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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第3回/全3回)

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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第3回/全3回)
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(・アルファ)


【アルファ小隊】
【アルファ1】【E搭乗】館下 鈴蘭(たてした・すずらん)霧羽 沙霧(きりゅう・さぎり)/TACネーム【ネレイド】
【アルファ2】【E搭乗】柊 真司(ひいらぎ・しんじ)ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)/TACネーム【ヴァイスハイト】
【アルファ3】【E搭乗】御剣 紫音(みつるぎ・しおん)綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)/TACネーム【ゲイ・ボルグ】
【アルファ4】【C搭乗】アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)六連 すばる(むづら・すばる)/TACネーム【メテオライト】
【アルファ5】【E搭乗】星渡 智宏(ほしわたり・ともひろ)時禰 凜(ときね・りん)/TACネーム【アイビス】

* * *


 異形の姿を視界に捉えるのは、難しいことではなかった。
「なんて大きさなの……」
 確かに、出撃前にその姿をモニターでは見ている。しかし、機体のカメラ越しとはいえ、実際にその姿を知ったときの驚きは大きい。
 これまでに戦ったイコンとは比べ物にならないほどの巨体だ。
『こちらアルファ1。ブラボー小隊へ。これより、作戦行動に移るわ』
 【ネレイド】の中から、鈴蘭が通信を送る。
 巨大イコンまではまだ距離がある。だが、その前には何十機ものイコンが立ちはだかっている。そいつらを突破しなければならない。
『アルファ4、援護を行います』
 コームラント、【メテオライト】の大型ビームキャノンが火を噴いた。
 発射に合わせ、イーグリットが急加速し、前進する。
 海上には波が立ち、風が巻き起こっているようだった。
「ハエや蝶々はこちらで引き受けます。あれは、任せましたよ」
 ビームキャノンのチャージを開始する。
 マウントされた砲身がスライドし、即実弾式の機関銃へと切り換えを行う。そして弾幕援護だ。
 道を作る。それが【メテオライト】の役目だ。
「さあ、行くぞ」
 アルファ3、【ゲイ・ボルグ】は他のイーグリットより上方を飛ぶ。
 武器はスナイパーライフル。敵の機体編成、およびここからの行動予測を行い、
「そこだ!」
 シャープシューターとスナイプによる精密射撃で、関節部を撃ち抜く。
 イーグリットによる長距離射程攻撃は、敵の想定外だったらしく、アルファ小隊が先手を打つことには成功した。
 それぞれのパイロットは実感する。一ヶ月前から格段に成長したと。
 以前なら、シュメッターリング一機倒すのにさえ、複数機の連携が不可欠だっただろう。連携する必要がなくなった、というわけではない。
 正面からの「一機」打ちを挑めるようになったということだ。
(紫音、シュバルツ・フリーゲが接近してますぇ)
 敵の実力者が動いた。
 機関銃による掃射が来る。【ゲイ・ボルグ】が距離をとり、射程から離れる。
 頼るのはセンサーだけではない。相手の駆動音から、どの程度まで迫っているか、そこから何をしてくるのか思考をめぐらせる。
(当ててやる!)
 座標予測を行い、そこへ射撃を行う。
 放たれた弾丸は、シュバルツ・フリーゲに命中した。無論、相手は小隊長だ。それ一発で仕留められるほど甘くはない。
 他のシュメッターリングがカバーに入ってくる。
「対応が早いな」
 だが、距離はある。狙いをシュメッターリングに変更。
 イコン部隊の対処は必要だが、おそらく敵の本命はあの巨体。弾数を無駄にしないためにも、一発ずつ慎重に狙っていく。
 イーグリットの方が機動力は上だ。常に敵の動きを読み、先手を取ることで確実に墜とす。
 
「さあ、仲間の道を拓こう」
 アルファ5、【アイビス】は仲間のため、イコン部隊と相対している。
 ビームライフルで牽制し、イコンの注意を向けた。
『俺達だって負けられない――来い!』
 敵がこちらに気を取られれば、それだけ仲間が攻めるチャンスが増える。あえて通信を敵に向けた。
『それはお互い様よ。全力で、あなた達を倒す!』
 その声に、智宏は聞き覚えがあった。眼前には一機のシュバルツ・フリーゲが迫っている。
 あの小隊長の少女と、再び対峙する。
『それでいい。お前の相手は俺だ!』
 迷いは捨てた。
 ――この前の借りは返す。
 二つの銃口が向かい合う。
(防御射撃と……)
(……姿勢制御を)
((息を合わせて!!))
 精神感応で智宏と凛がすかさず連携、機関銃からの被弾を防ぐため、敵の射線に足を向ける形で【アイビス】を倒す。
 その瞬間に、引鉄が引かれる。
 相手もそれを読んでおり、それをかわそうとする。
 そこへ、【アイビス】がワイヤーを射出した。狙いは機関銃だ。
『く……!』
 シュバルツ・フリーゲの武器に、ワイヤーが巻きつく。その一瞬に、ワイヤーごと撃ち抜いた。
(これで、武器を失――)
 否、これで終わりではなかった。
 敵機は収納していた実体剣を引き抜き、構えを取る。
(二刀の構えか!!)
 剣は一本ではなかった。
『一ヶ月、こちらもただ何もせずに過ごしていたわけじゃない。誰もが常に、前へ進もうとしている』
 即座に二度目のワイヤーを放つが、斬られてしまう。
 だが、敵はリーチが短い。射撃武器を持つこちらからすれば、まだ分がある。
(智宏さん、十時の方角から強力なエネルギー反応!)
 【アイビス】はそれを見た。
 巨大な機体から放たれた破壊の光を。
「――――ッ!!」
 まだ海京までは届かない。だが、その余波による衝撃は、イーグリットを揺さぶるほどだった。
 
* * *


 マリーエンケーファーの主砲、大型プラズマキャノンから放たれた砲撃は、天御柱学院のイコン部隊を飲み込んだ。
 その威力はすさまじく、光に飲み込まれたイコンは完全に消失した。
 パイロットが脱出出来たのかは確認が取れない。
『パラミタを独占する者達に告ぐ』
 エドワードは通信を送った。
『これは粛清だ。目先の利益だけに走り、パラミタ、地球の双方を害した貴様ら愚民どもへの』
 モニターには天御柱学院のイコン部隊が映っている。
「アイザック、チャージにはあとどれくらいかかる?」
「100%にするには、あと二十分ほど。しかし、それだけあれば海上都市海京が射程圏内に入ります」
 エドワードは微笑を浮かべ、再び天学勢へと告げる。
『先ほどのは「裁きの光」だ。このマリーエンケーファーの主砲が海京を射程圏内に捉えるまで、あと二十分。
 このイコンは、機晶技術と現代科学の粋を集めた最強の機体だ。その程度の戦力では傷一つ付けられないだろう。せいぜい足掻くがいい』
 すでに、シャンバラで運用されているイコンのデータは解析済みだ。
 フル出力のコームラントの大型ビームキャノンすら弾くマルチエネルギーシールド、接近したイコンを拘束するためのワイヤーとバルカン砲。さらには天学のコームラントの四倍の威力を誇るビームキャノン。そして、複合誘導ミサイル。
 『王』足るに相応しい、この機体に勝てるものなど存在しないはずだ。あの青いイコンも、総帥の機体も、おそらくは及ぶまい。
 エドワードは自らの勝利を確信していた。