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精霊と人間の歩む道~凍結せし氷雪の洞穴~ 後編

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精霊と人間の歩む道~凍結せし氷雪の洞穴~ 後編

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 生徒たちの攻撃は着々と成功するが、だからといって『力』の攻撃が収まったわけではない。絶えず生み出される氷柱が絨毯爆撃のように地面に降り注ぎ、太い氷柱から放射される冷気は、直撃を受けた生徒を尽く氷像と化していた。
「もー! だからあたしは帰ろーって言ったのにー!」
 壁の向こうから響いてくる無数の破砕音と衝撃に、隠れていたサフィ・ゼラズニイ(さふぃ・ぜらずにい)が文句を言いつつ頭を抱えてやり過ごす。真上からの攻撃が無くなった分、不意打ちを受けることはないにせよ、投射量が半端ないのでうっかり頭を上げようものならそこを撃ち抜かれてジ・エンド、である。
「クライス君達は意気揚々と向かってっちゃうし……こうなったら早く終わらせてよねー」
 『力』が顕現するや否や、クライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)ローレンス・ハワード(ろーれんす・はわーど)ジィーン・ギルワルド(じぃーん・ぎるわるど)の三名は意気勇んで向かっていってしまった。
「クライス、ジィーン、今こそ騎士の本懐を遂げる時だ! 私達も協力するぞ!」
「こいつは、仕留めがいがありそうだな。こいつを倒せれば騎士ポイント+10ってところか」
「仲間を護るため、種族の壁さえ超えて協力し合う人の強さ……貴方に見せてあげます!」
 それぞれ意思を胸に、飛び出していった三人。
(ま、クライス君なら、負けることはないでしょ。もしどうにもならなくなったら、その時は助けに行けばいいわよね)
 サフィがそうしている前方では、クライス以下三名が連携を取りながら、垂直に伸びる氷柱の一つへ目標を定め、進撃を続けていた。
「来るぞ、二人とも離れろ!」
 ローレンスの警告が飛び、クライスとジィーンが迷うことなく遮蔽物に飛び込み、飛び荒ぶ氷柱や冷気の筋を回避する。
「……ふむ、攻撃は通っているはずだが、弱った気配を見せないな。もう少しそういうのが見えれば、気合も入るってもんだが」
 様子を伺おうとしたところで、ジィーンの鼻先を掠めて氷柱が飛び過ぎる。どうやらまだまだ、敵は衰えを見せていないようである。
「だけど、端の方は攻撃が弱まってる。あの垂直に伸びる氷柱には目がある、それを倒せば弱まっていくはずだよ」
 クライスの視界には、氷柱に攻撃を打ち込み、活動を停止させた者の姿が映る。騎士として、彼らに遅れをとるわけには行かない。
 敵の応射が止んだ。ここから『力』の氷柱までは、主な遮蔽物が見当たらない。
(危険は承知で……行くしかない!)
 クライスがローレンス、ジィーンに視線を送る。主人の意図を汲み、頷く二人。
「……行きます!」
 合図とともにクライス、ローレンスが爆発的な加速力で飛び出し、一気に垂直に伸びる氷柱へ取り付く。周りで崩れた氷柱も使って『目』へ突き進む二人を援護するべく、ジィーンは三日月型の刃に炎を纏わせ、力任せに振り回す。
「こっちへ来な! まとめて相手してやるぜ」
 挑発するようなジィーンへ、ならばとばかりに複数の氷柱が向けられる。それに対してジィーンは、武器を片手で高々と掲げ、真正面から氷柱を迎える。
「ぉおおおおおっ!」
 力任せの一撃が振り下ろされ、生じた爆炎が氷柱を巻き込み、吹き飛ばす。余波は『力』にも熱量と振動をもたらし、攻撃の手が一瞬緩む。
「クライス!」
「ローレンス!」
 クライスとローレンス、二人が息を合わせ、氷柱を蹴って飛び上がる。
「貴様のもたらす破壊も、恐怖も、新たなる国には必要ない。悪いが、ここで消えてもらう」
 ローレンスの放った爆炎が、『目』を包み込む。そこへ、クライスの繰り出した剣が突き刺さった。
「人の強さ……その目に焼き付けて下さい!」
 生じた炎が『目』を突き抜け、大きな衝撃が『力』を揺らす。

「メイルーンも大きかったけど……う〜ん、これも大きいねえ。でもこれを倒さないと、全ての異常が解決しないんだよね?」
「そのようですね。レライアさんも取り込まれているようですし、行きましょう、アヤ」
 『力』の全貌を見上げて声を漏らす神和 綺人(かんなぎ・あやと)の隣に、クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)が立つ。
「このような相手、正直一人では逃げ出していただろうな。……だが、ここには仲間がいる。皆で力を合わせれば、この強大な存在も倒せるだろう」
「わたくしたちの力は微力かもしれません。しかし、力を合わせれば、きっと、打ち砕くことができるはずです」
 そこへユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)神和 瀬織(かんなぎ・せお)が加わり、皆の言葉に綺人が力強く頷く。
「そうだね! 皆と一緒なら大丈夫! 僕たちは……あの横に伸びてる細い氷柱を狙ってみよう」
 綺人が指したのは、垂直に伸びる方ではなく、平行に伸びる方の氷柱。
「あれを壊すことが出来れば、飛んでくる氷柱の量を減らせるはず。そうすれば、『目』を攻撃する人たちの体力を温存できるよね。……クリス、お互い攻撃、頑張ろうね」
「大丈夫です! 壊すのは大得意です! 任せてくださいね!」
「……俺の気のせいだろうか? クリスが妙に生き生きしているように見えるのだが……」
「大丈夫です、わたくしにも見えます。……問題ないでしょう、いくらクリスといえどまさか氷像と化した者まで粉砕することは……ないと信じたいです」
 まるでツヤツヤとした様子のクリスに、ユーリと瀬織が一抹の不安を感じて苦笑を浮かべる。
「ユーリと瀬織は、援護よろしくね。……大丈夫だよ、クリスは戦闘は得意だから」
 二人の話が聞こえていたのか、綺人が二人に話しかけながら目配せする。一人蚊帳の外となったクリスは今か今かとその時を待ちわびている様子であった。
「……うん、じゃあ、戦闘開始!」
 綺人の号令で、ユーリに加護の力をもらった綺人とクリスが、爆発的な加速力で太い氷柱の間、細い氷柱の前へと向かっていく。
(このわたくしが畏怖を感じるほどの強大な存在……ですが、負けるわけにはいきません!)
 瀬織の口から禁忌の言葉が紡がれ、それによって高められた魔力を行使して、瀬織は二つの火球を生み出す。それを『力』にではなく綺人とクリスへ投じれば、それは二人の周囲を式神のようにくるくると飛ぶ。
(戦場では、諦めないで最後まで立っている者が勝者……兄さん、兄さんの言葉、力にさせてもらうよ)
 綺人の抜いた刀に、炎が宿る。そこへ飛び回っていた火球が加わり、激しい炎を噴き上げさせる。
「はああああああ!!」
 一足先に、クリスが刃の先に炎を宿らせ、大きく振りかぶってからの一撃を振り下ろす。
 炎が、斬撃が氷柱を溶かし、打ち砕く。遅れまいと、綺人も刀を両手で上段に構え、一息に振り抜く。
 生じた爆炎は、クリスの一撃で脆くなっていた氷柱をまとめて崩し、そこからそれ以上氷柱を生み出すのを阻止することに成功する。

 別の攻撃正面では、飛び交う氷柱と冷気放射の混合攻撃により、生徒たちの被害が拡大しつつあった。氷柱を避けたところへ冷気放射の直撃を受け、空中で氷像と化した生徒が地面に激突する前に、本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)の施した癒しの力が衝撃で粉々になるのを防ぐ。戦線がギリギリのところで崩壊していないのは、得意とする支援・回復魔法を行使して生徒たちをバックアップする涼介の存在があったからに他ならない。
(回復のタイミングを誤れば、即座にチームの崩壊に繋がる……熱くなるな、冷静にいこう)
 ある程度の損害が出るのは止むを得なくても、損害が致命的にさえならなければ、戦力は回復ができる。攻撃を受けても、追撃で大きな損害を受ける前に回復ができるよう、涼介は自らに冷静であるよう言い聞かせながら行動する。
(おにいちゃんも頑張ってるんだ、私だって……!)
 涼介の前方では、クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)が遮蔽物の影に身を潜め、敵の応射が止むのを待つ。握り締めた槍から汗が垂れ落ちたところで、応射が止み、一斉攻撃の合図が飛ぶ。
 生徒たちがそれぞれ攻撃に飛び出す中、クレアも爆発的な加速力で飛び出し、途中の崩された氷柱を足場に、垂直に伸びる氷柱の先にある『目』へ向かっていく。すぐに無数の氷柱が発射されるが、そのいくつかは後方から飛んできた炎弾と衝突し、砕け散る。涼介の呼びかけで放たれた援護の魔法が、絶妙なタイミングで突撃する生徒たちを推し進める。
「いっけーーー!」
 地面を蹴って、クレアの身体が跳び上がる。穂先から噴き出す炎を、視線の先の『目』を貫くようにぶつければ、思い通りに炎は『力』の『目』を貫き、光が消えると共に氷柱の活動が停止していく。
 彼らの働きにより、執拗な防御射撃のように繰り出されていた氷柱の数が減り、生徒たちは『目』潰しに全力を割けるようになっていった。