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嘆きの邂逅~悲喜の追録~

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嘆きの邂逅~悲喜の追録~

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第4章 新たな目覚め

 アレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)と、一緒にいると思われる大谷地 康之(おおやち・やすゆき)の捜索班は、宮殿を通過し、南の塔の方へ向かっていた。
「あっちに、光条兵器使いがいる。地下道から上ってきてるのかも」
 カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)は積極的に光条兵器使いに向かっていく。
「迂闊に飛び込むな。どのような光条兵器を有しているかもわからんしな」
 ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)は、意気込むカレンの後についていき、彼女をサポートしていく。
 カレンが優子の元にアレナを帰そうと必死なのはわかっているが、カレンが怪我をしたり、命を落としたら、優子が悲しむだろうということも、解っているから。
 後方から、カレンはレールガンで光条兵器使いを攻撃する。
 光条兵器使いは、こちらに攻撃を仕掛けるより早く、倒れた。
 しかし、さらにその後方から数体の光条兵器使いが現れる。
 そして。
「む。こちら方面だけではない。囲まれぬよう、皆気を付けるぞ」
 斜め前方にも、残存兵器の姿があった。
「こちらは任せて」
 調査当時、別邸で百合園生の指導や、防衛に当たっていた宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が、パートナーの同人誌 静かな秘め事(どうじんし・しずかなひめごと)那須 朱美(なす・あけみ)と共に、前へ出る。
 アレナ達がこの辺りにいることは判っている。
 彼女達を危険に晒すわけにはいかない。
 別邸に残した荷物や、戦死した兵士の遺体回収もしなければならないことだけれど。
 生きている人が、ここにいるから。
 祥子が大切に思う人の、戦友がここにいる。
 自分達にとって、恩人にあたる、あの子――アレナがいるから。
 祥子はアレナの元に向かう者達を全力で援護することに決めた。
 光条兵器使いの方に走りながら氷術を放つ。
 魔法は届きはしなかったが、光条兵器使いの前進を止めることに成功する。
「あのタイプの兵器とも、戦ったことがありますが、わたくし達の能力からすれば、それほど強いとは感じませんでしたわ」
 走りながら、静かな秘め事は初めて離宮に降りた朱美に説明をする。
「ふうん……なら不意打ちに気をつければいいってこと? 遠距離攻撃できるタイプもいそうだし」
「そうですわね。倒すことはたやすいと思いますが、油断は禁物ですわ」
「なら、私はサポートに回るから、祥子は敵を如何に切り伏せるかだけに集中するといいよ」
 言って、朱美は遠当てで、光条兵器使いの足を狙った。
「あなた達が人ではないこと、十分承知なの」
 よろめく光条兵器使いに接近した祥子が、レプリカ・ビックディッパーを叩きつけて倒す。
「おおっと、左右からも来るようだよ」
 殺気看破により、朱美が敵の接近を察知する。
「抑えます!」
 攻略隊に加わり、恐れながらも尽力した影野 陽太(かげの・ようた)は、当時より強い目をしていた。
 半年の間に、陽太を成長させる大きな事件があった。
 大切な人を失った時の気持ち。
 取り戻したい気持ちは、痛いほど理解できる。
 だから、陽太は全力でアレナを迎えに行く人々をサポートする。
「こちらには、来させません!」
 地形を把握し、防衛体制を整えて、マシンピストル、魔道銃を連射していき、敵を仲間達に近づけさせない。
「こっちだよ!」
 カレンは天のいかづちをを発動し、敵の目を自分の方に向けさせる。
 途端、遠方の光条兵器使いの攻撃が、カレンに向けられる。
 迫りくる、光の矢や弾に、一瞬怯みそうになるが、アレナと優子が再会する姿を思い浮かべながら、自身を奮い立たせていく。
「撃ったら逃げる」
 ジュレールが敵の攻撃を防ごうとするカレンの腕を引っ張り、物陰の後ろに引きずり込んだ。
「そうだね。接近させて、一気に倒そう!」
 ジュレールだけではなく、後方を守ってくれる仲間達もいるから。
 カレンは前方に集中し、魔法を放って、兵器を倒していく。
「ここは大丈夫よ。……むしろ、ここに集めるから、ね」
 祥子は光精の指輪で呼び出した、光の人工精霊をカレンの方へと向かわせる。
 敵の目も、光の方へと向けられる。
「後のこともあるし、出来るだけここで仕留めておくわね」
「う、うん……」
 祥子の言葉に答えたのは、白百合団の班長として、アレナ捜索班の代表を買って出た秋月 葵(あきづき・あおい)だ。
「わたくし達が、お相手いたしますわよ」
 静かな秘め事が姿を現した光条兵器使いに、光術を放つ。
「そうそう、こっちこっち」
 朱美が素早く動き回って、ダメージを受けた敵の意識を引きつけ、祥子の方へと走る。
「これでもくらいな!」
 そして轟雷閃を放ち、更なるダメージを与える。
「あなた達は、この離宮で眠りなさい」
 倒れた光条兵器使いに、祥子が追い打ちの雷術を放って倒した。
「ここは俺達に任せて、先に行って下さい」
 陽太が、葵達に言いながら、マシンピストルと魔道銃で現れる光条兵器使いを、次々に仕留めていく。
 だが、光条兵器使いには、ある程度の知能がある。
 遠距離攻撃や、マシンガンのようなタイプの光条兵器を有している者もいて、契約者達も無傷というわけにはいかなかった。
「気を付けて。絶対に油断はしないで」
 葵が心配気な声をあげた。
 1対1なら、契約者達の方が有利ではあるが、敵との相性もある。
 当たり所が悪ければ、重傷を負う可能性だってあるのだ。
「安心してください、無謀なことはしません。俺にもしものことがあったら……多分、すごく悲しんでくれる人がいます」
 言いながら、陽太はカレンに接近する光条兵器使いの足を撃ち抜く。
「ありがと!」
 カレンは即座に魔法を放ち、光条兵器使いをまた1体倒した。
 陽太は一瞬だけ葵達の方に、意思が籠められた強い目を向けた。
「彼女に、悲しい思いをさせるわけにはいきません……何があっても!!」
 そして、大切なロケットを握りしめた後――射程に入った光条兵器使いに、弾丸を放つ。
「皆さんも、大切な人を連れ戻しに行って下さい!」
「そうですね。任せましょう」
 銃を撃ち、残党を倒していく陽太、そして陽動を務めてくれている仲間達に目を向け、ステラ・宗像(すてら・むなかた)はそう言った。
 ステラは魔法隊に加わり、宝物庫探索に力を貸してきた。
 優子やアレナとも親交があるため、今回は優子の憂いを晴らすためにもと、アレナ捜索に力を注いでいる。
「さあ、秋月葵さん、皆さん行って下さい。アレナさんはおそらく南の塔でしょうから」
「南の塔は、この位置のはず」
 ニーナが指差す方向へ、皆が走り出す。
「お願いね。でも、危なくなったら逃げてね」
「さ、葵ちゃんも早く」
 葵は、陽太やここに残って敵を引きつけてくれる人達にもう一度声をかけた後、エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)に手を引かれ、南に向かって走り出す。
「道は作らせてもらう」
 ヴァルキリーのイルマ・ヴィンジ(いるま・う゛ぃんじ)が、翼を広げて飛び立ち、皆の前を進む。
 アレナを迎えに行き、帰ってくるまでが任務と考え、イルマはこちらから無理な攻撃を仕掛けるようなことはなかった。
「兵器のことは自分達に任せて走り抜けろ!」
 イルマがソニックブレードで現れた光条兵器使いを吹き飛ばす。
「それがしは盾。皆、後ろからついてきてください」
 陳 到(ちん・とう)が、ディフェンスシフトで防御を固めて、イルマが作った道を走る。
「こっちにはこさせないのだわ!」
 景戒 日本現報善悪霊異記(けいかい・にほんこくげんほうぜんあくりょういき)は、ステラの傍。後方で皆の盾となり、敵の方向へ魔法を放つ。
「姿が見えたらすぐ仕掛けるのだわ。出端をくじくのだわ!」
 且つ、出来るだけ多く巻き込むように。しかし、味方は決して巻き込まないよう注意をしつつ、景戒は攻撃していく。
「近づけさせないことを重視しましょう」
 ステラは殿となり、炎術、氷術で敵を牽制しつつ、皆の後を追う。
 あくまでアレナを探す者達の護衛として、敵を近づけないこと、仲間を護ることに専念する。
「窓から入るぞ」
 イルマが窓から塔の中へと入る。中は暗かった。
「大丈夫だ、占拠されたりはしていない」
 しかし、敵の気配がないことはわかる。
「では、皆中へ。しかし不用意に奥には進まないように」
 続いて、陳到が扉を開け放って、皆を中へと導く。
「私は外に残ります」
 ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は、塔の前で立ち止まり、近づいてくる光条兵器使いを魔道銃で攻撃する。
「美羽さん、皆さん、早く中へ!」
「うん、お願いねっ」
 ベアトリーチェに守備を任せて、真っ先に小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が塔の中へ飛び込んだ。
「葵ちゃん、行きましょう!」
 エレンディラが、サンダーブラストを放って敵を牽制しつつ、葵の背を押した。
 葵、呼雪が続き、そして、行方不明の康之のパートナーである匿名 某(とくな・なにがし)、離宮で優子をサポートし、連れ帰ったミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)、白百合団員、ロイヤルガードとして優子と共に戦っている神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)、6騎士のマリルのパートナーである、高月 芳樹(たかつき・よしき)が、パートナー達と共に南の塔へと走り込んだ。
 全員が入った後、ステラは敵の侵入を防ぐため、扉を閉めた。
「アレナ……いるの?」
 暗い部屋を、美羽が光条兵器の淡い光で照らした。
 照らされた光の中……塔の中心の辺りに。
 皆が探している少女の姿があった。
 彼女――アレナは女王器である杖を持ち、水晶のような石の中で眠りについていた。
「康之……」
 その隣には、某のパートナーの康之の姿があった。
 アレナと康之は手を繋いで、安らかな顔で眠っている。
「この封印の眠りは、地球人の干渉で解けるはず」
 そう言ったのは、6騎士の一人、マリル・システルース(まりる・しすてるーす)だった。
「起こすのは、再封印の手はずが整ってからにした方がいいか?」
「起こしても大丈夫です。でも、封印を施したこの位置から離れると、封印のバランスに影響が出るから、集合時間ギリギリまで、ここに留まっていた方がいいわ」
「なら、早く起こした方が良いじゃろうな」
 伯道上人著 『金烏玉兎集』(はくどうしょうにんちょ・きんうぎょくとしゅう)が、眠っている2人を穏やかな目で見つめる。
 5000年前は、ジュリオが。そして、半年前は、彼女達が残り、守ってくれたおかげで、この地はは助かった。
 だけれど、今度は誰も犠牲にせずに、封印をすることができる。
「よかったですじゃ……」
 そのことに安心をしながら。そして、まだ何も知らないという神楽崎優子とアレナの再会の時を楽しみに、玉兎は見守っていた。
「ここに留まっている間に、襲撃があったら遅れてしまうからな。僕達もここの防衛に出ようか」
「そうね。……よろしくお願いします」
「そうじゃの。ここは頼みますですじゃ」
 芳樹の提案に、アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)と玉兎が賛同し、一緒に外に続く扉の方へと戻っていく。
「どなたか、起こして下さいますか?」
 マリルがアレナ達を見守る契約者達に目を向けた。
 アレナのパートナーの神楽崎優子はこの場にいない。となると……。
 皆の視線が、康之のパートナーの某に集まる。
「あ……うん。大役だな」
 久しぶりに見た、パートナーの姿に……その、アレナに向けられた柔らかで、少しも辛そうではない微笑みに、某は少しの間目を取られていた。
 某はゆっくりと康之に近づいて、彼を覆っている透明の石に触れた。
「戻って来い、2人一緒に……」
 途端、透明の石が溶けるように、無くなっていく。
「っと」
 倒れかかる康之の体を、某が支える。