笑い声があった。
「ククク……我らは秘密結社ダイアーク。世界から争いをなくすため、世界を一つに統一することを目的とする組織だ」
「ふぅん……」
 悪徒は、中原制覇を志すミツエに、目指す場所は違えど目的は同じということで大首領様は彼女に肩入れしたくなったのではと考えた。
 動くのは悪徒だが。
「すっごく悪そうな名前だけど……」
 言いかけた時、今度は荒々しい馬の蹄の音が聞こえてきた。
 見れば、馬上の人物には見覚えがある。
「ここじゃここじゃー!」
 と、手を振るナリュキ。
 再会できた仲間にミツエも大きく手を振ろうとして──。
 ひなは足を緩めた馬から飛び降りると、そのままミツエへ駆け寄りグーで殴り上げた。
 ミツエの体が宙に舞う。外れたメガネも舞った。
 まさかの行動にその場にいた者達は呆気に取られた。
「一国の主がメガネで肩書きと己を偽るなど、愚の骨頂ではありませんかっ」
 落ちたミツエに跨り、肩を掴んで激しく揺さぶるひな。
 興奮しているひなは涙さえ浮かべて訴える。
「偉大な目標を成し遂げるためにも、心据わった行動をすべきですっ。策で配下が変装するのと、王が変装するのは意味が違うのですっ。威厳を持って真っ向勝負をしないと、勝機が逃げますですよ!」
 周りが何か言っているが、ひなの耳には届いていなかった。
 一通り吐き出して少しは落ち着いたのか、ひなはギュッとミツエを抱きしめて囁く。
「汚れた役は、私やナガンに任せればいいですから……」
「気絶しておるようじゃが」
 ようやく、耳に届いたナリュキの呟きに、ひなはハッとして腕の中のミツエに目を落とした。
 完全に目を回している。
「最初の一発でKOじゃにゃ」
「……!」

 その後、ミツエの意識が戻るとひなは顔を真っ赤にして謝り、今度は落ち着いて先ほどの言葉を繰り返したのだった。
 それから話の途中だった悪徒を見やり、
「途中までの道のりかもしれないけど、いいわよ。手を組みましょう!」
 ミツエは秘密結社ダイアークと協力関係を結んだ。