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冥界急行ナラカエクスプレス(第1回/全3回)

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冥界急行ナラカエクスプレス(第1回/全3回)
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第4章 ナラカから襲い来るモノ・その3



 死人の谷駅から深く傾斜する谷底に沿って線路は続く。
 駅を境目に谷奥へ続く傾斜は鋭さを増し、底の見えない谷はどこまでも続く闇のように思えるほどだ。
 ガタガタと揺れながら走るナラカエクスプレスの先頭車両、屋根の上に人影があった。
 一人は湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)
 銃型HCを展開し周辺地図を確認している、画面には遠ざかる最後尾車両が映っている。
「列車の運行を妨害するのに効果的なのは運転手、動力、線路のどれかを叩くこと。となれば、管制装置と機関部のある先頭車両こそ要、またこの位置ならば線路の防衛も容易いと思ったんだが……、結局ここには来なかったか」
「まあ、無事でなによりじゃないか」
 もう一人の影、斎藤 邦彦(さいとう・くにひこ)は苦笑を浮かべた。
「さっき連絡があったんだが、襲撃に来た二名の奈落人は無事撃退することが出来たようだ」
「折角重要箇所の警備についたのに無駄足ですか……、これも全部御神楽環菜の所為ですね……」
「いや、絶対に校長は悪くないと思うが……」
 そこに同じく先頭車両の防衛にあたっていた山葉涼司がやってきた。
「ここまで来れば、おそらくもう大丈夫だ。スピードも上がってきたし、振り落とされる前に中に入ろう」
「ああ、そうだな。戻ろう、湯上」
 しかし、凶司は前方を見たまま動かない。
「湯上?」
「……その前にもう一仕事しないとダメみたいですよ」
 前方線路直上、暗闇を怪しく彩るように紫色の炎がゆらめている。
 炎の中心にいるのは、紅蓮の炎を思わせる翼を持つ、異貌の仮面の女だった。
 何者かはわからない、わからないが、放たれる威圧感は数々の戦いをくぐり抜けてきた三人をも緊張させた。
「こいつはやばいわな……、空気が震えて見える……」
 昂る心をセルフモニタリングで落ち着かせる。
 それから、邦彦はパートナーのネル・マイヤーズ(ねる・まいやーず)にビデオカメラを手渡した。
「……どういうつもりだ?」
「奴の相手は私がする、お前には戦闘の一部始終を撮影して欲しい」
「……サポート兼記録係というわけか。しかし、校長と湯上たちがいるとは言え、何か作戦はあるのか?」
「そうだな……、遠距離から仕掛けて近接戦闘のデータも取りたいところだ」
「おい、迂闊に接近してどうするんだ。銃で近接戦闘だなんて……、一体何を考えているんだ?」
「心配するな。私も流石にもう一本腕を失う気はない。まぁ、うまくやってみるさ」
「……仕方のない奴だな、本当に。わかった、任せるよ。あと、心配はするよ。相棒だからね」
 一方、凶司のほうも撮影の準備を整え、パートナーの三姉妹にあれこれ命令している。
「僕が戦闘を撮影するからな。役立たずは役立たずなりに、すこしは良いデータを取らせろよ」
「あのさぁ、勘違いしないで欲しいんだけど、あなたのためじゃなくて、私はみんなのために戦うんだからね?」
「いいじゃない、ディミーアちゃん。言う分にはただなんだから言わせてあげましょうよぉ」
 冷たく契約者を一瞥するのはヴァルキリー三姉妹の次女、ディミーア・ネフィリム(でぃみーあ・ねふぃりむ)
 なんだか状況を楽しんでるのが、ヴァルキリー三姉妹の長女、セラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)だ。
「お、お姉ちゃん! こんなところでケンカはやめてよぉ! ほら、敵が来るよっ!」
 そして、彼らに振り回されるのがヴァルキリー三姉妹の末娘、エクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)である。
 そうこうしている間に、奈落人と思しき女は列車の先端に降り立った。
「ハヌマーンとタクシャカめ……、デカイことを言ってた癖にこの体たらくか。元から期待などしていなかったが、足止めも出来んとは所詮能無しはどこまでいっても能無しと言うことだな……、やはり信用出来るのは自分だけだ」
 吐き捨てるように言うと、こちらに鋭い視線を向けた。
「あなたも奈落人のひとりなのですか……?」
「そうだ、オレの名は【ガルーダ・ガルトマーン】。地獄の業火を統べる炎の使い手……!」
 全身から殺気を放つガルーダ、だがしかし、凶司は臆することなく確認を行う。
「あなた達がここに現れた理由……、それは彼女のせいですか?」
 そう言って、環菜の写真を見せた。
「そうだ……、と言ったらどうするつもりだ?」
「死んだ程度で大人しくなる奴じゃないでしょう、僕が調教しますから、あなたはすっこんでいてください」


 ◇◇◇


 セラフの引いた引き金が、戦闘の幕開けを告げる。
 星輝銃を構え、命中させることより、相手の動きを封じることを目的に閃光の嵐を展開させる。
 だが、ガルーダは怯むことなく炎の壁を発生させた。炎で屈折した大気が、飛び交う光線を歪め、術者の身を守る。
「やるじゃない、ガルーダちゃん……、でもここからが本番だよぉ」
 セラフの呟きと共に、エクスとディミーアが飛びかかった。
 最初に仕掛けるのはディミーア、バーストダッシュの速度を借り、忘却の槍で炎の壁を打ち破る。
 しかし、その向こうにガルーダの姿はない。
「上よぉ」
 見上げると、翼を広げたガルーダが急降下で迫りつつあった。
 紫炎に包まれた掌底をひらりとかわし、連続バーストダッシュでかく乱するようにディミーアは飛行する。
「火術の扱いはメイガス級……、でも、接近戦の身のこなしもただ者じゃないわね」
「飛び回るだけじゃオレには勝てんぞ」
 ガルーダが腕を振り上げると、まるで対空ミサイルのように炎が噴き出した。
 直撃すれすれのアクロバットな回避を見せ、ディミーアは炎の間隙を縫うと、ガルーダの背後に迫った。
「ここからバーストダッシュで一気に間合いを詰めれば……、タイミング的にかわせないわっ!」
 くるくると槍を回し突撃する。
 しかし……。
 空を斬り裂く流星のごときひと突きを、ガルーダはこちらに背を向けたまま回避した。
「な……っ!」
 驚愕するのも束の間、次女の身体に突き刺すような掌底が命中。
 そして次の瞬間、大爆発と共にディミーアは吹き飛ばされ、屋根の上に転がった。
「お姉ちゃんっ!」
 エクスは弾丸のように飛び出し、こちらに背を向けている炎使いに斬り掛かった。
 だが、それもまたに見切られていた。
 横一文字に振るわれた翼の剣を、なんとガルーダは振り向きもせず、切っ先を指先で白羽取りしたのだ。
「う、嘘でしょ……!?」
「未熟……!」
 しかも、光輝属性に触れダメージを受けていた他の奈落人とは違い、平然としている。
 エクスは慌てて間合いを取り、今度は爆炎破で攻撃を仕掛ける。
 だが、やはりと言うかなんと言うか、爆炎破はガルーダの紫炎に飲み込まれ跡形もなく消えた。
「馬鹿が……! 炎使いに炎が通用すると思ったか!!」
「だ、だよね……、でもこれなら……!」
 続いて刃を返し、轟雷閃を放つ。
 連続で繰り出される攻撃も、まるで稲妻の動きを予測しているかの如く、ガルーダは全て避けた。
「ど、どうして当たらないの……!?」
「気は済んだか?」
 そう言って、腕を振るうと同時に、紫炎が周囲に渦を巻く。
「させるかよっ!!」
 奪魂のカーマインで銃撃を浴びせつつ、邦彦はガルーダに向かって走っていった。
 一瞥し、ガルーダは飛んでくる弾丸を炎で薙ぎ払う。
 その瞬間好機が生まれた、屋根の上に立ち上るが炎が壁となり、ガルーダの視界から邦彦の姿が消えたのだ。
 近接戦闘のデータを求める邦彦は接近し、炎に映った影に左腕の義手による鉄拳を叩き込む。
 しかし、拳はガルーダの白い掌によって止められた。
「……銃使いが格闘戦とは気でも狂ったか?」
「なんだと……?」
 この不意打ちが止められてしまったのは予想外だが、しかし間合いは詰まった。
「まあいい、見せてもらうぞ、おまえの実力を……!」
「試してみるがいい」
 左腕の義手による攻撃を主軸に、邦彦は格闘戦を仕掛ける。
 二撃、三撃と隙を作らず、技を繋げていくが、ガルーダは打ち出される攻撃を全てかわす。
 情報収集が目的のため、攻撃よりも防御と回避を重視しているが……、この当たらなさは何か異常だ。
「なんだ、こいつの動き……、まるで動きを読んでいるような……」
 近接戦闘技術が優れているのともどこか違う。
 見てからかわしているのではなく、最初からどこに攻撃が来るのか知っているような動きなのだ。
「どうなってる……!?」
 近距離で銃を使おうと突き出した瞬間、ガルーダの蹴りがその手を弾いた。
 カランと言う金属音と共に、銃が屋根の上を滑る。
「なに……?」
 動揺を見せた隙に、先ほど仲間を吹き飛ばした爆撃掌底が直撃する。
 だがインパクトの瞬間、咄嗟にバックステップ、間一髪爆発を回避した。
 常に回避の姿勢を取っていなければやられていた……、しかし、次も同じように避けられるかは自信がない。
「得体の知れない能力だ……、どうしてこいつはこっちの動きを読める……?」
 直感が警鐘を鳴らしている、これ以上の戦闘は危険、邦彦は離脱するべきと判断。
 煙幕ファンデーションで煙幕を巻き散らし、さらに迷彩塗装で姿を隠してバーストダッシュで後退する。
 だが、煙の中からガルーダは正確に邦彦を追って飛び出してきた。
「オレには見える……、おまえ達の描く未来の姿がな……!」
「しまった……!?」


 ◇◇◇


 差し迫るガルーダを止めたのは、突如吹き荒れた吹雪だった。
 追撃を中断し、打ち付ける氷雪の源を見つめる。
 そこには氷術を繰り出すティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)と、やや後方で決めポーズを取る風森 巽(かぜもり・たつみ)……いや、銀の仮面の変身ヒーロー、仮面ツァンダーソークー1が立ちはだかっていた。
「蒼い空からやって来て、ナラカイナーを護る者! 仮面ツァンダーソークー1!」
 奈落人の常識を超えた存在である彼に、ガルーダは警戒の視線を向ける。
「最初に言っておく! 我はかーなーり! 強い!」
「ここはボクたちに任せて、皆は早く中に避難して!」
 ティアの言葉に促され、負傷した生徒たちは撤退を開始した。
 ガルーダは様子を見ているのか追撃はせず、紫炎を纏った腕で吹雪を薙ぎ払った。
「……ティア、氷属性の効き目はどうだ?」
「うーん、あんまり効果がない感じかも……」
 炎には氷、ある種鉄板とも思える属性の対構造だが、見たところダメージを受けている様子はない。
「貴様の起こす吹雪など、火山に氷を放り込むほどの戯れに過ぎん、オレには通用しない」
「ば、馬鹿にして……、ボクの氷術が氷だとー!?」
「奴の言葉に惑わされるな、ティア」
「露出の高い服で胸を見せびらかして……、なんなの、そっちでもボクを馬鹿にしてるの!?」
「ティア、ティア……、ちょっとは我の話も……」
「む、胸なんて飾りだーっ!」
 被害妄想と言う名の怒りに捕われたティアは、幻槍モノケロスを振りかざして突撃を始めた。
「無駄なことを……」
 余裕の動作で突撃をかわすと、ガルーダは腕を振り上げる。
 紫炎薙ぎ払いが繰り出されるかと思いきや、ピタリとその腕が止まり、視線が仮面ツァンダーに向かう。
 先ほどの場所に彼は既にいない。
「……消えた?」
 先の先と超感覚を併用した俊敏さで跳躍すると、仮面ツァンダーは空中で青白い稲妻を纏って放電を始めた。
 轟雷閃の稲妻を右脚に収束させ、そのまま落下の勢いをプラスし……、全力全開の必殺奥義!
「ソォクゥッ! イナヅマッ! キィィィィックーーーーッ!!!」
 仮面ツァンダーは紫電を放って、ガルーダ目がけ突っ込んでいく。
「……ちっ!」
 ガルーダは紫炎で全身を包み込むと、ロケットのようなキックを正面から受けた。
 渦巻く炎の障壁で、キックのダメージを最小にまで軽減する。
 だがしかし、イナヅマキックの衝撃は凄まじく、防御したガルーダを屋根の端ギリギリにまで追い込んだ。
「あとすこし……! あとすこしでこいつを外に……!!」
「だが、あと一歩力が足らんな、小僧……」
 不敵に笑うガルーダ。
 その瞬間、霧を貫くような閃光が辺りに溢れ、人知を超えた斬撃がガルーダの身体を揺るがした。
「な、なに……!?」
 そこにいたのは山葉涼司。
 ブライド・オブ・ブレイドの聖なる光を持って、皆の未来を切り開く仮面ツァンダーに助太刀する。
「こ……、校長!?」
「最初っからクライマックスで行くぜぇ、風森ーーっ!!」
「ああ、そう言うことなら……、特に言うことはないっ!!」
『うおおおおおおおおおっ!!!!』
 青い稲妻と白い閃光が必殺の一撃となって、ガルーダの身体を屋根から弾き飛ばす。
 その衝撃波たるや凄まじく、仮面ツァンダーと涼司も屋根から吹き飛ばされ、線路の上に激しく叩き付けられた。
 全身を走り抜ける激痛に耐え、涼司は気力を振り絞って、列車の行方に目を向けた。
「……な、ナラカエクスプレスは!?」
 線路の先を辿っていくと、終着点は谷底の岩場。
 このままでは衝突する、そう思ったその時、列車の前照灯が岩場を照らした。
 すると霧が光を避けるように渦巻き、列車が通れる幅の黒い裂け目がポッカリと岩場に現れた。
 ガタンゴトンガタンゴトンと線路を軋ませ、列車は迷うことなくその中に突入する。
 全ての車両が通過すると、裂け目は染み込むように消え、辺りはまた何の変哲もない岩場に戻った。
「行ったか……、環菜のことは頼んだぜ、みんな……!」
 涼司は誰に言うでもなく呟き、そして、ガルーダにブライド・オブ・ブレイドを向ける。
「すまないな、風森……、損な役回りに巻き込んじまって……!」
「そうとは限らんさ、捕虜になればみんなより早くナラカに行けるかもしれないぞ」
「ははっ……、そいつはいい考えだ」
 ところが、駅からエクスプレスを追ってきたハヌマーンとタクシャカが、そこに姿を現した。
 ただでさえ手強い奈落人が三人、涼司と仮面ツァンダーに戦慄が走ったのは言うまでもない。
「……捕虜になる前に殺されそうだな」
「な……、なに、殺されたほうが早くナラカに行けるかもしれないぞ」
 既にもう二人に興味を失ったのか、奈落人たちは気にも留ずに話し始めた。
「行ってしまったか……、こちら側の連中も侮れんな。さてどうする、せめて駅だけでも破壊して帰るか?」
「ふん、てめぇじゃあるまいし、そんなセコイ真似が出来るか」
 タクシャカとハヌマーンが睨み合う。
「二人ともやめろ。どうせ奴らの行き先はわかってる、ここで始末しようが向こうで始末しようが同じことだ」
「はっ! 何言ってやがる! おまえらが戻る前に、あいつらがとっとと環菜を助けてくれるさ!」
 涼司が鋭い視線を向けると、ガルーダは鼻であざ笑った。
「それはどうかな」
 そして、携帯電話でどこかに電話を始めた。
「……オレだ、転送しろ」
 次の瞬間、ハヌマーンとタクシャカが影に飲まれるように消えた。
「な……、なんだ!?」
「ナラカとパラミタを行き来出来るのはナラカエクスプレスの専売特許ではないと言うことだ」
 それだけ言い残し、ガルーダも大地に消えた。
 ただ、静寂だけが残るその場所で、涼司と仮面ツァンダーは呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。






 続く

担当マスターより

▼担当マスター

梅村象山

▼マスターコメント

マスターの梅村です。
本シナリオに参加して下さった皆さま、公開が遅れてしまいまことに申し訳ありません。
そして、本シナリオに参加して下さった皆さま、ありがとうございました。


今回、様々な情報が出てきましたが、私が予想していたよりも深い部分まで掘り出されたことに驚きました。
どこが、とここで具体的に言ってしまうのは野暮と言うものなので多くは語りませんが。
ただ、トリニティへの質問の中に、重複していてるものが多数ありましたので、
ある程度バランスを取るため、重複者の中で振り分けて、一人に一つの質問という形式にさせて頂きました。
ご了承頂けたら幸いです。

また、すこし気になったのが、本来のアクションのついでに質問を行うアクションや、
奈落人の戦闘を想定したり、奈落人に絡むアクションをかけている方が多く見受けられました。
そのアクションを採用してしまうと、質問、戦闘のみでアクションをかけた方との公平性が損なわれてしまいます。
そもそも基本的にはダブルアクション扱いとなるアクションです。
なので、この系統のアクションは基本的にボツもしくは失敗とさせて頂きました。


次回シナリオガイド公開日は、まだ未定です。
シナリオが決まり次第、マスターページでご報告しますので、チェックして頂ければ嬉しいです。
それでは、また次回、お会い出来る事を楽しみにしております。