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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)

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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)
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リアクション


第2章 才覚【2】


「ルカルカさん、下がって。ここから先は僕たちが受け持つ!」
 ルカルカを庇うように榊 朝斗(さかき・あさと)が立つ。
 相棒のルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)も武器を構えた。
 朝斗は目を細め、トレジャーセンスでUSBメモリの位置を探る。
 しかし、金銀財宝ならともかく、価値が不明瞭なUSBメモリだと彼のセンスではうまく探せない。
 朝斗たちを見回し、雄軒は言った。
「たかが小娘一人どうなろうと、どうでも良いではありませんか。何故あなた達は御神楽環菜に拘るのです?」
「それは……」と口ごもる朝斗に代わり、ルカルカが口を開いた。
「彼女を戻したいのは彼女がとても優しい人だからよ。彼女に心からの優しい笑顔を取り戻させてあげたいの」
では、その為だけに今は戦場から離れて、穏やかに暮らしていけるであろう娘を戦乱に巻き込むのですか。これは滑稽だ。戦の為にまた才を取り戻させますか
「それは……」と言葉に詰まるルカルカに代わり、朝斗が答えた。
「それを決めるのは僕たちじゃない!どの道を進むか決めるのは環菜さん自身だ!」
 朝斗は超人的精神を発揮し、彼の精神を蝕んでいた瘴気を打ち払った。ここは正念場、必ず勝つ。
 とその時、空間をきらりと走るものが見えた。雄軒を中心に張り巡らされたこれは……ナラカの蜘蛛糸!
 諒は不敵に笑い、雄軒の傍らに立つ。
「盛り上がってるところ悪いが、俺のことも忘れてもらっちゃ困る」
「おや、手を貸して頂けるのですか?」
「まだ貴様の疑いが晴れたわけじゃない。持ち逃げされねぇよう見張っておこうと思ってな」
 と言いつつ、内心「さて……どうしたものか」と考える。この戦闘でヤツの隙を突ければいいのだが……。
 一見、朝斗たちを捕らえたかのように見える糸だが、その真の目的は雄軒の逃げ道を塞ぐことだ。
 そんなことを考えてると、蒼空学園新生徒会長東條 カガチ(とうじょう・かがち)がやってきた。
「見つけたぞ、不良奈落人!さっきは葵ちゃんに邪魔されたけど今度こそ椎名くんを返して貰う!」
「そう言や、コイツの存在を忘れてた……」
「ほら、こっちに顔を出しな。一発殴ってやらぁな。前はそれで椎名くんから悪霊をひっぺがしたんだ」
「俺は悪霊かよ……」
『くくく……』なんて笑い方をするヤツは悪党だって、母方のばあちゃんが言ってたから間違いねぇ!
「やれやれ……」
 喚き散らすカガチの背に隠れ、東條 葵(とうじょう・あおい)は様子を窺う。
 もう三回目だと言うのにまだ彼の思惑に気付かないとはね……、こんなことで生徒会長が務まるのやら。
 まぁしかし、その辺りの事情はすべが終わったあとに教えてやればいいだろう。
「今は東園寺雄軒の持つUSBメモリの奪取が先決。さて、どのタイミングで仕掛けるかね……」
 そして、ここにもうひとり、雄軒に挑む人間があらわれる。
 第一回から続き雄軒に煮え湯を飲まされている夜月 鴉(やづき・からす)だ。
 勝利の塔で雄軒と対峙し、瀕死の重傷を負わされたものの……重い身体を引きずって戦場に参じた。
「あなたも戦うつもりですか。随分と学習されない人だ。もう十分に決着はついたでしょうに」
「ここまで来たら引くに引けないんでな。今一度挑ませてもらおうぜ、東園寺さんよ」
 前回バルトを倒した相棒のアルティナ・ヴァンス(あるてぃな・う゛ぁんす)も『聖剣ティルヴィング・レプリカ』を構える。
「悪い、ティナ。おまえはヤツのパートナーの相手を頼む」
「いえ、私も一緒に戦います。主の傷ではサポートは必要かと……」
「ダメだ」
「で、ですが、もう東園寺さんのパートナーはいらっしゃらないみたいなんですけど……?」
「む……なんかもうひとりいただろ、すんげぇ性格が悪そうなヤツが」
 しかし、そのすんげぇ性格が悪そうなヤツはどこにもいないようである。
「しょうがない。さっき転がってったバルトとか言う幼女鉄人の相手をしてこい。得意だろアイツ」
「え、ええー……?」
 アルティナは腑に落ちなかったが、鴉に言いくるめられ、しぶしぶ坂を下って行った。
「貴重な戦力を行かせてしまってよろしいのですか?」
「アイツには見られない姿になるからな……、今の俺がおまえとやり合うにはこれしかねぇ……!」
 絶対闇黒領域が足下から鴉の身体を覆うと、闇に白い骨格が浮かび上がり、獣のような形状に変化する。
 その姿は異形と呼ぶに以外に形容する術がない。狼のような頭部、そこに口のような裂け目ができ、吠えた。
「ぁぁぁ……アアアアアァァァ! 殺ス……!」
 闇黒領域と超感覚の複合技、怪物と化して襲いかかる鴉。
 それを合図に朝斗も動いた。アクセルギアと黒檀の砂時計で加速し、雄軒に突撃を仕掛ける。
 諒と葵もこれを好機と踏んだ。諒は振り返り様、真と分離、真の放つヒロイックアサルト『気合の一撃』と諒の放つナラカの闘技『手刀』が奇跡を描く。さらにそこに折り重なるのは葵の攻撃。背後からブラインドナイブスで不意を打つ。……ちなみにカガチは出遅れ、彼らの織りなす多重攻撃に加わることは出来なかった。
 絶体絶命の雄軒、しかし余裕の笑みを見せる。
「力だけでは、超えられませんよ」
 刹那、上空に雄軒の左腕ドゥムカ・ウェムカ(どぅむか・うぇむか)があらわれた。
 奇襲をかけるべく潜伏していた彼は、敵の姿を見つけるや、レーザーガトリングを乱射。
 続いて光術で目眩ましをかけようとする……が、朝斗の相棒であるルシェンとアイビスがいち早く反応した。
「なにィ!?」
 殺気を感じとりドゥムカに目を向けると乱射を回避して、アイビスが奈落の鉄鎖で空中から引きずり下ろす。
「捕縛しました、ルシェン!」
「ええ、空中からなら反撃は受けないと思ってるんでしょうけど、そうはいきません……!」
 ルシェンの手から放たれた無数の光刃がドゥムカを刻む。バランスを崩したところにアイビスの銃撃。
 蜂の巣にされてしまった彼は「ちくしょう……」と呻き、力尽きて落ちてきた。
 ドゥムカの敗北は予想外だったが、しかし彼があらわれた目的は既に果たされている。
 雄軒は落下して来るドゥムカの影に、狂血の黒影爪を使って潜り込む。
 その瞬間、彼が既にこの四方に張り巡らしていたトラップが発動、埋まっていた機晶爆弾が爆発した
 ここであらゆるものが裏返ってしまった。彼を捕らえるためのナラカの蜘蛛糸は退避を妨害し、密集しての多重攻撃は被害を増大させてしまったのだ。光とともに周辺一帯は吹き飛ばされ、あとにはめくれ上がった地面が残った。
 影から戻った雄軒は惨状に笑っている。
「……私の読みどおり、とんでもないものを仕掛けておったな」
 すこし離れた森の中で、織田 信長(おだ・のぶなが)は言った。
 契約者の桜葉 忍(さくらば・しのぶ)は目のあたりにした出来事にショックを隠せない。
「妙だとは思ったんだ、二人いるパートナーのひとりがいなかったから……、でもこんなことになるなんて」
 慎重派のふたりはこっそり雄軒の隙を観察していた。幸いにもそのおかげで爆発に巻き込まれずにすんだ。
 信長は目を凝らして、爆発の周辺を見る。土に埋もれた生徒達の姿見える……まだ息はあるらしい。
「しっかりせんか、忍。ヤツらの無念を晴らせるのは我らしかおらん」
「ああ、わかってる……!」
「勝利の瞬間ほど隙多いものはない。この一瞬が勝負どころじゃ」
 ヒロイックアサルト『第六天魔王』で黒炎のオーラを纏うと、彼女はミルキーウェイで上空から襲撃を行う。
 鷹のように飛び、滑空。さざれ石の短刀で雄軒の肩を斬り付ける。
「!?」
「仲間も失い、切り札も使った……さらに奥の手はあるまい?」
 ふっとしびれ粉を吹きかけて、身体の自由を奪う。と、そこへビッグバンダッシャーを駆る忍が迫った。
 白銀に輝く大剣……光条兵器『ブレイブハート』で疾風突きを放つ。
「皆の仇は俺がとる……!」
「がはっ!?」
 すれ違い様の一撃で貫かれた彼はその場に崩れた。その胸元からUSBメモリが転がり落ちる。
「おおっと、あぶねぇな。懐に入れてたのかよ、危うくぶった切るところだったぜ……」
「まぁなんにせよ。御神楽環菜の才能はこれで元取りと言うわけだな」
 信長はメモリを拾い上げ、まじまじと見つめた。