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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第1回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第1回/全2回)
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リアクション

 
(確かに最初は、ちょっとえげつないかも、と思った。……だが二度目だ。しかもザンスカールの時のように、そこに住んでる住民お構いなし。
 ……いい度胸なのだよ。こうなったら徹底的に嫌がらせして、迷惑料を頂いた上で出て行ってもらうことにするのだよ!)
 そんな決意を胸に秘め、オフィーリア・ペトレイアス(おふぃーりあ・ぺとれいあす)が従えたゴーレムをラムズとシュリュズベリィ著 『手記』(しゅりゅずべりぃちょ・しゅき)とが乗る触龍の前に配置する。動きが鈍重ながら一撃の威力に長けたこの機体で、禍々しい雰囲気を醸し出すクリフォトを潰す、これが“強襲”の主目的であった。
 しかし当然魔族側も、触龍を目の当たりにした直後から応射を強める。本能的に、迫る機体が“ヤバイ”というのを感じ取っているのかもしれなかった。
「大人しくしてるのだよ!」
 その応射を少しでも抑えるべく、オフィーリアは光術で光を発生させ、攻撃と目眩ましの両方を魔族に加える。強烈な光を受けて視界を失った魔族は、その視界が回復した直後、肉薄する二つの影を目の当たりにする。
「……ふっ!」
 幾多の戦場を駆け抜けたかのような振る舞いで魔族に接近した誠一の、振るった刀が魔族を一撃のもとに斬り伏せる。敵討ちにと反撃を繰り出そうとする魔族の行動を読み、攻撃を避けながら、次の対象へ刀を滑らせる。
(ほっほっほ、小僧、やりおるではないか。あのような動きを見せられて、わしが怠けとるわけにもゆかんのぉ)
 誠一に少し遅れて魔族の群れに飛び込んだ伊東 一刀斎(いとう・いっとうさい)も、見かけの老体からは想像もつかない機敏な動きで魔族を追い詰め、一刀のもとに切り捨てる。ここでの奮闘は、全て後方から迫る触龍の一撃に託される。自信たっぷりに「我に任せておけ」と言い切った、その策に今は賭けるしかなかった。

 遊びに来るならば手を取ろう。
 学びに来るならば教えよう。
 ……しかし、仇なすならば容赦はせぬ。

 二度じゃ。二度目じゃ。
 森を侵し、土を穢し、我らに牙を向き……省みる事もしない莫迦ならば、遠慮は無用じゃな。

 叩き潰してでも、この地が奴等の庭ではない事を思い知らせるとしよう。
 其の為ならば、我の身など安いものよ。


 ゆっくりと、しかし確実にクリフォトへ迫る触龍、それと一体化するように佇み、操作する『手記』。
(……なんでしょう、どうもあの樹が現れてから、手記の様子がおかしいですね。
 苛立っているような、怒っているような……)
 『手記』の背後で、癒しの力を発動させるラムズが心に湧いた疑問に首をかしげる。ただ一言、「さて、いくとするかの」と呟いた『手記』は、普段と変わりないように見えて、ラムズにだけは変化が感じられた。だからこうして、「ええ、往きましょう」と答え、同乗している。
(無茶はしないでくださいね? 手記……)
 ラムズの言葉は、果たして『手記』に届いただろうか。
 ……否、『手記』は既に、一つの覚悟を固めていた。たとえ己の身を賭けてでも、この大地を、この森を護るため――。

「然らば父よ、この愚か者だけは忘れるな」

 ……そして、その時はやって来た。魔族の迎撃を耐え、既に視界いっぱいにクリフォトが広がる位置に到達した触龍が、ラムズを振りほどいてしまったのである。
「あっ――」
 ここに来てようやく、『手記』の意図する所を理解したラムズが手を伸ばすが、時既に遅し。空中に投げ出されたラムズは、地上に落ちる寸前で退却途中のノールにキャッチされる。
「ぐぬぬぬぬ……ここに来て男が混ざるとは、我輩別の意味で泣けてくるのである!」
「そんなこと言ってないで、ほら早く逃げないと、セラ達まで巻き込まれちゃうよ!」
 あちこち被弾し、動いているのが奇跡といっても差し支えないノールが、残り僅かのブースターをふかし、エネルギーを過剰に使用したことで一時的な活動停止に陥ったリアとセラ、そしてラムズを背負って退却を図る。ルイの心配は考えない、彼はどんなことがあっても必ず戻ってくると信じているから。
 一方、誠一と一刀斎も、オフィーリアとシャロン・クレイン(しゃろん・くれいん)の援護を受けて撤退を図りつつあった。シャロン自作の地雷が、誠一との精神感応を駆使され、的確に魔族の追撃の手を振り払う。

「クハハハハッ……莫迦共よ、もう我は止められぬぞ。
 貴様等がどれほど俊敏で、力に優れていようと、そこな樹を動かすことは叶うまい?」

 高らかに笑いながら、『手記』、触龍が空高く舞い上がる。無数の魔弾が触龍に炸裂するが、それでも触龍の動きは止まらない。

「さあ、そこで見ているがよい。我が最期に、貴様等に絶望を与えてくれる」

 遥か高く舞い上がった触龍が、どこからともなく喚び出された“腕”をクリフォトの真下に据え、“落ちる”。
 触龍が鈍足なのは、それだけ強靭な装甲を持っているから。それだけ質量を備えているから。
 ……では、その装甲と質量を備えた物質が、十分な高さから自由落下したとしたら?

 その答えは、各人が想像を働かせる前に、目の前で示された。
 大地がひっくり返ってしまうのではないかと思われるほどの振動、そして爆音、舞い上がる粉塵。それらが全て収まった後見えたのは、広がりを見せていたクリフォトの、今はただ黒い塊と化したそれであった。中心部分に上から強い力をかけられ、その部分が押し潰されて、周りも巻き込まれるように倒れ込み、押し潰した元である触龍を包み込むようになっていた。

「……ク、ククク……実に愚かな策じゃったが……やってみるもんじゃな……!」

 残骸に逆に押し潰され、身動きの出来ぬ『手記』が、それでも満足気に微笑んでいた。クリフォトを守っていた魔族も、その殆どが散らばったクリフォトに押し潰され、物言わぬ骸と化していた。
 どこからか、勝利を確信した生徒の勝どきが聞こえる。圧倒的な数の差を抱えながら、苦しみながら、彼らはジャタの森に出現したクリフォトを破壊し、魔族の侵攻を防いだのだ――。

 そう、誰もが思っていた。

 再び揺れが起こり、残骸と思われていたクリフォトが少しずつ、地面に吸収されるように消えていく。触龍も、『手記』もそれらに混ざり合うようにして地面に吸い込まれ、消えてしまった。
「手記……!」
 ただ呆然と、その光景を見守るしかなかったラムズがへたり込む。まだ心の中に、『手記』が失われていないことは実感できるが、それでも目の前で消えてしまったことはショックであった。
(消えた……? まさか、あれほどの攻撃を受けて、まだ活動できたとでも――)
 誠一が思考に耽りかけた直後、また中規模の揺れが生じる。
「お、おい、あれを見ろ! あれはまさか……」
 誰かの声が聞こえ、誠一はそちらを振り向く。
 ――ジャタの森の中間よりやや東、南に雲海、北にパラミタ内海を臨む辺りに、先程自分達が懸命に潰そうとしていた樹――クリフォトが出現したのであった。
「ああ、手記……!」
 また声が聞こえ、そちらを振り向くと、クリフォトの消滅と共に消え去っていたと思われていた『手記』が地面から吐き出されるように現れ、ラムズが駆け寄っていた。実際はどうだか分からないが、食すには少しばかり、毒が強すぎたようである。


 それより少し前。プスプス、と樹がくすぶり、荒れ果てた地に、倒れる二つの人の姿があった。
「……俺は……あいつらの戻る場所を……守……る……」
 それは、うつ伏せに倒れるイグゼーベンと、大の字に倒れるヴァルであった。二人は駆けつけたキリカとゼミナーに助け出され、即座に治療を受けることで命の危機からは脱することが出来た。

 ――アルコリアこそ、エッツェルにより足止め叶ったものの、やはり600にも及ぶ魔族の軍勢を、10組にも満たぬ契約者で食い止めるのは難があり過ぎた。
 皆、懸命に戦ったものの傷つき、倒れ、結果として魔族の突破を許してしまった。

 しかし、契約者の防衛線を突破した魔族もまた、傷つき、数を減らしていた。
 このままではたとえ森を抜けてカナンに侵入した所で、カナンの防衛軍に圧倒されてしまう。

 そこで彼らが取った策は、『自らを犠牲に森を汚し、周囲を闇の力で満たし、クリフォトをその地に顕現させる』であった。
 約半数が残り、そしてそれらの血と肉を以てすれば、クリフォトが顕現出来るだけの汚れは十分生成出来た。

 そして、クリフォト(クリフォトの分身)はジャタの森ほぼ中心に再出現した。
 今度こそ軍勢を整え、カナンの地を蹂躙するために――。

「そんな、みんなあれだけ頑張ったのに、今度はもっと奥の方に出てきちゃったよ!?」
 戦いが終わったと思っていた所に再びのクリフォト出現の報告を受けて、リンネが意気消沈する。
「リンネさん、まだ諦めるのは早いです! あの樹はまだ、シャンバラ側にあります。
 ここでもう一度頑張って、あの樹を無くせば、今度こそ魔族を押し返せます!」
 励ましの言葉をかける博季、その言葉には何の根拠もなかったが、そう信じなければ自分自身も、リンネも絶望に押し潰されてしまう。
「……そうだよね、諦めるのはまだ早いよね。この子もまだ動ける。戦う力はまだ残ってる!
 諦めない限り、私たちは終わらない!

(再びの出現……私たちのしてきたことは、無駄だったというのか?
 ……いや、違う。決して無駄などではない。ザナドゥもあれだけの魔族を失った、そうすぐに出ては来られない。
 我々はもう一度、チャンスを得たのだ。今度こそこの地から、魔族を退けるための、たった一度の機会を)
 心に湧き起こる無力感、絶望感を振り払い、涼介が前方を見据え、水晶に手をかける。
「我が魔力は賢明、我が思いは慈愛。光の力を以て、ソーサルナイト、その力を覚醒させジャタの森を照らす希望の光となれ」

「私達は仲間を守る為、何度倒されても立ち上がり、絶対に守ってみせる!」

「悲しみや憎しみは置いていくよ。純粋な想いで、今こそアルマインに目覚めの時を!」

 ただ前へ、自ら為すべきことを為そうとするため、ハッキリと告げた各人の言葉が、それぞれの愛機へと染み入るように溶け込んでいく。
 瞬間、暖かな春の日差しを思わせる光が、機体の内から外へじんわりと広がっていく――。


 現地の者から報告を受けたエリザベートは、対応をアメイアとニーズヘッグに託すことにした。
「ああ、全速で準備して、全速で駆けつけてやる。……アメイア、異論はねぇな?」
「言うことがあったとしても、それはこの事態を解決してからだ。……二度救ってもらった恩には報いよう」
 準備のためイルミンスールからイナテミスへ移動する二人を見送り、校長室にはエリザベート、ミーミル、フィリップとルーレンだけが残る。本来なら人払いをしたかったのだが、どうしても残ると言い張る生徒もいた(いきなり『教頭先生が来る』と聞かされて、校長室から出て行ける生徒もそういない)ため、希望する生徒は校長室に残らせている。
「教頭先生……一体誰が来るんでしょうね?」
「失礼ながら……わたくしたちにとって都合のいい御方でないことだけは、確かのように思いますわ」
「えっと……仲良く出来るといいですね」
 三者三様の感想が飛び交った直後、扉が開かれ、“教頭先生”が姿を現す。

「この度EMUの勅命を受け、イルミンスール魔法学校の教頭に就任することになりました、メニエス・レインです。
 ……お久しぶり、というべきかしらね、エリザベート校長」

 かつてイルミンスール魔法学校の一生徒だったメニエスが、今は教頭という地位を手に入れ、再び魔法学校に舞い戻ってきたのであった――。

担当マスターより

▼担当マスター

猫宮烈

▼マスターコメント

猫宮烈です。
『イルミンスールの岐路〜抗戦か、降伏か〜』リアクションをお届けします。


ジャタの森攻防戦については、
・ジャタの森は突破された。しかし、敵も一定の損害を受けていたため、一気にカナンに進出は出来なかった。
・出現したクリフォト(分身)、及びその周囲を守っていた魔族は撃退された。
・しかし、新たなクリフォト(分身)がジャタの森真ん中やや東側付近に出現した。今はまだ、魔族の姿は見られない。

という判定になりました。
森の方で戦っていた契約者は、負傷こそしましたが、命は失いませんでした。


クリフォトに向かった生徒たちの内、4組はアーデルハイトによってクリフォト本体へ招待される形になりました。
またそれに便乗して、1組がクリフォト本体へ進入しています。


EMUについては、元々の議席数に加え、契約者たちの行動を加味した上での判定になっています。
判定の結果、僅差で『校長を補佐する教頭という役職を新たに設ける』となりました。


以後の結果を踏まえて、2回目に続きます。
次回もよろしくお願いいたします。

※08/24追記:PC名の間違い・リンク漏れを修正しました。誠に申し訳ございませんでした。