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第5章 帰路

「さて、帰るかー。送ってくれる?」
 友人達と校門へと向かう途中、ゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)は給仕の女の子の腕を掴んだ。
「え?」
「というのは冗談で、送るよ、送らせてくれ、送りたいんだ」
 驚くその娘を引き寄せて、笑いながら一緒に歩き出す。
「もしかして……バレてる?」
「バレてるバレてる。俺のことじっと見つめている女の子のこと、気にならないわけないだろ?」
 ゼスタの言葉に、はあーと息をついて、女の子――リン・リーファ(りん・りーふぁ)は、ウィッグやコンタクトを外した。
 そして、えへへ、ばれちゃった。と、笑みを浮かべると。
「リンだったか〜」
「んー? ホントは誰だかわかってなかった!?」
「いや、未憂チャンに似てたから、リンチャンだろうとは思ってた。俺がキミを見間違えるはずないだろ」
 にやりとゼスタは笑う。
 むむっと思いながらも、まあいっかと笑みを浮かべて。
「お土産〜。合宿の時の悪戯と違って、ちゃんと作ったんだよ」
 リンは鞄の中に忍ばせてきた、袋を取り出した。
 一旦、自分の心臓の上に置いてから、ゼスタに差し出す。
「ん〜? 砂糖と塩を間違えたってオチはないよな?」
 そんな冗談を言いながら袋を開けて、中に入っていたチョコチップクッキーを一つ、ゼスタはつまんだ。
「ハートのクッキーか〜。リンチャン俺のこと好きなの?」
「えへへへっ。ハートなのは心を象ってみたから、かな?」
「心臓の形か……」
 ふと、ゼスタはリンが以前、気持ちや心ならあげられる、と言っていたことを思いだす。
「リンチャンの心、貰っておくぜ」
「うん、あのね。前のパーティの時、心が先ってのは、変な話だっ言ってたけど、別に変じゃないよ」
 リンは笑みを浮かべていた。
「……こういう心なら、簡単に誰にでもあげられるもんな」
「そーゆー意味じゃないよ〜、でも今日はそれでもいっか。急ごっ」
 リンはゼスタの背をえいっと押す。
 話をしていた所為で、遅れてしまっていた。
 校門の前で、薔薇学の友人達がゼスタを待っている。
「悪い。この娘、パートナーの所まで送っていくから、先に帰ってて」
 校門から出たところで、ゼスタは友人達にそう言って、骨の翼を広げてリンを抱き上げた。
 飛び立ちながら一度、百合園に目を向ける。
 見送りに出ている、神楽崎優子と、彼女の隣にいる少女を見て意味ありげに笑いながら。
 夜の空へと飛んでいく。

○    ○    ○


「パーティはいかがでしたか?」
 百合園の外で、パーティに参加をした男女を待っていた百合園生がいた。
「お二人に、ご提案がありますの」
 氷川 陽子(ひかわ・ようこ)ベアトリス・ラザフォード(べあとりす・らざふぉーど)だ。
 2人は、パーティには参加をせず、校門の外で、カップルをずっと待っていた。
「楽しかったです、皆様にはとてもお世話になりました」
「……ご提案とは?」
 カップルと共に、裏道の方へと歩きながら、陽子とベアトリスはまずは質問をしていく。
「お名前、お聞きしてもよろしいですか? どのような家のご出身なのでしょう」
「名前は……すみません。どこで誰の耳に入るかはわかりませんので、本名はお教えできません」
 女性がそう答えた。
「家のことも、同じ理由で詳しくは言えないんだ。助けてくれた皆には感謝していますけどね……」
 男性も少し困った顔でそう答えた。
「いえ、無理に聞くつもりはありませんから。事情をもう少しお話しいただければ、助けになれるかと思いまして」
 陽子は2人の身の上や状況について、色々と尋ねていくが、2人とも曖昧にしか答えてはこなかった。
 質問を続ければ続けるほど、2人の答えは、ちぐはぐになっていく。
「お互いの家同士が対立しあっているようでしたら、家同士で仲良くしてほしいとは、考えなかったのでしょうか?」
「努力はしてきたつもりです」
「……」
 2人はついに、押し黙ってしまう。
「お二人を応援したいと思っていますのよ。双方の家の方に見つからないように、百合園への転入を考えてみてはいかがでしょう?」
「学費がとても高いのでしょう?」
「僕は男性だし、ね」
 ベアトリスの提案に、カップルは首を左右に振った。
「女装をすれば、入れないことはありません。正式な入学なら学費がかかりますが、きちんと事情を話して下されば、ラズィーヤ様達も力になってくださるはずですわ」
 ベアトリスは、学生としてではなく、職員として購買部などで働くことを勧めていく。
「落ち着くまでは、私の家に住んでいただいて構いません」
「そんな……そこまで、お世話になれません」
「お気持ちは大変うれしいのですが、僕達は大丈夫、ですから」
 女性と男性は、立ち止まって陽子とベアトリスに深く頭を下げる。
「それでは、また」
「ごきげんよう」
 顔を上げると、微笑みを見せて。
 2人は大通りへと飛び出していった。
 陽子とベアトリスは心配になって後を追うが、2人の姿は人混みの中に消えていた。

○     ○     ○


 迎えの馬車で、ラズィーヤは静香と共に、自宅へと戻った。
 自分の私邸の、自分の部屋で一人になってから。
 携帯電話の留守録を再生する。

『親切で優しい子ばかりだね。だけど、骨のある娘もいそうだ。僕達のことを観察していた人もいたようだけれど、場の雰囲気を崩すようなことは、誰もしてこない。なんにせよ、成長が楽しみだね……。それじゃ、アドレス教えた子から連絡来たらまずいから、切るよ』

担当マスターより

▼担当マスター

川岸満里亜

▼マスターコメント

 こちらのリアクションは以下のような分担執筆となっております。
 1〜8 有沢(1P後半の白百合団関係のみ川岸) 
 9〜15 川岸
 16〜25 有沢
 26〜40 川岸

 シナリオへのご参加、ありがとうございました。
 マスターの川岸満里亜です。
 皆様の今のお気持ちや、らしさを沢山拝見させていただきました。
 リアクションで上手く表現できているといいのですが。
 貴重なアクション欄を割いての、私信もありがとうございます。
 ひとつひとつにお返事を書く余裕を持てず、申し訳ありません。
 久しぶりにお会いできた方も、ありがとうございます!
 今後もどうぞ、よろしくお願いいたします。
 尚、駆け落ちカップルは、川岸のシナリオで取り扱う予定のNPCです。

 こんにちは、川岸マスター発表のキャンペーンを共同執筆させていただきました有沢楓花です。
 担当ページは川岸マスターに書いていただいていますが、生徒総会、パーティ中、面談を分担して書かせていただきました。
 担当したパートでの出来事のまとめは、以下二点です。
  ・白百合会会長はラズィーヤの秘書、副会長は空京大学へ進学することになりそうです。
  ・百合園製イコンが開発中であることが明らかになりました。
 今回は、シナリオへのご参加ありがとうございました。
 様々な想いや百合園へのご要望を伺うことができて良かったと思います。少しでも消化するお手伝いが出来たなら幸いです。
 次回以降のお知らせは随時マスターページで行っておりますのでご覧ください。