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パラ実占領計画 第1回/全4回

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パラ実占領計画 第1回/全4回

リアクション



首領・鬼鳳帝に行こう!


 噂の首領・鬼鳳帝に行ってみよう、と高木 圭一(たかぎ・けいいち)竹芝 千佳(たけしば・ちか)は連れ立って家を出た。
「うわーっ、凄いね、凄いね! 商品がいっぱいだよ! 何でもあるよ!」
 目をキラキラさせて、溢れんばかりの品々に飛び跳ねるように興奮するイリオモテヤマネコのゆる族である千佳。
 店長のミゲル・デ・セルバンテスの爆縮陳列により、天井に届きそうなほどの高さにある商品は、小柄な千佳には見えなくてピョンピョン飛び跳ねていた。
 と、そこに店員のペンギンゆる族が脚立を持って来た。
「これに乗ってください」
「ありがとう」
 ごゆっくりどうぞ、と立ち去っていくペンギン。
 見送った圭一は、脚立に乗った千佳を見上げ、それから店内をぐるりと見回した──とはいえ、迷路のようになっているため商品の壁しか見えなかったが。
 地球にも、よく似たチェーン店があったなと思い出す。
 行き先は千佳に任せて、圭一ははしゃぐ彼女を見失わないように注意しながら、自分の知る地球の商品とここの商品とを比較していった。
「ふ〜ん……」
 店にケチをつけに来たわけではないので口には出さないが、よく見れば商品棚の作りはどことなく粗末で商品の種類も多いようでそれほどでもない。
 この手の店に行き慣れた地球人から見たら荒が目に付くが、周りのキマクの住人と思われる人々を見ればわかるように、彼らからすれば革命的な店舗の出現なのだろう。
 とはいえ、これでキマク商店街が寂れてしまうのはな……と、圭一が商品を見ながら思っていると、
「どうしたの? それ欲しいの? じゃあ追加だねっ」
 パッと千佳が圭一の手から眺めていた品を取り、買い物籠に入れた。
 ふと視線を下ろせば、千佳の買い物籠にはすでに山のような品々が。
「いつの間にっ。そんなに買う金ないぞ。もう少し減らしてくれ」
 言いつつ圭一はたったいま籠に入れられた商品を元の場所に戻した。
「え〜、たまにはパーッと買おうよ」
「このおしゃぶりを今さら何に使うのか答えたら考えてやる」
 籠の中の商品を確認していた圭一が胡乱な目で千佳にそれを突き出すと、彼女は「えへへ」とごまかし笑いを浮かべるのだった。
 まったくもう、とため息を吐きながら買っても良さそうなものを選別し、懲りない千佳の後を追う。
 途中、ペンギン店員の指導を受けている新人の姿を見かけた。

 バイト希望の理由に「お金が欲しいから」と率直に言ったら採用された志方 綾乃(しかた・あやの)は、ペンギンゆる族の先輩店員に仕事のあれこれの指導を受けていた。
 相手がかわいいゆる族だからと言って、綾乃の態度が砕けたものになることはなかった。
 謙虚に真面目に積極的に話しを聞いていた。
 それがペンギン先輩の自尊心をくすぐったのか、綾乃の飲み込みが良かったからなのか、彼は上機嫌だった。
「それじゃ、さっそくこの籠の商品に値札つけて並べてくれ。オレはすぐそこにいるから、わかんないことあったら聞いてくれよ」
「はい、わかりました」
 綾乃は籠に山積みの商品を笑顔で引き受けた。
 ヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)クリスティ・エンマリッジ(くりすてぃ・えんまりっじ)もまた、バイトに雇われた。クレオパトラ・フィロパトル(くれおぱとら・ふぃろぱとる)は働くには年齢が幼すぎたので、二人にくっついてお手伝いという位置で同行を許可された。
 ヴェルチェはE級四天王だったため、店の外で警備にあたっているハスターにバイト希望を申し出た時は思い切り警戒されもしたが、
「逆らう気はないのよ。むしろハスター傘下に入りたいくらいなの♪」
 と、丸腰で来たことをアピールすれば店長代理に取り次いでくれたのだ。
 店長代理を任されていたのは、どう見てもカタギには見えない男だった。
 彼に「四天王がウチの配下につくのか」といきなり冷笑を受けたヴェルチェだったが、心の中はまったく表に出さずにどこにでもいそうなパラ実女子を装って答えた。
「あたし達にとって重要なことって、喧嘩がどれだけ強いかってことなのよ。だから、四天王を次々倒してるっていうここのアタマ張ってるオトコには興味あるし〜、あわよくば恋人になりたいし〜」
 店長代理の口元にあった冷笑が苦笑に変わった。
 年頃の女子はどこも同じか、と言いたそうな顔だ。
 そんなわけで即採用された。
 もっと警戒されても良さそうなものなのにあっさり通ったのは、武装万引き団による襲撃により店員の辞職が激しいせいなのだが、このことはヴェルチェはまだ知らない。
 そして、綾乃と同じようにペンギンの先輩から一通りの指導を受けたヴェルチェ達は、与えられた持ち場でさっそく仕事に取り掛かる。
 値段表を渡され、値下げを頼まれたヴェルチェが鼻歌混じりに仕事に精を出す姿に、クレオパトラは悶々としていた。
(戦わずしてこやつらの軍門に下るなど……ヴェルチェめ、何を考えておる。ちぃまぁ如き輩、何ほどのことがあろう! クリスティは頼りにならぬし……ぶつぶつ)
 と、いった具合だ。
 けれど、クレオパトラはすぐに気持ちを切り替えて、ハスターがどうやって四天王狩りをしているのかという方向に考えを巡らせた。
(いくら契約者とはいえ、キマクの野生人共にそう簡単に勝てるとは思えぬ……)
 クレオパトラはハッとあることに思い至り、天井を見上げた。

♪怒怒怒 首領鬼ー♪ 首領・鬼鳳帝♪

「これじゃ!」
 突然声を上げたクレオパトラに、ヴェルチェとクリスティが目を丸くして振り向く。
「この歌が呪術的効果をもたらしハスター共の力を高めておるに違いない!」
「……何の話?」
 首を傾げるヴェルチェに、クレオパトラはハスターが自信を持って四天王狩りに出向く理由についての考えを語った。
 ヴェルチェとクリスティは天井のスピーカーから流れてくる変な歌に耳を澄ます。
「あたしは地球人だけど、何かの効果があった気はしないわねぇ」
 クリスティも戸惑っているようだ。
「むぅ……」
 と、そこにちょうど良く店内警備についているハスターが通りかかった。
 クレオパトラは彼を捕まえて、このBGMについて尋ねた。
「さぁ? 店長が用意した曲だからなぁ……」
 下っ端にはわからないようだ。
 今度はヴェルチェが男に話しかける。
「ねぇ、その店長ってここのオーナー? どんなオンナが好みなの? 店長のパートナーの蓮田レンさんとか〜」
「お、おい……仕事しろよ」
「するわよ。ただちょっと知りたくて……」
 ダメ? と甘えたように尋ねるヴェルチェに、彼はため息をつくとそれでも知る範囲で教えてくれた。女の子に甘い性格だったようだ。
「あんたの言うとおりオーナーは店長のミゲルさんだけど、あの人、ラテン系の女が好きだって聞いたことあったな。やっぱ出身地が関係してんのかね。レンさんは……よくわかんね。特にあの人が求めなくても女のほうから寄ってきてたからなぁ。その中でも特別ってのはいなかったし。理想が高いのか、今はこのパラ実制覇に夢中なのか」
 それを聞いてヴェルチェはちょっと残念そうな顔をしてみせた。
「ラテン系かぁ〜あたしじゃダメかなぁ」
「ラテン系だけが好きってわけじゃなさそうだから、そうしょげるなよ。俺はあんたはかなりの上玉だと思うぜ」
「ありがとね♪」
 ヴェルチェがちょっと笑ってみせれば照れるハスター。実はただの女好きだったのかもしれない。
 ヴェルチェはその様子につけ込むように質問を重ねる。
「パラ実制覇しようってんだから、そうとうな規模で乗り込んできたんでしょうね……?」
「そうだな。ここにいるのは契約者を中心とした何百人かだけど、地球には全日本の仲間がいるからな!」
「凄いのね♪」
 すっかりヴェルチェのペースに乗せられている彼をチラチラと窺いながら作業を続けていたクリスティだったが、不意に客に声をかけられた。

 速水 桃子(はやみ・ももこ)の買い物に付き合わされてここまで来た小夏 亮(こなつ・りょう)だったが、迷路みたいな店内にたちまち迷子になっていた。
 どうしたものかと、それでものんびり構えながら桃子と歩いていると、警備のハスターと店員の女がおしゃべりしている横に、真面目に働いている店員の女と何やら難しい顔をしてぶつぶつと独り言を呟いている怪しい子供がいた。
 ちょうど良い、と真面目そうな店員に声をかける。
「ウィッグのコーナーに行きたいんだけど」
「あ、はい。ご案内いたしますね」
 亮と桃子はクリスティの案内でやっと目的のウィッグコーナーに着くことができた。
 桃子はずらりと並ぶウィッグに目を輝かせ、端からゆっくりと見ていく。
 特にウィッグに興味のない亮は、三つ目あたりから飽きてきていた。
 それでも我慢して桃子の後をついていく。
 ざっとコーナーを一回りした桃子は、数秒考え込むように立ち止まると、一点を目指して再び歩き出す。
 その先にあったのは、ツートンカラーのウィッグ。
 傍に鏡があったので、桃子はそれを手に取り軽く合わせてみた。
 こげ茶色の髪に綺麗な彩を添えた。
「似合う?」
 亮へと振り向き尋ねる桃子に、彼はいつの間にどこから見つけてきたのか、黒髪のウィッグを差し出す。
「こっちのほうがいいと思うなぁ」
「ふぅん、どれどれ……オイ」
 勧められたそれをあててみた桃子の声のトーンが突然落ちた。
 前髪パッツンの黒髪ストレートロング!
 似合っているようないないような、何とも言えない具合だ。とりあえず、桃子を知っている人が彼女に会っても、一瞬誰だかわからないだろう。
 桃子は小さくため息を吐くとウィッグをはずし、亮に返しながら馬鹿にするように鼻で笑った。
 何で馬鹿にされたよくわかっていない亮は、飽きたと正直に告げた。
「そろそろゲーセン行きたいよ」
「そうしよっか。向こうから店員来るしー。散らかしたもんね」
 二人は短い足で精一杯セカセカとやって来るペンギン店員から逃げるようにその場を後にした。