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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―
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リアクション

 古代都市、市街区上空。
「皆さん、これを」
 関谷 未憂(せきや・みゆう)はPASD情報管理部から借りた無線通信機を地上部隊の面々へ配布した。
 海上のイコン空母トゥーレが電波の中継地点となっており、少なくとも都市の地上部分では使えるようになっているはずだ。
「F.R.A.G.とシャンバラのイコン部隊が敵を引きつけている。今のうちに降下するぞ」
 ホワイトスノー博士が声を掛けた。
「ねえ、ジール。もし、貴女は『やり直せる』としたら、やり直したい?」
 罪の調律者は、ループの一件を思い出しながらホワイトスノーに尋ねる。
「……ああ」
「それでも駄目だったら?」
「何度でもやり直そうとするだろう。それを成し遂げる、あるいは自分が壊れるまで」
 よっぽど、ノヴァに対し負い目を感じているのだろう。
「……『彼』も、きっとそうなのよね」
 セラの思い描いた、あるべき世界を創るために。だが、そのために犠牲を払うことなど、彼女は望まないはずだ。
「お互いの、決着をつけに行きましょう」


第二楽章「決戦」


 ――神様ごっこは終わらせる。
 世界を洗い流す、その言葉が頭の中に響いたとき、叶 白竜(よう・ぱいろん)は決意した。
 海京クーデターにおける管区長との戦いで、彼は内臓の一部を損傷している。動くのがやっとなほどだ。
 それを、肉体の強化を応急処置代わりにして痛みを軽減し、こうしてやってきた。もちろん、無理はしないという前提ではあるが。
「全員、無事に降下が完了しましたね」
 ちゃんと地上部隊が全員いるかを確認する。
「道は私達が開きます。あの人物が控えているとなれば、そこに辿り着くまで皆さんは温存しておかなければなりません」
 彼の役目は、中枢へ行く者達の護衛。
 敵はパラミタにおける『神』と同等、いやそれ以上の力を持つ者だ。万全の状態でなければ厳しいだろう。
「相変わらずだね、白竜は」
 いつもと変わらず冷静な白竜を見て、世 羅儀(せい・らぎ)がひっそりと呟いた。
「こういう事態だからこそ、平常心であるべきです」
 そんな彼の様子に感心しているようであり、同時に恐れているようでもあった。
 白竜が身体を引きずってまで来たのには、理由がある。黄 鈴鈴のことだ。
 クーデターのとき、あと一歩で彼女を制圧、保護出来るはずだった。だが、彼女が最後の抵抗を見せ拘束を解いたかと思えば、味方は全滅。倒れ伏していた自分はその様子を眺めることしか出来なかった。
 そこにダメージを負ったパワードスーツ「ストウ」が飛来、鈴鈴が血を噴かせながらそれに立ち向かっていったところで意識を失ってしまう。そして意識が戻ったときに、彼女は死亡したと知った。
 その後、クーデターの報告資料から情報を集める中で、南地区の制圧に関わった未憂から鈴鈴にまつわる話を聞いた。
 なぜ彼女が契約者でもないのに、あれほどの強さを発揮できたのか。なぜあそこまで軍人に対し憎悪と敵意を剥き出しに出来たのか。
 元々は中国軍部の人間である白竜にとって、思うところはある。ただ、彼女のために何かしてあげられるわけでもない。
 ただ、いずれはどこかにいるであろう唯一の身内である双子の姉に、背景に何があり、彼女はなぜ死ななければならなかったのか説明しなければならないだろう。
 その核心に迫る者達を護り、導く。今の自分に出来ることはそれだけだ。
「まあでも、何が冷徹で何が優しさかなんて、多分最後までわからないものなんだろうね……物事が全て終わってしばらく経つまで」
 白竜の心中を察したかのように、羅儀が言葉を漏らした。
「影……あれが敵というわけですか」
 敵のお出ましだ。
 風に流れてカードが飛んできたかと思うと、それらが影を纏い始めた。
 人型だけではない。魔獣の姿をしたものも見受けられる。
(本体はカード。それを潰せば……)
 クーデターよりも前に起こった海京決戦に現れたという影と同じなら、カードを失えば消えるはずだ。
 前方に立ち塞がる影達を、パイロキネシスで一掃する。影に隠れてカードが見えないならば、影さえも侵食するほどの炎で燃やせばいい。
「走って飛ぶのはオレがやるから、白竜はできるだけじっとしていてくれ」
 あまり動けない白竜へ負担をかけないためか、燃やし損ねたカードに、羅儀が銃弾を撃ち込んでいく。
「援護します!」
 そんな彼らを、同じ教導団のグロリア・クレイン(ぐろりあ・くれいん)が援護する。
 弱点となっているカードは、影が形を成しているときは見ることが出来ない。しかし、何らかの攻撃を受けた際に影が乱れ、姿を見せることが多々ある。その瞬間を狙えばいい。
 だからこそ、白竜のパイロキネシスと射撃による援護は相性が良かった。
「ぐ……っ!」
 だが、いくら身体を動かさないとはいえ、超能力の酷使は負担になる。だが、それが顔に出る前に必死で抑え込み、すぐに次の行動に移る。
 影を形成するカードが燃え尽きる前に、それに触れる。そしてサイコメトリを行った。
「なるほど……あそこですか」
 カードの主――ローゼンクロイツがどこからカードを放ったのかが分かった。上空から見たとき、ちょうど都市の中央に位置する施設にいる。あとはそこまでの道を開けばいい。
 しかし、そのとき影達の動きに変化が起こった。
 いくつかの影が集合し、巨大化していく。
 その姿は――。

「ヤマタノオロチ……!」
 御凪 真人(みなぎ・まこと)は目を見開いた。
 八つの頭と八本の尾を持つ姿は、日本神話に出てくる怪物を彷彿とさせる。
「なるほど、ここを通りたければ倒していけ、ということですか」
 見た目は物々しいが、影は影だ。恐れる必要はない。
「博士、皆さん。ここは俺達が引き受けます。先に進んで彼らの目的を潰して下さい」
 口元を緩め、他の面々を見遣った。
「俺はまだこの世界を捨てたものじゃないと思ってますから。こんなことで未来の可能性を捨てたくはないんですよ」
 それを否定する者達に、示してやろう。その可能性というヤツを。
「私達も手伝いますよ。わざわざカードを集合させたくらいですから、ここで止める気なのでしょう」
 白竜と羅儀の二人も加わった。
「あるいは、『この程度も倒せないようでは自分達に挑む資格はない』ということでしょうか。何にせよ、俺達がコイツを止めている間に突破してもらわないといけませんね」
 戦闘態勢に入る。
「人の可能性や価値を見いだせず、多様な生き方を、考え方を抱え込み切れぬような小さな器の者に神を気取る資格など無い」
 影の怪物を見据え、白竜が静かに告げた。
「超能力のスキルでは無く魔法ですがブラウさん、あなたの雷神の二つ名を貸してもらいます」
 クーデターで死んだブラウ・シュタイナーの姿が、真人の脳裏を過ぎった。
「……あのヘタレヤンキー、死ぬのがかっこいいとかふざけるんじゃないわよ。生きてる事こそかっこいいって事でしょうが」
 「雷神」という言葉を受けて、セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)が呟く。
「もしも残って一緒に戦っていれば違う結果だったかもしれません。「もしも」がないのは判ってますよ。しかし、最後に彼だけに任せてしまった、自分自身に腹が立つんですよ。傲慢かもしれませんけどね。ですが、そういう戦う上で邪魔な感情は心の底に封じ込めますよ」
「わかってるわよ。怒りに捕らわれると周りが見えなくなるくらい。ならこの気持ちをここで爆発させるわよ!」
 セルファがレーザーナギナタを構える。
「今回は出し惜しみなどしません。全開でいきます!」
「今日の私は加減を知らないわよ。さあ、かかって来なさい、影の化物!」
 二人とも、気合は十分だ。
 しかし、そうやって自分に言い聞かせるのは重要だ。影の怪物は常時アボミネーションを発動している状態だ。
 そのおぞましい気配が、見た目通りの「怪物」を演出するのに一役買っている。
 セルファが頭の一つを引き付け、それをレーザーナギナタで切り落とした。だが、あくまで影でしかないそれは、すぐに再生を始めてしまう。
「……っ!」
 間髪入れず、別の頭部によるブレス攻撃が繰り出される。そこへ、閃光が迸った。
 真人は自らが放ったサンダーブラストを視界に映し、一時的に霧散する影を追った。
「外れましたか」
 霧散した影が再び集まっていく。
 だがその前に、神の目による光を影へと衝突させた。
「カードの位置は……」
 その数、九。
 胴体の中に見えた物だけではなく、それぞれの中にも核となっているカードがあった。
 その全てを倒さなければ、この影は消滅しないだろう。
 再び怪物の姿を取り戻そうというとき、それが炎に包まれた。白竜によるパイロキネシスだ。
「今のうちです、さあ!」
 カードの位置は大体覚えている。
 再びサンダーブラストを唱え、頭部のカードを消し飛ばした。パイロキネシスによって焼かれたものもあるため、残りは頭一つと胴体だ。
「セルファ、お願いします!」
 真人は声を上げた。
 それを合図に、セルファが強化光翼を開き、バーストダッシュで影の中へ飛び込んでいく。加速したその状態から、彼女がライトブリンガーを叩き込んだ。
 影の一部が吹き飛ぶことによって、核となっているカードが姿を露にする。
「真人!」
 セルファが空中で後ろに回りながら、頭部のカードを貫くのが見えた。
 距離、発動準備、共に完了。
 一筋の雷光が、影に叩き落とされた。
 天のいかずちにより最後のカードが消滅し、影はそのまま風に乗って流れていった。
「後は頼みましたよ……」
 連続した高威力魔法の使用により、真人の魔力は限界だった。
 真人達は彼らに希望を託し、中枢へと足を踏み込んでいく仲間達を見送った。