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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第二話

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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第二話

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undecim  大会準決勝〜決勝・エキシビション
 
 一回戦を危なげなく勝利し、二回戦の対黒六道三戦、三回戦の対ソア・ウェンボリス戦と勝ち進んで、騎沙良詩穂の四回戦の相手は、キリアナだった。

 詩穂にとって、最大の山場だ。
「四回戦第2試合! 騎沙良詩穂対キリアナ・マクシモーヴァ!」
 一方、対大熊丈二、桜庭忍、東朱鷺と、キリアナもここまで順当に勝ち進み、不敵な笑みを浮かべて詩穂達を見ている。
「始め!」
 開始の合図と共に、詩穂は元々の防御力の高さに、更にオートガードとオートバリアで味方の守備力を上げた。
 直後。
「!?ッ」
「何をのんびりやってます?」
 目の前に、キリアナが居る。
 剣先が顔の前にあり、咄嗟に受け止めようとしたが、剣撃は、顔の前に構えた剣ではなく、胴に来た。
 斬るのではなく、押されるような重い一撃に、詩穂は飛ばされる。
「詩穂!」
 セルフィーナの叫びに、詩穂は意識を繋ぎとめた。
「……あら」
 キリアナは、飛翔術を使って上空に逃れた詩穂を見て、軽く苦笑する。
「軽そうやから、落としてしまおうかと思うたんやけど、飛べたんやね」
 あっちのお人も、羽があるようやし、と、セルフィーナを見て。
「そんなら、場外狙いはやめにしましょうか」

「キリアナの武器は、速さ。でも、攻撃もすごい重い」
 戦いの中で、詩穂は、キリアナの特徴を、そう分析する。
 セルフィーナがキリアナに攻撃を仕掛ける。
 だが、キリアナはそれを無視して、詩穂に向かった。
 一人を倒せば勝ちなのだ。二人を相手にするつもりはない、ということだろう。
「行かせません!」
 セルフィーナは、金剛力とウエポンマスタリーを上乗せした、アナイアレーションを叩き込む。
 しかし、三重掛けの攻撃は、キリアナにとっては絶好の隙を与えた。
「っ!?」
 攻撃した先に、キリアナが居ない。
「セルフィーナ、後ろ!」
 詩穂が叫ぶ。
 詩穂に向かうと見せかけて、標的は自分だったのか、それとも臨機応変に反応したのか。
 背後からの一撃に、セルフィーナの意識は飛んだ。

「勝者、キリアナ!」
 審判のトオルが手を上げる。
「審判はん」
「おう?」
「最後の攻撃、少し喰らってしまいました。
 次、決勝戦やけど、治療するまで待ってもろてええやろか」
「策士だなあ。んなことしなくても、連戦になるから10分休憩。
 先に三位決定戦もやるしな」
「そんなんやありまへんよ。流石準決勝、強敵でしたわ」
 キリアナは肩を竦めた。


◇ ◇ ◇


『いよいよの決勝戦は、まさかのエリュシオン人同士!
 龍騎士キリアナと、少年セルウス、ドミトリエ組の対戦!』

 控え室のモニターに、ウォーレン・シュトロンの実況が流れる。
「けっ、どいつもこいつもだらしねえ」
 白津竜造が吐き捨てた。
 その時、ナッシングがゆらりと振り向いた。
 何だ、と竜造が振り向くと、そこに、黒いローブの人物が立っている。
 上空から現れ、ナッシングと名乗った男だ。
「何だ?」
 警戒心をあらわにする竜造に、現れたナッシングは、緩慢に動いて、モニターを見た。
「あの者は、何処へ行く?」
 問われた方のナッシングは首を傾げ、二人は同時に竜造を見る。
「知るか。コンロンだかエリュシオンだか、つーか俺に訊くな」
「コンロン。エリュシオ、ン」
 ナッシングは呟いた。
「ならば、阻止を」



 そうして、決勝でセルウスは、キリアナにこてんぱんにされて負けた。

「流石、筋はええけど、はしゃぎすぎや。無駄な動きが多すぎどす」
 よろめきながら立ち上がろうとするセルウスの前で、一撃も与えられず、キリアナは悠然と立っている。
 その腰には、クトニウスが括りつけられている。
 背中に近い場所なので、前が見えず、文句半分、もごもごセルウスを応援していたのだが、今は黙っていた。
「ま、まだまだっ……」
 セルウスは、弾き飛ばされた剣を睨み見ながら立ち上がろうとしたが、キリアナは苦笑して、足元の剣を拾い上げた。
「往生際が悪いどすなあ」
 苦笑して、キリアナがセルウスの剣を構えた時、後ろの方でドミトリエが、ふ、と嘆息し、舞台を降りた。「ドミトリエ、リングアウト! キリアナの勝利!」
 ぱっと手を上げて、審判のトオルが叫ぶ。
 セルウスは驚いてドミトリエを振り向いたが、そのままへたりと座り込み、トオルに支えられた。



 優勝者、キリアナ。

 キリアナは高々とクトニウスを差し上げて、観客達に手を振る。
「皆さん、おおきに! 楽しかったどす」
「次も頑張れ!」
「山葉校長負けるなー!」
 観客席から歓声が上がる。
 次の対戦は、優勝者対山葉涼司
 涼司は、既に舞台の横で出番を待っていた。


 そうして、キリアナ対涼司の一戦。
 それは、一撃で決着がついた。

 初撃で涼司は、全力の一撃をキリアナにぶつけた。
 それを受け止めたキリアナは後方に滑り、そのまま、リングアウトしてしまったのだ。
「……あら」
 がく、と舞台から足を踏み外して、キリアナは足元を見る。
「落ちてしまいましたわ」
 苦笑して、キリアナは肩を竦め、潔く認める。
「うちの負けですね」
 あっけない幕切れだった。
 涼司も苦笑する。
「次は、お互い何の制限もない状態で戦いたいな」
 本当に本気の全力の一撃だったら、舞台の外、観客席にまで被害が及ぶ。
 涼司は、周囲に被害が及ばない程度には加減していた。
 キリアナが、この状況で避けずに受け止めるだろうということも解っていたし、キリアナの、セルウスとの対戦後すぐ、というのも狙っていた。
 キリアナもまた、全力の状態ではなかった。
 だが、負けは負けだ。
「……ええ。次、が、あれば」
 キリアナは苦笑しながら、涼司と握手を交わす。
 きっと、それは無いのだろう。
 解ってはいたけれど。


 どうぞ、と、キリアナはクトニウスを涼司に渡す。
 うちにはこれがありますし、と冗談めかすキリアナの腰には、骸骨キーホルダーが残されていた。
 代わりの優勝賞品、ということか。
 涼司はそれを、舞台の外へ投げた。
 ぽん、と、観客席にいたセルウスが、それを受け取る。
 意表をつかれた顔をしたセルウスは、涼司の、行け、という合図に、コア・ハーティオンや光臣翔一朗らに伴われて、客席を離れた。
 苦笑しながらそれを見送り、キリアナが涼司に別れを告げる。
「どうも、お騒がせしました。そろそろ行きます」
「ああ」
「楽しかった。おおきに。
 ちょっとこれから慌しくなるので、もう少しだけ、堪忍どす」
 そう言って、最後にもう一度客席に手を振ると、キリアナは身を翻して舞台を降りる。
 何処からか、分裂エニセイが走り寄って来た。
 キリアナは、待っていた叶白竜達と合流しながら、エニセイを伴って走って行く。

「大丈夫かなあ」
 傍らで様子を見ていた審判のトオルが、涼司と共に見送りながら、心配そうに言った。
「それは、どっちが?」
「俺はダチの味方。審判は、大会では神様だけど、終わったらただの人」
 トオルは笑ってそう答える。
「両方ダチだったら、どっちにも味方できないだろ」
「難しいよなー」
 肩を竦めて、涼司は舞台を降りて行く。
 お疲れ様です、と迎える火村加夜に、笑って頷いた。