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イルミンスールの冒険Part2~精霊編~(第3回/全3回)

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イルミンスールの冒険Part2~精霊編~(第3回/全3回)

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●仲間を信じろ! 俺たちが精霊の、イルミンスールの盾となるんだ!

「グワアアアアアァァァァァ!!」

 世界樹イルミンスール上空から、闇に支配された『サイフィードの闇黒の精霊』ケイオースの咆哮が轟く。彼を取り巻くように『闇の僕』が渦巻き、それらは枝葉を伝い、学校や施設のある場所へと這い寄っていく。彼らが通った後は強酸をかけられたようにただれ、腐臭を漂わせていた。
「イルミンスールが泣いています……傷つけられたことによるものではなく、望まず多くのものを傷つけてしまっている、ケイオースさん、あなたのことを悲しんで……!」
 理性を失い暴れ回るケイオースを前に、三対の羽と両腕を大きく広げたミーミル・ワルプルギス(みーみる・わるぷるぎす)が臆することなく言い放つ。
「ケイオースさん、あなたをこれ以上傷つけないためにも、私は、ここであなたを止めます!」
 ミーミルの声にケイオースが咆哮で応え、そして両者は激しくぶつかり合う――。

「な、何なのよあれは!?」
 突如上空に現れた闇を纏った影、そして絶えず降り注ぐ闇を目の当たりにして、アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)が戸惑いの声をあげる。
「困りましたわ〜、あの闇が樹さんの精気を吸ってるみたいですわ〜。アリアさんも取り付かれないよう、気をつけてください〜」
 アリアに寄り添う形で、『ウインドリィの雷電の精霊』ファリアが『闇の僕』を指して言う。それが何であるかは分からずとも、大気の流れが彼女に『闇の僕』の影響を教えてくれるようであった。
「わ、分かったわ! ファリアさん、私から離れないで付いてきて!」
 アリアが武器を携え、ファリアを『闇の僕』から守るようにしながら、他に行動を起こしているであろう者たちとの合流を図る。状況は未だ把握出来ずとも、『守るべき対象がいる』という事実は、アリアに最善の判断と、それに基づく行動を起こさせていた。
「アリアさ〜ん、上から降ってきますよ〜」
 間延びした声のまま、ファリアが警告を発する。前に立ったアリアに、奇怪な音を立てながら『闇の僕』がゼリー状の振る舞いで立ちはだかる。
「ファリアさんは、私が守る! 邪を破る光よ!」
 構えたアリアの剣に光が宿り、それは『闇の僕』を貫く。貫かれた『闇の僕』は跡形もなく消え去り、傷つけられた枝だけが見て取れた。
「行くわよ!」
 再びファリアを連れて、アリアが駆け出す。そして程なく、やはり精霊を連れたイルミンスールの生徒とそのパートナーの姿が視界に入った。
「うわ、何だよアレ、気持ちわりぃ。それに何だか、嫌な感じだぜ……」
「大丈夫だ、キィル。オレが守ってやる」
 それまでの元気な態度を一変させて不安にうろたえる『ヴォルテールの炎熱の精霊』キィルへ、森崎 駿真(もりさき・しゅんま)が安心させるように声を飛ばす。
「駿真、仲間が来たみたいだよ。精霊も一緒だ」
 セイニー・フォーガレット(せいにー・ふぉーがれっと)が示す先に、アリアとファリアの姿が大きくなっていく。ファリアが駿真とセイニーにも、『闇の僕』の特徴を伝える。
「なるほど。つまり、上空に行く前に打ち落とすことができればいいわけだね。分かった、やってみよう」
「じゃ、オレはセイ兄のフォローに回るぜ。キィルはセイ兄の傍にいてくれ。何かある前にすぐ駆けつけてやるからな」
「ああ! おまえとなら大丈夫な気がしてきたぜ! 見てるしかできないのは辛いけど、頑張ってくれよな!」
 再び元気な態度を取り戻したキィルがセイニーのところへ駆け寄る。
(この笑顔……守らないといけないね)
 皆が笑顔で「お疲れ様」を、そして祭を終えられることを願いながら、セイニーが上空にいる『闇の僕』を、呼び出した神聖なる力をもって打ち落とさんとする。光を受けた『闇の僕』はその大半が蒸発するように消え去るが、一部が直撃を免れ飛び散るようにして地面に降り立つ。
(一体ずつ確実に……潰す!)
 対象を求めて這い進む『闇の僕』は、駿真の突き出したランスに身体を貫かれる。立体を形作っていた『闇の僕』は平面に、まるで氷が昇華するように消え去り、這い進んだ痕跡だけが後に残された。
「ファリア、私に知恵を貸して!」
「はい〜、わたしでよければ、どうぞ〜」
 ファリアが祈れば、アリアの構えた剣に、より強い電撃の力が蓄えられていく。
「雷の閃きよ!」
 極限まで蓄えられた力をアリアが解き放てば、白光の電撃が『闇の僕』を貫き、一瞬の間に痕跡だけを残して消滅させる。
 人間と精霊とが互いに手を取り合い、降りかかる脅威を払わんと奮戦していた。

(これではまるで絨毯爆撃ですね……祭会場には非戦闘員もいるはずです、そちらに落とさないようにしないと……)
 飛行に特化した状態の蘭華・ラートレア(らんか・らーとれあ)の背に乗って、浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)がケイオースから放たれていく『闇の僕』に狙いをつける。星の力を撃ち出すとされる銃から光が放たれ、それに包まれた『闇の僕』が蒸発するように消えていく。
「アリシア、聞こえますか? 次の落下予測が出ました、場所は……」
 撃ち落としきれなかった『闇の僕』の落下先を計算した蘭華が、地上で『クリスタリアの水の精霊』スワンを守るために避難しているアリシア・クリケット(ありしあ・くりけっと)に情報を伝える。彼女たちが安全に避難するためにも、上空で出来る限り『闇の僕』を間引く必要があるだろう。
「そこです!」
 順に放たれる『闇の僕』の先頭付近に、翡翠が重力を司る鎖を飛ばす。鎖は一つの『闇の僕』に絡まり、影響を受けて速度が落ちた『闇の僕』に、別の『闇の僕』が重なる。その機会を見逃さず、翡翠が鎖を回収すると同時に銃で二つとも撃ち抜く。
(よし……! 後は、ケイオースをこの鎖で引き摺り下ろせるなら……)
 さらに高い位置で戦闘を続けるミーミルとケイオースを見遣って、翡翠が蘭華に命じる。
「了解です、マスター。ボク頑張ります!」
 頷いた蘭華の加速ブースターが、二人を音速の世界へ導く。ケイオースに近づくにつれて爆撃の密度は増していくが、その合間を抜けて翡翠の投じた鎖が、ケイオースの脚と思しき箇所へ絡まる。
 さらに二本、三本と絡ませようとした矢先、それを気取ったケイオースが鎖を掴めば、翡翠は強い力で引っ張られる感覚を覚える。
(くっ!)
 危険を察知した翡翠が鎖を解放し、ケイオースと距離を取る。判断が一瞬遅れていれば、ブラックホールのようにケイオースに取り込まれてしまったかもしれない。
(ケイオースに手を出すのは、この意味でも控えた方がいいですね。……ならば!)
 翡翠が再び蘭華に命じ、放たれた『闇の僕』を追う。これが今は、最もミーミルの援護になり得るのだと信じて。

「アヤ、ユーニスさんは他の方と一緒に行ったようです」
 知り合った『ウインドリィの雷電の精霊』ユーニスを避難させていたクリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)が、神和 綺人(かんなぎ・あやと)のところに戻って報告をする。
「分かった。……後は僕たちが、精霊の盾になろう。絶対に、守ってみせる!」
 刀を手にした綺人の表情は、それまでのどこか可愛らしいものから、凛とした鋭いものへと変わって見えていた。
「……状況は一気に緊迫したな。綺人、クリス、無理はするな」
 ユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)が二人に注意を促し、加護の力を施す。ユーリに頷いた綺人とクリスの前に、いくつかの『闇の僕』が落ちて形を作る。
(ユーニスさんに教えてもらったこと……大気の流れを意識しろ……始めと終わりの点を意識しろ……)
 すっ、と目を細め、綺人が雷術の詠唱に入る。別れる前に雷術のアドバイスを尋ねた綺人に対して、ユーニスが告げた言葉は。
『お役に立てるかは分かりませんけど、始まりと終わり、そして流れを意識してください。現象には全て、始まりがあって、流れがあって、終わりがあります』
 『どこから』『どのように』『どうする』を明確にすることで、現象は実現力を増す。現象を具現化する魔法こそ、これらのイメージを明確にする必要があるといっても過言ではない。
(……見えた!)
 詠唱を完了した綺人の掌に、雷の種が生み出される。それは綺人のイメージ通りに生み出され、空間を走り、『闇の僕』を的確に貫いて消える。そして貫かれた『闇の僕』は溶けるようにして姿をなくしていった。
 残った『闇の僕』は臆するということを知らず、精気を取り込まんと一行に襲いかかる。身体を変形させて這い寄り、体の一部を飛ばしてくるモノもいた。
「アヤも、そしてイルミンスールも、私が全力で守らせて頂きます!」
 綺人の前に躍り出たクリスが、飛んできた闇の塊を盾で防ぎ、近づいてきた『闇の僕』を切り伏せる。二回の斬撃で四等分された『闇の僕』は辺りに飛び散り、もはや再生することもなく溶け消え、痕跡だけを遺す。
「……帰る場所を守るための戦い……できることはしようか」
 精気をその身に含んだ『闇の僕』は、上空に戻る前にユーリの放った光に包まれ、役目を果たすことなく消えていく。
(今の自分のすべてを、この剣に!)
 綺人の構えた刀に、電撃が宿る。今ここで行動を起こしていること、それがもたらす先のことを意識しながら、一行の戦いは続いていく――。

 校舎まで距離を残した状態で、アリシアとスワン、途中で合流したユーニスは『闇の僕』に進路を塞がれていた。
「あぅ、ど、どうしよう〜……」
 這い寄る『闇の僕』に怯えた声をあげつつも、背中で未だスヤスヤと寝息を立てるスワンの温もりが、竦む身体に再び動くだけの力を与えてくれる。
「おまえたち、こっちだ!」
 声に一行が振り向けば、天城 一輝(あまぎ・いっき)がその背後にある、枝と枝が重なり合って出来た空間に非戦闘員を誘導していた。指示の通りにアリシアとスワン、ユーニスが飛び込んだ先は、ぼんやりとした灯りの中、他にも避難してきた精霊が不安を抱えつつも、それを表に出さず静かに事態の推移を見守っていた。
「ひとまず避難は終わったか? 後は、ここを死守するだけだ」
 呟いた一輝の耳に、ローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)コレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)の報告が届く。
「バイクの整備が済んだわ。これで一時的にだけど、バックもできるはずよ」
 一息ついたコレットが指す先では、ローザがバイクのアクセルをふかして前に進み、バイクの通り道として掘った溝の端まで来たところでギヤを、本来は用意されていなかった位置に合わせてアクセルをふかせば、バイクが後ろに進む。
「貴様、早く乗るのですわ。敵はもうすぐそこまで来ているのですわ」
 掘った溝の分の土を盛った先に、複数の『闇の僕』の姿を確認して、ローザが一輝を急かす。
「分かっている! ……リンネ様が無事に事を成せば、全てが元に戻る。それまでの辛抱だ」
 中に避難している精霊たちに言い残して、一輝がバイクに備え付けられたサイドカーに乗り込む。それは即席の機銃座となっていて、シールドの間から一輝も『闇の僕』の姿を確認する。
(ここだけは、何としても死守する!)
 射程内に這い寄ってきた『闇の僕』へ、一輝が弾丸を見舞う。ゼリー状の身体を火薬の推進力を受け取った金属片が撃ち抜き、中身を飛び散らせた『闇の僕』が動きを止め、地面に吸収されるように消えていく。
「運転は任せたぞ、ローザ!」
「貴様に言われなくとも、やってみせますわ」
 ローザがバイクを巧みに操作し、最も効率のいい場所に一輝のサイドカーを誘導し、時には飛んでくる闇の気を避けさせる。
「銃が壊れたら、予備を用意するよ! 弾には限りがあるから、無駄使いしないでね!」
 コレットの言葉に頷きを返して、一輝が『闇の僕』を近づけまいと銃の引き金を引く。
 皆が力を合わせて、精霊を守るという一つの目的のために行動していた――。

 『闇の僕』は、ケイオースがいる位置から放射状に侵攻を拡大している。
 前線で奮闘するものはより中心に、それを援護するものはそれより外側に位置しながら、それぞれの目的を果たすために力を振るっていた。
「ここまで来られちゃ、戦わないわけにはいかないわよね。あの黒いのを倒して、前線に向かうわよ」
 イルミンスールの最も外側の位置に、駆けつけてきた四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)が姿を現す。それまで行動を共にしていた精霊はシィリアン・イングロール(しぃりあん・いんぐろーる)の家に避難してもらっているが、万が一イルミンスールが占拠されてしまえば、その者たちの身も危うくなる。
 後に続いてきたエラノール・シュレイク(えらのーる・しゅれいく)フィア・ケレブノア(ふぃあ・けれぶのあ)が応えるのを確認して、一行は進軍を開始する。中心に進むに従って、戦闘の残滓があちらこちらで見られるようになってきた。細い枝の一部が腐ったように朽ち、今にも折れかかっていたり、鼻につく腐臭とも言い難い、気分を悪くさせる臭いが立ち込める中を進んでいく一行の前に、塊から分離した『闇の僕』が障害として現れる。
「見た感じ、直接触れるとヤバそうよねぇ。……じゃ、こうしてみようかしら」
 敵を前に、唯乃が身に付けた鉄甲の甲の部分に、魔力を込めた光を集めて刃を作り、固定する。
「唯乃を援護するのですよ! フィア、この近くに精霊はいますか?」
「検索します……周囲にそれらしい姿はありません」
 バイザーで周囲をスキャンしたフィアが、状況を報告する。
「とっとと倒して、先に進むわよ!」
 唯乃が背後の二人に言葉を投げて、爆発的な加速をもって『闇の僕』の集団に飛び込んでいく。迫り来る闇を避け、鉄甲の一撃を打ち込み、飛び散る闇をバックステップで避けて、再び飛び込む。小柄であるが故に小回りの利く動きは、『闇の僕』が追随出来るものではなかった。
 それが分かったのか、『闇の僕』が照準をエラノールに切り替え、自らの一部を飛ばす。放物線を描いて幾多の闇が、エラノールと傍にいたフィアを襲う――。
「唯乃とエルが製作したこの装甲を、一番上手く使いこなせるのは私なのですよ?」
 不敵に微笑んで、フィアが腕に装備していた『マジッチェパンツァー』を前に突き出せば、そこから淡い光を放つ三角形のフィールドが生み出され、それは闇の塊をことごとく弾いて無力化する。魔力障壁発生装置として考案された当時の機能を再現することが出来たのは、ひとえに考案者がいたことに他ならない。
「フィア、もう一つ協力、お願いできますか?」
 言ってエラノールが、機工士の技術でフィアの原動力となっている機晶石から放射されるエネルギーを、電力に変換する。生み出された電気エネルギーはエラノールの術で電撃として滞留され、そして構えた銃に電撃が付与される。
「必殺、えっと……とりあえず名前絶賛募集中!!」
 銃の引き金が引かれると同時、電撃を纏った光が放たれ、予め上空に逃れていた唯乃の真下を通過し、『闇の僕』を複数巻き込んで撃ち抜き、蒸発させる。
「エル、いい名前が思いつきました。スターライトブレイ――」
「それ危ない気がするから却下!」
 フィアの提案は唯乃に即刻却下される。だが『スター』で『ライトニング』で『ブレイク』なのだから、あながち間違いとも言えないが。
「名前のことは置いといて、行くわよ!」
「ああっ、唯乃、待ってなのですー」
 駆ける唯乃をエラノールが慌てて追い、付いていくフィアはまだ必殺技の名前を考えていた。

「こんな無粋な代物をつれて精霊祭に乱入してくるなんて――」
「――ほんと、失礼しちゃうわね!」
 普段は何かと張り合うことの多いフィオナ・クロスフィールド(ふぃおな・くろすふぃーるど)葛城 沙耶(かつらぎ・さや)が、今回ばかりは邪魔をしてきた『闇の僕』に怒りをぶちまけていた。
(うわ〜、二人とも本気で怒ってるよ……)
 そんな二人を遠巻きに眺めていたアンドリュー・カー(あんどりゅー・かー)が、頼もしくも危なっかしい二人に微笑を浮かべる。
(ここは僕がフォローに入らないとね。フィオにも沙耶にも、ケガしてほしくないし)
 よし、と頷いて、アンドリューがまず沙耶へ向かって駆け出す。
「兄様とのいい雰囲気を害してくれましたね! 燃え尽きなさい!」
 怒りのままに、両の掌に火種を浮かび上がらせた沙耶が、片方ずつ火の玉を『闇の僕』目がけて放る。次々と爆風が生じるが、しかし単体狙いであったためさしたる成果は上がっていない。
「逃がしませんわよ――」
「沙耶、落ち着くんだ」
 三発目、四発目と続けて放りかけた沙耶の頭を、アンドリューがこつん、と小突く。
「いたっ、誰ですか頭を叩いたの……って兄様!?」
 アンドリューの姿を認めた沙耶が、慌てて手を後ろに隠す。
「これはそのえっと……」
「とにかく落ち着くんだ。冷静にならなければ、出来ることも出来なくなってしまう。……次はフィオを宥めなくちゃ。一緒に来てくれるかい?」
「は、はい! 兄様の頼みとあれば、どこまでもお供しますわ」
 沙耶を連れてフィオナのところへ向かったアンドリューが見たのは、身体に見合わぬ巨大なハンマーを無為に振り回すフィオナの姿であった。
「せっかくアンドリューさんにいい所を、でしたのに……! 邪魔するようでしたら粉砕して差し上げます!」
 大振りな一撃が『闇の僕』を掠めるが、致命傷を与えるには至らない。
「あぁぁ、あたしもあんな風だったと思い返すと、恥ずかしいですわ……」
 フィオナに自分の姿を重ねた沙耶が恥じらう横で、アンドリューはフィオナに迫る危機をいち早く察していた。『闇の僕』の集団がフィオナの背後へと迫っていたのだ。
「沙耶、援護を頼むよ!」
「えっ、あ、は、はい!」
 フィオナへ向けて駆け出すアンドリューの言葉通りに、沙耶が掌に火種を生み出し、炎の玉と化したそれを放る。炸裂した炎で数を減らした『闇の僕』に連撃を叩き込み、脅威を取り除いたアンドリューが、フィオナのところへ辿り着く。
「こら、フィオナ!」
「あっ、アンドリューさん……」
 アンドリューの声で我に返ったフィオナが、手を止めてアンドリューと視線を合わせていると、すっ、とアンドリューの掌がフィオナの頭を撫でる。
「落ち着いたかい?」
「……はい、ごめんなさい、アンドリューさん」
 撫でられる感覚にくすぐったさを覚えながら、フィオナが頷く。
「兄様! フィオナさん! 敵がすぐ近くまで来てますわよ!」
 沙耶の呼び掛けに二人が振り向けば、新たな集団が迫っていた。
「よし、反撃開始だ! フィオ、沙耶、いいね?」
「はい! 今度こそ私に任せてください!」
「もう、さっきのような真似はいたしませんわ!」
 連携を取り戻した三人が、『闇の僕』と一戦を交える。

 精霊を守る、イルミンスールを守る。
 一致した一つの想いが、戦い勇む彼らに不滅の力を与えているようであった。