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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第2回/全3回)

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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第2回/全3回)

リアクション


(・命令違反)


 イコンハンガーのカタパルトから出撃したイコン部隊は、太平洋上空を上昇する過程で、各小隊ごとに編隊を組んでいった。
 しかし、その途中で突如進路を変更する機体が現れた。
「要、進路を変えるよ。いいのね?」
「ああ、頼むよ」
 月谷 要(つきたに・かなめ)霧島 悠美香(きりしま・ゆみか)の搭乗するイーグリット、【デザイア】だ。
 行き先は――ベトナムだ。
『デザイアへ。俺達もベトナムへ向かう。同じ偵察部隊として、わずかでも可能性がある以上見捨ててはおけないからな』
 柊 真司(ひいらぎ・しんじ)ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)の【ヴァイスハイト】から通信が入った。
 インビジブル小隊として、要達とは組んでいた。
 偵察部隊が死んだと思いたくないのは同じなようだ。
 そして、もう一機。
「デビット、進路が違うぞ?」
「ああ、悪いな昇。ちっと命令違反させてもらうぜ」
 笹井 昇(ささい・のぼる)デビット・オブライエン(でびっと・おぶらいえん)の【イルマ】も、進路を変更し、他の二機とともに離脱する。
「珍しく移動担当を引き受けたり、イーグリットでの搭乗申請したのはこのためか」
 パートナーに呆れるように、昇が呟く。
 ベトナムでの顛末から、生存の可能性は低いだろう。救援部隊を送らないのは、生存確率だけの問題ではなく、敵の『切り札』を学院が警戒しているからかもしれない。
 インビジブル小隊だった二機は、それを目の当たりにしているから、ある程度理解はしている。イーグリットによる救援部隊が一瞬で葬られたのだ。
 昇達にしても、その現場は見ていなくとも、どれだけベトナムが「危険」かは認識している。
 それでも彼らは、命令に背いてでもそこへ向かおうとしている。
『ゴルフ小隊へ。直ちに部隊へ戻りなさい』
 無線で連絡が入る。デルタ小隊のアルテッツァだ。
『今回の作戦では、部隊を離れての単独行動は許されません。なんとしてでも敵戦力を削がなければならないんですよ。その重要性を解っていても行くのですか?』
 弱った敵を追い詰めるのが今回の作戦だ。
 それと、生存が絶望的な人間の救出を天秤にかけるならば、どちらを優先するべきかは明らかだ。
『先生、それでもオレは……オレ達は、行きます』
 要が通信を送る。
『命令違反だとは分かっている。だけど、先日の借りは返したい』
 真司もまた返答する。
『ダチを見捨てるのは性に合わないんでな』
 と、デビット。
 言葉には出さないが、これは仲間を信頼しているからこそ、出来た選択だ――自分達が抜けても、作戦を成功させてくれると信じているから。
『そこまで言うのなら仕方ありません。生きて帰って来るのですよ』
 それ以上、アルテッツアは何も言わなかった。
 
 命令違反したのは三機ではない。
『翔、やっぱり俺行くわ』
 聡とサクラの機体だ。
『おい、聡! 本気か!?』
「教官も人が悪いぜ。アイツ、絶対こうなるって分かって小隊編成しただろ。
 なに、どっちにしろ連帯責任は負わされんだ。小隊長として、隊の仲間を放ってはおけねえだろ。な、サクラ?」
「ええ。聡さんがそう言うのなら」
『っつーことだ。ベトナムの連中は、必ず連れて帰ってくるぜ!』
 三機のイーグリットとともに、聡とサクラのコームラントも進路を変更する。
 これによって、一小隊がそのまま欠けることとなった。
「そういえば、昨日……」
 機体整備の要望を聞かれたとき、聡が「速度を出しやすいように調整してくれると助かるぜ」と答えていたことを、翔は思い出した。
「何がやっぱりだ。始めからそのつもりだったじゃないか」
 相変わらず勝手なヤツだと呆れつつも、聡らしいとも思う。
「どうする? 聡達を追うか?」
 アリサが翔に問うてくる。
「いや。正直不安だけど、ここでこれ以上部隊の士気を乱すわけにはいかないからな」
 出撃前の「カミロが出るかもしれない」という言葉を思い出す。
 もしあの機体がいるのなら、ここでベトナムに方向を変えるのは、尻尾を巻いて逃げ出すのと同じではないのか。
 まだ完全に吹っ切れたわけではないが、戦わずに負けるようなことはしたくない。
「俺達は、自分達に出来ることをやり遂げよう」
 そんな翔を見て、アリサが微かに口元を緩めた。
「どうした、アリサ?」
「少しは成長したな、と思ってな」
 翔の中に迷いが生じていることは、アリサも知っている。そうでありながらも、ちゃんと覚悟を決めて機体に乗っていることを感じ取り、安心したようだ。
 機体を上昇させ、パラミタへと空を駆けていく。

* * *


「ゴルフ小隊が進路を変えたっ? ベトナムに行くんなら、ボクだって……」
 和葉は一部の機体が命令違反をしたことを知り、自分達も一緒に行こうとした。
「ちょ、何するんだよ、ルアークっ!」
「少しは冷静になれば? 今、和葉までベトナムに行くとしたら、どうなるか分かってんの?」
 ルアークがさらに言葉を続ける。
「こちらは前回も、今回もギリギリの戦力。しかも、敵のエースは相当な実力だって分かってる。いくら奇襲作戦とはいえ、激戦は必至だよ?
 ベトナムへ行くってことは、ここを見捨てることになるって分かってる? お前は今、学院と同じことをやろうとしてるんじゃないの?」
「……ボクが皆を見捨てる、だって……違う、そんなつもりはっ……」
 それでも、命令に反した者達はいる。
 彼らはここを見捨てたのか、といえばそうではないだろう。ベトナムで消えた者達の生存を信じ、イコン部隊が自分達抜きでも勝つことを信じているのだ。
「和葉がベトナムに向かったとしたら、この隊の全員が連帯責任を取らされる可能性だってあるんだよ。ゴルフ小隊は覚悟を決めた上で、小隊ごと離脱したみたいだけど、それだけの強い意志がお前にある?」
 それで何かあったとき、その全てを和葉は背負えるのか。
「……分かった。ベトナムの皆も、命令違反をした人達も心配だけれど……生きて再会出来るよう、ボクはここで頑張るよっ!」
 納得は出来ない。
 だけど、ベトナムに向かったうちの二機のパイロットは敵の力を知っている。その目に焼き付けている。それでも、再び立ち向かうというのだから、その覚悟は並大抵のものではないだろう。
 今の和葉には、立ち向かうだけの覚悟はあるかもしれないが、仲間を無条件で巻き込むだけの確固たる意志は持てなかった。
 だからこそ、今の自分が仲間と共に出来る、最大限のことをやり遂げるまでだ。