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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第3回/全3回)

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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第3回/全3回)

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    ★    ★    ★
 
「いったい、どうなっているのー?」
 あわててレイヴンTYPE−E・アルヴィトルのコックピットに飛び込んだココナ・ココナッツ(ここな・ここなっつ)が、シフ・リンクスクロウに訊ねた。レイヴンと分からぬように追加装甲で擬装した機体は白いイーグリットシルエットだ。
「ちょっと待ってね。今、偵察機から通信が……」
 ヘッドセットを耳に当てて、シフ・リンクスクロウが答えた。ヘッドホンからは、ノンスクランブルで全周波数に流された佐野 和輝(さの・かずき)の声が聞こえてくる。
『というわけで、隊長が裏切りました。現在、この遺跡、いや、巨大イコンは自爆攻撃をするために世界樹へとむかっています。その破壊力は、単機で最低限世界樹を消滅できると推測されます。最大値は不明です。現在、全体を把握したイルミンスール魔法学校から、森林火災は事故と見なすという言質を得ています。また、依頼自体が罠であったため、傭兵諸君に報酬は出ません。というか、欺されたんだ、やられた以上やり返せ、みんな!!』
「なんだってえ! おのれ、貴重な活動資金を!!」
 佐野和輝からの通信を聞いたドクター・ハデスが怒り狂った。これでは赤字ではないか。
「ヘスティア、かまわん、隊長のイコンをぶっ壊してしまうのだ。スクラップとして売りさばいて、活動資金の足しにしてやろう」
「分かりました、ハデス博士」
 淡々と答えたヘスティア・ウルカヌスが、事務的にミサイルをミキストリにむかって発射した。
 だが、無人と思われたミキストリが、近くにいたリーフェルハルニッシュをバインダーソードで串刺しにし、そのまま盾にして攻撃を防いだ。爆散したリーフェルハルニッシュの破片が格納庫内に飛び散る。
「ちょっと、赤ちゃんがいるんだからあ!」
 イーグリットの陰に隠れて爆風をなんとかやり過ごしたシルフィスティ・ロスヴァイセが叫んだ。
「無人じゃなかったの?」
 やっとツェルベルスのコックピットにおさまった志方綾乃が言った。
「サブパイロットとかは残ってなかったのですか?」
 リオ・レギンレイヴが聞いた。
「そういえば、メイドタイプの機晶姫が……。とにかく、ラグナたちが脱出する時間を稼ぎます」
 格納庫扉近くのリーフェルハルニッシュにむかってレーザーバルカンを放った志方綾乃であったが、ほとんどダメージを与えられない。
 リーフェルハルニッシュ表面の文様が明るく輝いてくっきりとなる。
「直撃のはずよ!?」
「敵表面に、奇妙な文様が浮かびあがってますわよ。どうやら、あれで無効化しているか吸収しているようですわね」
「だったら、これです!」
 機龍の爪を振り上げると、志方綾乃はリーフェルハルニッシュの装甲を切り裂いて引きずり倒した。すかさず、メタルファングで頭部を食い千切って止めを刺す。
 その間に、小型飛空艇ヘリファルテに乗ったマール・レギンレイヴが、サイコキネシスで壁の開閉スイッチを押した。格納庫の扉が開いていく。
「しっかりついてきてよ!」
 ミサイルで扉近くの邪魔なリーフェルハルニッシュを外に撃ち飛ばしたマール・レギンレイヴが、格納庫を飛び出していった。その後ろから、小型飛空艇アルバトロスが素早く脱出していく。志方綾乃がリオ・レギンレイヴたちと一緒に呼び寄せていた凄腕の執事たちが飛空艇を運転し、中にはヘルわんこたちをかかえたラグナ・レギンレイヴが乗っている。
『そちらは、そのまま安全地帯まで脱出してよ。こちらは、森で待機して綾乃たちを待つから』
『分かった。気をつけろよ』
 短く通信でやりとりを交わすと、二機の小型飛空艇は分かれていった。
 それを追うかのように、格納庫からは次々とリーフェルハルニッシュが外へと飛び出してくる。飛行機能も有しているらしく、バタバタとマントを風にはためかせながら、遺跡の周囲に展開していった。
「私たちも脱出するわよ」
 シフ・リンクスクロウもアルヴィトルで外に出ようとするが、順次発進を待つリーフェルハルニッシュに行く手を阻まれた。
「どきなさい!」
 ビームサーベルを抜くと、立ち塞がるリーフェルハルニッシュのソードと切り結ぶ。本来なら敵の剣ごと切り裂いてしまうはずが、受けとめられてあまつさえ押し返された。
「敵のシールドの力が上がっている? それとも、こちらのパワーが戻っていないのか……」
 先の戦闘では少なからず損傷したため、万全の態勢とは言いがたい。イコンホースを新型機へと回したのも出力の低下を招いていた。現在の攻撃能力は、擬装している標準のイーグリットよりも落ちているようだ。
『――ミネシア、ランデブーポイントへアイオーンで急いで』
 精神感応で、ミネシア・スィンセラフィ(みねしあ・すぃんせらふぃ)に呼びかける。
「シフ、左!」
 ココナ・ココナッツが叫んだ。左側から、別のリーフェルハルニッシュが剣を振り下ろしてくる。
 左肩の純白の装甲が浅く切り裂かれるも、敵が被弾して後方へと吹き飛んだ。
『早く、脱出しろ!』
 ツィルニトラのアサルトライフルで援護射撃をした瀬名千鶴の後ろで、デウス・エクス・マーキナーが叫んだ。それでいいわと、テレジア・ユスティナ・ベルクホーフェンが静かにうなずく。
『すみません』
 実弾の方が有効だと悟ったシフ・リンクスクロウが、自分もアサルトライフルを使って、0距離射撃でリーフェルハルニッシュの胴部に風穴を開けた。
「道を作るわよ!」
 当面の敵対していた二機のリーフェルハルニッシュが排除された隙を突いて、志方綾乃のツェルベルスが突っ込んできた。大型四足歩行イコンの体躯を生かして、こちらに背をむけていたリーフェルハルニッシュの群れを押し出すようにして蹴散らしていく。
志方ないですね。そんなに出たいなら、押し出してあげます」
 ドーンと、一気にリーフェルハルニッシュを外に押し出して、ツェルベルスが格納庫を脱出した。突き落とされる形になったリーフェルハルニッシュが、体勢を立て直せずに地上に落下する。その上に下りてきたツェルベルスが、リーフェルハルニッシュを踏み砕いて破壊した。
 その後から、ツィルニトラとアルヴィトルが続いて脱出してくる。
『来たよ、シフ!』
 一直線に飛び出したアルヴィトルの上に、進行方向と速度を合わせた機体が現れた。ミネシア・スィンセラフィと四瑞 霊亀(しずい・れいき)の操縦するジェファルコンタイプの新型機、アイオーンだ。
「ポジションセンサー同調、コックピットハッチ開放!」
 ミネシア・スィンセラフィが180度ロールしてアイオーンをアルヴィトルの下部で背面飛行させると、胸部のコックピットハッチを開放した。頭部の下で腕を組み、風よけとする。
「後は頼んだわよ、ココナ」
 同様にコックピットのハッチを開放すると、シフ・リンクスクロウが真下に見えるアイオーンのコックピットを見下ろした。
 さあ、来てと、黒髪を風にはためかせながら四瑞霊亀が両手を広げていた。
 応えるように、シフ・リンクスクロウがシートのベルトを外した。身体が真下へと落下する。イコンの手でカバーされているとはいえ、強い風が全身を打つ。身を捻って上むきになりつつ風に流されそうになったとき、四瑞霊亀の身体が解けた。長くのびた布状の魔鎧が、シフ・リンクスクロウの身体をつつみ込むようにして受けとめる。そのままぐいと収縮して、シフ・リンクスクロウをアイオーンのコックピットへと引き込んだ。
「ハッチ閉めて!」
 シフ・リンクスクロウの声と共に、アイオーンとアルヴィトルのハッチが同時に閉められた。
「ユー・ハブ・コントロール」
「アイ・ハブ・コントロール」
 ミネシア・スィンセラフィからメインコントロールを渡されて、ロングコート型の四瑞霊亀の魔鎧を身に纏い、シートベルトを締めたシフ・リンクスクロウが叫んだ。
「出すわよ!」
 最低速度で飛んでいたアイオーンが背部に装備していた二機のイコンホース製の補助推進装置が唸りをあげた。コバルトブルーのスリムな機体が、一気にアルヴィトルの下から抜け出す。
 素早く機体を立て直すと、すかさず抜き放ったビームアサルトライフルで、落下して動きが鈍いリーフェルハルニッシュを狙撃する。だが、敵に命中する前に、ビームが消滅してしまった。
「外でも、遺跡の影響があるというわけね。ちょうどいいハンデだわ。ミネシア、索敵をお願い」
 空裂刀に武装を持ち替えると、シフ・リンクスクロウはミネシア・スィンセラフィに言った。