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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―
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リアクション

「さあ、皆さん。整備が完了しました。これが最後の決戦になると思います。悔いのないように戦ってきて、無事に帰ってきてくださいね」
 真琴がパイロット達に向かって言い放った。
 F.R.A.G.第一部隊が出撃し、最終調整を終えたシャンバラのイコン部隊が後に続く形となる。
「いくよ、ユメミ……いくよ、セレナイト」
 端守 秋穂(はなもり・あいお)ユメミ・ブラッドストーン(ゆめみ・ぶらっどすとーん)と認証カードキーに声を掛け、機体に乗り込んだ。
 機体はこれまでのイーグリットではなく、ジェファルコンだ。前の戦いでは踏ん切りががつかなかったが、ベルイマン科長のおかげで決心がついた。
「うん。頑張ろー!」
 今の秋穂に迷いはない。その様子に、ユメミも安心しているようだ。
 機体の状態は万全。
 ハンガー内部からエレベーターを通じてデッキへと運ばれ、カタパルトにセットされる。
「行こう、皆で一緒に。どこまでも……!」
 スロットルを押し込む。
 それに合わせてカタパルトのシャトルが急加速し、空母から機体が射出された。

「機体のコンディションはばっちりだぎゃ」
 夜鷹が出撃準備に入ろうとしているアルテッツァに言う。
「ゾディ」
 レクイエムは彼と目を合わせた。
「……パートナーがいるってことは、そう簡単に死ねないってことなのよ。
 生き残りなさい。アタシと……アンタを盲信するその子のために」
 アルテッツァの傍らにいるすばるを指差す。
「当然ですよ。ボクはまだ生きてなければいけませんから」
 その顔は、何かを悟ったかのようだった。

「翔、準備はいいか?」
「ああ」
 辻永 翔(つじなが・しょう)アリサ・ダリン(ありさ・だりん)もジェファルコンへ向かう。
「翔くん!」
 桐生 理知(きりゅう・りち)は翔に声を掛けた。
「今回も、一緒に戦おうね」
 それに対し、翔が静かに頷いた。
「あいつらの好きにさせるわけにはいかない。必ず勝って、一緒に学院へ帰ろう」
 一言、理知に告げ、機体に乗り込んだ。
「うん、絶対に……」
 その背中を見送り、いつものようにお守りを握り締めていつものように誓いを立てる。
 あまり感情を表に出さない翔ではあるが、並々ならぬ覚悟を持ってこの戦いに臨もうとしているのが伝わってきた。
 この前、ジェファルコンをもってしてもカミロに軽くあしらわれたのが悔しかったのかもしれない。そして敵の軍勢に、あの男はいると判明している。
(今度こそ、決着つけるつもりなんだね)
 何度も戦場でぶつかり、彼を超えようとしてきたのを理知は知っている。そこに憎しみのようなものはなく、純粋な目標としているようにも感じた。一度は倒したが、今度はカミロが強くなって再び現れた。カミロは表面上、自分達を子供扱いしているがその実パイロットとしてかなり意識しているようにも思える。
(もし、この戦いが終わって彼が生きていれば、天学に誘えないかな……)
 元々カミロはシャンバラ側の人間だ。戦いが終われば、彼の新しい居場所として戻ってきてもらえないものかと理知は考えている。カミロほどの実力者ならば、教官も務まるはずだ。
 だが、そうするためにも、まずはこの戦いを乗り越えなければならない。

 そしてもう一人、カミロをライバル視している者がいる。天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)だ。
「鬼羅ちゃん、整備の方はバッチリやで」
 リョーシカ・マト(りょーしか・まと)が知らせに来た。カミロと戦うことを前提に、取り回しの利く銃剣付きアサルトライフルをジェファルコンに装備させている。新式プラズマライフルはあえて置いていくつもりだ。
「それと鬼羅ちゃん例の件、き、聞いといたで」
「そんで、どうだった?」
 鬼羅は前の戦いの後、ジェファルコンの機体性能に一種の違和感を感じていた。
 ――トリニティ・システムという新しい技術が使われていながら、従来機と大差ない「覚醒」であること。
 試作段階の機体だったとはいえ、まだジェファルコンには何かが隠されているような気がしてならなかった。
「これが、『完全覚醒』用のコードや。せやけど、リスクも大きいから使うタイミングは考えないとあかんで」
 あくまでも最後の切り札、ということらしい。
「こんでカミロの野郎に一泡吹かせられるぜ」
 あの男を今度こそ倒す。
(カミロ、オレは負けてらんねーんだ。こんなとこで世界が終わっちゃ困るんだよ!)
 この世界にには護るべき仲間や家族がいる。
 かつて双子の妹を亡くした鬼羅は、大切なものを護れるように力を求め続けてきた。二度と、失わないために。
「大切なみんなとこれから笑って生きていくためにも、この戦い負けられへんのにゃ!」
 意気込むあまりか、リョーシカは噛んでしまった。
「んじゃ、連中の野望をぶっ壊しにいこうぜ!」

「いい早苗、どうやら自分を無にしてイコンを受け入れるとBMIシンクロ率100%までいけるっぽいわよ」
「自分を無に、ですか?」
 首を傾げる橘 早苗(たちばな・さなえ)に、葛葉 杏(くずのは・あん)が解説する。
「無=0の二人にイコンという1を入れて100%ってことね」
 実際には一人が無、もう一人がパートナーの意思を預かった上で機体と完全に同調することによって、達成されるものだ。「完全適合体」とは、パートナーの意識と自分の意識を混同することなく膨大な情報を脳内で分割処理し、自らが「イコンの制御システム」となれる者である。完全適合体がイコンの頭脳、パートナーがイコンの手足となっているとも言える。
「まるで頓知のようですぅ」
「でもそんな受身な方法は、私はやらないわ」
 自分の意思を殺し完全に機体に身を委ねることを否定する。
「私達が目指すのは、互いが互いを受け入れる、いわば111%なのよ!」
 無意識で100%なら、意識を保ったまま自在に機体を駆れればそれ以上になれるはず。そう杏は考えた。
「アイドルスターを目指すこの私、モブの早苗、そしてポーラスターの『本当の意味での』三位一体で頑張るのよ!」
「私だけ扱いが酷い!?」
 早苗からの突っ込みが入った。
「そうと決まれば、私達も出撃準備よ!」

「無茶苦茶な話ですが……私はこの戦から逃げたくありません。颯希、危険な戦いになるかもしれませんが行けますか?」
 月舘 冴璃(つきだて・さえり)は傍らにいる東森 颯希(ひがしもり・さつき)を見遣った。自分達は第二世代機ではなく、自機のコームラントで出撃することになっている。その上での確認だ。
「冴璃、前よりもなんか強くなったね……。大丈夫。死ぬと言われても私は冴璃と一緒に飛ぶから!」
 冴璃同様、颯希の意志を固いようだ。
 ここが正念場。全力で戦い抜き、その先に向かうため、二人は戦場へと飛び立った。

* * *


『こぉれが敵の情報だ』
 機体に乗り込む前に、【戦術情報知性体】 死海のジャンゴ(せんじゅつじょうほうちせいたい・しかいのじゃんご)がPASDから得た敵に関するデータを、ダークウィスパーの面々に見せた。
「原初のイコンに、F.R.A.G.の人達をもって化物と言わしめる特務の方々、それにあの海京決戦にいたデカいヤツの改良型ですか……」
 エルフリーデ・ロンメル(えるふりーで・ろんめる)は声を漏らした。
「それでも負けるわけにはいきません。この前の戦いで死んだリオっちのためにも、敵は討たねばいけませんからね」
『あぁ……惜しい奴を亡くしたな……』
 『暴君』【サタン】との戦いの後、同じ部隊の仲間が一組戻ってこなかった。そのときの状況を聞いたが、生存は絶望的なように思えた。
「リオっちね……いい子だったよ。でも不思議と死んだって気はしないんだ……」
 リーリヤ・サヴォスチヤノフ(りーりや・さう゛ぉすちやのふ)が静かに口を開く。
 彼女達はその現場に居合わせたわけではない。だから、まだ実感がわかない部分もあるのだ。
「行きましょう。戦いを終わらせ、先へ進むために」
 エルフリーデとリーリヤはコックピットに乗り込んだ。

「しかし十七夜リオ……惜しい友を無くしたな。草葉の陰から見守ってておくれよ」
 御厨 縁(みくりや・えにし)は死んだとされている隊のメンバーの顔を思い浮かべた。
 彼女のためにも、この戦いは負けられない。その思いは、エルフリーデ達と同じだ。
「……縁ちゃん。戻ってきてね」
 ギリギリまで調整をしてくれていたシャチ・エクス・マシーナ(しゃち・えくすましーな)が、機体に向かう縁とサラス・エクス・マシーナ(さらす・えくす ましーな)を見送ってくれている。
「もちろんじゃ。ここでしばらく待っておれ!」

「兄さん、私達も」
 ルーチェ・オブライエン(るーちぇ・おぶらいえん)狭霧 和眞(さぎり・かずま)を見遣った。
 機体には元々の【トニトルス】で装備していたショットガンが移設されている。認証カードキーの中にある従来機のデータともども、ジェファルコンに受け継がれた形だ。
「これが最後の戦いになれば……いや、絶対にここで決着をつけるッスよ」
 最後の戦いになればいい、ではなくここで全てのケリをつける。そう彼は決意しているようだ。
「それに、リオさんも行方不明だとか死んだとか言われてるけど、仲間のことをそう簡単に諦められるかよ! 早く終わらせて、皆で探しに行くッスよ!!」
「はい!」
 まだ死んだと決まったわけじゃない。生きていることを信じ、戦いへ向かう。

* * *


「事情は分かった。そのメアリー――元F.R.A.G.第一特務ミス・アンブレラを止められる可能性もあるようだし、乗ってみる価値はあるだろう。協力しよう」
「……と、いうわけで、お二人にはブルースロートでの援護をお願いします」
 リンドセイ・ニーバー(りんどせい・にーばー)は、ブルースロートに搭乗する笹井 昇(ささい・のぼる)デビット・オブライエン(でびっと・おぶらいえん)に依頼した。
 桐生 景勝(きりゅう・かげかつ)がPASDに入っていることもあり、敵に関する大体の情報は共有出来ている。今は、あることを確認しに行っている。
 だが、白いクルキアータ【アスモデウス】のパイロットであるミス・アンブレラの正体がメアリー・フリージアだと知っているのは、シャンバラ側では景勝とニーバー、PASD情報管理部のロザリンド、そして今景勝達から話を聞いた昇とデビットだけだ。
「で、そのメアリーちゃんっていうのはどんな人なんだ?」
「完全無欠の超絶美人です」
 デビットの問いに、きっぱりとニーバーは答えた。
「完全無欠か。でも、景勝がずいぶんご執心ってことはあいつのタイプでいう美人なんだろうな」
 デビットの中の美人のイメージと実際のメアリーの姿はかなりズレていそうだ。そういえば、メアリーと知り合う前まで景勝は二次元の女の子に対して「俺の嫁」発言をしていたこともあったような気がする。
「あ、これメアリーさんの写真です」
 と、いうことで彼女が女優業を引退する前の雑誌の切り抜きをデビット達に見せた。
「……美人どころの騒ぎじゃねーだろ、これ」
 想像以上だったのか、デビットが驚愕している。
「まさかとは思ったが、あのメアリー・フリージア本人とは……」
「知ってるのか、昇?」
「一応、家の都合もあって女性もののブランドとかも見てきている。それに、彼女が手掛ける『MARY SANGLANT』といえば空京にもブティックがあるくらいだ」
「そんなのが化物染みた強さのイコンパイロットとは、分からねーもんだな」
 そこへ、景勝が戻ってくる。
「どうでした、景勝さん?」
「なんとかなりそうだってよ。それと、ジェファルコンの真の力についても聞けたぜぇ」
 景勝が確認しにいった内容。
 それはメアリーが生き残った際、彼女の正体をシャンバラ、F.R.A.G.の双方にバレないように出来ないかというものだった。
 絶対の保障は出来ないが、おそらく可能だとPASDに縁のある情報屋が言ったとのことだ。
 それともう一つ、完全覚醒についてだ。何やらジェファルコンにはまだ「上の段階がある」のではないかと、疑問を持つパイロットがいる。二人もそうだった。
 整備科代表に尋ねたところ、教えてもらえたらしい。
「こんで準備完了ってとこだ」
 彼も来たことなので、機体に搭乗することにする。
「景勝、おめえの尻は俺が護ってやる。しっかりやって男見せてこいや」
 そんな声援が、向かう際に送られてきた。
「戦死されたりしないように作ったジェファルコンだ。万一のことがあったらナラカまで追いかけてどやしつけてやるから覚えてろ!」
 機体に乗り込もうとしたとき、機体の整備をしてくれていた佐野 誠一が声を掛けてきた。
「なに、ちょっと女の子の相手をしに行くだけだ。ベトナムんときみたいなことにゃならんぜ?」
 その返答に怪訝そうな顔をする誠一だが、景勝の言葉に嘘はない。

「……余計なことだが、デビット。護るのは背中だ、背中。尻じゃないぞ」
「なに、どっちでも似たようなもんだろ」
 自分達もまた、機体に乗り込み出撃準備を整える。
「にしても、なんとか卿がくたばったと思ったら、全部野郎に押し付けてなかったことにしようとか、やり方がせこいっつーの。死人に口なしかよ」
「それでも、こうやって協力体制は築けたんだ。実際F.R.A.G.の面々もだが、そういうのを決めるのは『上』にいる人間で、多くの人は巻き込まれているに過ぎない」
「そりゃ分かってるさ。ただあの人を食ったような態度のロリシスターが、どうにもな」
 デビットはあまり地球サイドに好意的になれなかった。
「つってもまあ、地球に住んでる他の人間に罪がねぇのも事実だし、まだ観光もろくにしてねぇんだよ。無事に帰って、今度こそ色々見に行きたいもんだぜ。夏休みも近いしな」
「夏休みがちゃんとあればいいが……海京の復興作業もあるだろう」
「むしろ、それが理由で休みが長くなったりすんじゃねーかな」
 どのみち、この戦いを無事に乗り越えなければそういった可能性もなくなる。
「よし、準備完了だ。出るぞ」
 景勝達の機体に続き、昇とデビットの乗ったブルースロートがトゥーレから飛び立った。

* * *


「ピッカピカの次世代機だ!落とされんじゃねーぞ!」
 出撃していく機体を見送りながら、誠一が叫んだ。
「あと死んでも生きて帰ってこい!」
 なかなか無茶な物言いだが、パラミタの場合、まれに死んでも魔鎧だったり奈落人になったりして帰って来たりするので、案外分からない。
 とはいえ、ちゃんとイコン部隊の皆が無事に帰ってくるのを願うばかりだ。
「さてと、パイロットの皆さんが帰ってくるまで時間もありますから、少し休みましょうか。疲れた顔より、笑顔で迎えてあげた方が皆さんも安心出来ますからね」
 出撃するイコンを見届けると、真琴が口を開いた。
「そうだね。今のうちに身体を休めておいた方がいいかも。でも、これだけ広いと仮眠室まで戻るのも面倒だし、このまま整備場で寝ちゃおうかな」
 そう言うと、未沙はタオルケットを運んできた。
「こんなこともあろうかと、持ってきてあるんだよね」
 トゥーレの乗員に言えば貸してもらえそうなものだが、どうにも気が引ける。
「一眠りしたら、いつ戻ってきてもいいように、整備場を万全の状態にしてスタンバイしておかなきゃね!」
 簡単なセッティングだけは済ませ、整備組は休憩に入った。

「さて、私も一休みしようかしら」
 雅香も他の整備士達と同じように、身体を休めようとする。
 一歩踏み込んだ瞬間、スニーカーの靴紐が切れた。整備をするときは履き慣れたものでずっと通していたので、紐が弱っていたしても不思議ではない。
 しかし、タイミングがタイミングなだけに、不安を感じてしまう。セルフモニタリングでそんな自分を省み、心を落ち着かせる。
(大丈夫よ、あの子達なら)
 無事に帰ってくると強く信じ、雅香は待つことにした。