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【●】葦原島に巣食うモノ 第一回

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【●】葦原島に巣食うモノ 第一回

リアクション

   十三
 頭上の爆発音に、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は上を見た。すぐ上というわけではなさそうだから、地下三階か。二階ということはあるまい。
 少し時間を置いて、何かの破片が落ちてきた。そのまま、更に下へ通り過ぎ、ぶつかる音が微かに聞こえた。別の橋か、それとも最下層に辿り着いたか。
「カタル君とオウェンさんって今まで一緒に葦原の城下町まで来たみたいだけど、どこから来たんですかー? 折角袖振り合う仲なんですからちょっとお二人のこと聞いてみたかったんですけど、大丈夫です? それにあんまり堅い空気のままこの先進むのも皆辛いでしょ」
 先程からカタルに話しかけているのは、麻篭 由紀也(あさかご・ゆきや)だ。
 彼は言葉通り、二人の関係が知りたかった。仲間と言うには、信頼感も連帯感も感じられない。先程の話で、彼らが「梟」と呼ばれる一族の出身であることは分かった。その場所は? 彼らは一体、どんな生活を送っているのか? そして、封印のこと――。
 しかし、オウェンの射るような視線を感じて、由紀也は首を竦めた。それでも一つだけ。
「その布、何なんだ?」
 それまで黙っていたカタルが、初めて反応を見せた。ちらり、と由紀也を見上げる。しかし左の目を見開き、唇を噛み締め、およそ由紀也の期待した和やかな雰囲気とは違った。
満……足? 溜める? 充足……大きい?」
 オウェンが片眉を上げた。
「違った?」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が尋ねる。
「あたし、一応【博識】持ってるから。こう見えても!」
と、セレンはその美しい肢体を惜しげもなく見せて胸を張った。
 メタリックブルーのトライアングルビキニにロングコートだけという、見ようによっては露出狂と取られなくもないが、カタルの脂汗はそのせいではないようだ。
「大丈夫? 具合悪いの?」
と、セレアナが後ろから優しい声音で尋ねると、セレンが僅かに顔をしかめた。
「大丈夫です……」
 カタルは布の上から右目を抑えた。
「そんなことで、どうする。お前の仕事はこれからなのだぞ。倒れるなら、すべきことをしてからにしろ」
「はい……」
 由紀也はムッとして、今度は小さな声でカタルに言った。
「おっさんが冷たくしてくるのきつかったら俺で良ければ聞いてあげるからさ。カタル君がどう思ってるか知らないけど、あんまり気にすんなよ?」
 カタルはちらりと由紀也を見、「大丈夫です……」と答えた。強がってるな、と由紀也は思った。
 二度目の爆発があったのはその時だ。今度は近い。すぐ上だろう。何かの破片がすぐに落ちてきた。
 そして橋には、忍者たちが現れた。
「作り物なら、遠慮はいりませんわね」
 瀬田 沙耶(せた・さや)が飛び出し、すかさず【ファイアストーム】を放った。一瞬にして、忍者たちが燃え上がる。欄干に飛んだ火が、滑走路の誘導灯のようだ。
「あらあら」
「何やってんだよ、沙耶」
「消しますわよ」
【氷術】で沈下するが、欄干の一部は黒く焦げ、脆くなったようだ。
「いくわよ!」
 セレンがスチェッキン・マシンピストルを抜き、飛び出した。【スプレーショット】で間近の敵に弾をばら撒く。
「今よ!」
 セレンの合図に、セレアナがカタルたちを促す。カタルたちが橋を駆け抜ける。
 カタルたちを忍者たちが襲った。セレンの【シャープシューター】がその額を撃ち抜く。沙耶は【雷術】を叩きつけ、一体ずつ倒していく。
「間に合わない!」
 弾倉を取り換える間もなく、忍者たちが目の前に現れた。セレンは左の銃でクナイを防ぎ、そのまま左足を軸に半回転、右の銃で忍者の首筋を殴りつけた。ふわり、とコートの裾が空気をはらんで翻る。相手が人であればこれで気絶したろうが、相手は傀儡、息切れすらしない。
「しつこい奴らね!」
 不意に、空間が歪んだ。眩暈? 動きすぎ? 考える間もなく、忍者たちが襲ってくる。
「今のは、何?」
 セレアナは違和感を覚え、咄嗟に忍者たちから距離を取った。セレンも沙耶も、変わらずに戦っている。何もおかしいところはない。しかし、
「変だ」
と、由紀也が呟いた。「何か変だ」
 それは【野生の勘】だった。セレアナもそれを聞いて、再び目を凝らした。そして、小さく息を飲んだ。
 セレンと沙耶が、全く目を合わせていない。お互いがどこにいるか、理解していないのだ。
「いけない!」
 理由は分からない。だがこのままでは、互いに相手を攻撃してしまう。
 セレアナは咄嗟に【ライトニングランス】を使った。「幻槍モノケロス」が灯篭を壊し、橋の上が真っ暗になる。
「何!?」
「どうしたんですの!?」
 セレンと沙耶が戸惑いの声を上げた。セレアナは【光術】で小さな明かりを作った。すぐ横に由紀也がいる。セレンと沙耶は、辛うじて人影として認識できる程度だが、忍者の姿はない。最初に仲間が言っていたように、この灯篭が忍者を動かす鍵だったらしい。
 ホッとしたのも束の間、橋の中央にいるセレンと沙耶が、ほぼ同時に、
「そこか!」
「お覚悟を!」
と怒鳴った。――セレアナと由紀也に向けて。
「ちょっと待て、沙耶!」
「セレン! 私が分からないの!?」
 幻術という単語が二人の脳裏に浮かぶ。セレンがスチェッキン・マシンピストルを、沙耶がエンシャントワンドを構えるのが同時だった。
「まずい!!」
 由紀也が右手を上げた。この洞窟内で、うまくいくかは分からない。だが、彼の持つ最も攻撃力のある技は、これだった。
 二人に向けて腕を振り下ろした瞬間、頭上からコウモリの群れが沙耶とセレンに向け突っ込んだ。耳を劈くほどの鳴き声と、【光術】の明かりをかき消すほどの数だった。
 ……それらが通り過ぎ、セレアナが【光術】を強めて見ると、二人は気を失い、傍らの社祠は、物の見事に跡形もなくなっていた。