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星影さやかな夜に 第一回

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星影さやかな夜に 第一回
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 十一章 殺人舞踏

 動かない時計塔周辺。
 観光客がパニックとなり、悲鳴をあげながら逃げ出す中。

「悪いことは、駄目なのーっ!」

 殺人犯の疑いのかかった透乃に、翠の《特戦隊》と《十嬢侍》が突撃する。

「……んー、それじゃあ満足できないかな」

 透乃は向かってくる《特戦隊》と《十嬢侍》を、いとも簡単に一蹴する。
 手数は少ないが、一発一発は必殺技の領域。
 ゆっくりと一人一人を拳で沈めると、だるそうに首を左右に振った。

「もっと本気で殺しにきてよ。
 じゃなきゃ、本気の出し方忘れそうだから」
「……むーっなの!」

 翠は魔法陣を展開し、<我は射す光の閃刃>を発動。
 女神イナンナの戦の力が光の刃となり、透乃に襲い掛かる。

「そうそう。そういうのを待ってたの」

 透乃はあえて何もせず、その攻撃を受けきった。
 《紅の透気》と《不滅の精気》による異常なまでの打たれ強さにより、傷は軽微。

「じゃあ、次は私の番だね!」

 透乃は肉食獣のような笑みを浮かべ、駆けた。
 <金剛力>によって強化された肉体に蹴りだされたコンクリートは、亀裂が走り、破片が飛ぶ。
 目標は翠を庇うかのように立つミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)
 腰に《マシーナリーソード》を差しているところを見て、前衛だと判断したからだ。
 透乃の戦闘スタイルは真っ向勝負。相手の全力を引き出して、なおかつそれを全力で叩き伏せるのを好む。

「……ッハ」

 透乃の顔に笑みが零れる。
 それは、やっと待ちに待った戦闘が行える、という歓喜の笑みだ。

「一発やそこらで駄目になんないでよね!」

 透乃は叫び、ミリアとの距離を詰める。
 しかし、自分の間合いまであと少しといったところで。

「バカ正直にかかってくれてありがとう」

 ミリアは大きな魔法陣を二つ描く。
 黄色と赤。魔力を込めて飛び出たのは《召喚獣:サンダーバード》と《召喚獣:フェニックス》だ。

「駄目になるのはあなたのほうよ!」

 ミリアは二体の召喚獣を透乃に飛翔させた。
 電撃の大鳥と炎の不死鳥。二対の突撃は透乃に直撃し――。

「げほっ、げほっ。なんだ、おまえは召喚師だったんだ」

 さしてダメージは与えられず、ただ後退させただけで終わってしまった。
 ミリアはその光景に驚きながらも、平静を取り戻し、《召喚獣:ウェンディゴ》を召喚。自分と他の仲間を守る盾とする。
 透乃はその大きな雪男を見上げ、呟いた。

「んー、いつ見てもでかいね。私の拳に何発耐えられるかな?」
「……耐えられはさせないわ。あなたは近づけずに、ここで倒す」
「へぇ、言ってくれるね。テンションが上がってきた」

 透乃は拳を合わせてガツンと鳴らし、もう一度翠達に突撃を開始。
 それを止めようと、スノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)ティナ・ファインタック(てぃな・ふぁいんたっく)が同時に魔法陣を展開。

「そうはさせませんねぇ〜」
「というか、あんた。怖いのよ」

 スノゥは<歴戦の魔術>を。ティナは<ワルプルギスの夜>を。
 光り輝く魔法陣から放出された二つの魔法は、渦巻きながら透乃に衝突。黒煙をあげた。が。

「ふー、やっぱり戦いは傷つけ殺しあってこそだね!」

 透乃は倒れない。
 煤けた顔を腕で拭い、傷ついた体から出血を撒き散らし、立っていた。
 四人はその姿を見て、それぞれ魔法陣を展開する。今度は四発の魔法だ。
 しかし、その状況の中で、透乃は笑ってみせ――。

「それじゃあ、行くよ!」

 もう一度、駆け出した。

 ――――――――――

 動かない時計塔の騒ぎは大きくなっていく。
 それは、もう一度殺人が起きたからだ。勿論、起こしたのは潜伏する芽美だ。

「クソッ、これじゃあおちおち情報収集も出来ねぇじゃねぇか!」

 先ほどまで聞き込みを行っていたアルベルト・スタンガ(あるべると・すたんが)は、今は観光客の避難誘導していた。
 その隣でアルベルトと同じく避難誘導をしている梅琳も、今の状況に苦々しげだ。

「他にも仲間がいたのね。しかも、そいつが実は犯人。クソッ、やられたわね」
「とりあえず、今は一般人の避難を優先――」

 アルベルトの言葉は遮られる。それは避難経路の先で爆発が起きたからだ。
 その犯人は陽子による<インビジブルトラップ>。このために、先に避難経路を確認していたのだった。

「クソッ、またかよ! ――って、おい、ちょっと待て。勝手に動くな!」

 アルベルトの静止の声も利かず、一般人達は勝手に動き出す。
 恐らく、その<インビジブルトラップ>による被害により、特別警備部隊に対する信用を失ったのだろう。
 我さきに、と一般人達は逃げ出す。
 今のこの動かない時計塔周辺の状況は、言葉で表すのなら阿鼻叫喚だ。

「どうすりゃいい。このままじゃ、また殺人が!」
「……どうにか犯人を探し当てる術は……」

「――俺に任せてくださいさぁ」

 二人にそう声をかけたのは、珍しく真剣な表情をしたキルラス・ケイ(きるらす・けい)だった。

 ――――――――――

(……簡単ね。これじゃあ張り合いがないわ)

 芽美はそう思いながら、パニックを起こす人に紛れていた。
 それはバレないため。
 特別警備部隊とは戦わないで、一般人を殺すことを重視しているのだ。

(まあ、私は人が殺せれば何でもいいわ)

 芽美はもう一度、<則天去私>の構えをとる。
 そして、手ごろな一般人を殺そうとして――。

「――見つけたさぁ」

 足元に銃弾を撃たれ、行動を中止した。
 芽美は声のした方向を向く。そこに立っていたのは、<光条兵器>のロングレンジスナイパーライフルを構えるキルラスだ。

「殺人犯、ここらでお縄にかかってもらうさぁ!」

 キルラスが芽美を見つけることが出来たのは、音だ。
 <超感覚>で白猫の耳を生やしているキルラスは、今や隣の部屋の針の落ちる音すら聞こえるほどの聴覚を持っているのだ。

「くっ!」

 芽美は<軽身功>を使い、ここから逃げようと近場の建物を駆け上がる、が。

「逃がしはしねぇさぁ」

 キルラスは<奈落の鉄鎖>を発動。
 重力に干渉し、芽美を地面に落とす。
 勢い良く墜落した芽美は、何度も咳き込み、涙目でキルラスを見て、

「……覚えておきなさい」

 <煙幕ファンデーション>を使って、煙幕を作り出した。
 瞬く間に煙に包まれ、次に風に流されたときには、そこに芽美はいなかった。

「取り逃がしちまったかぁ」

 キルラスはそう言うと、ライフルを元に戻す。
 そのやけに余裕な様子を見て、アルベルトは慌てて声をかけた。

「お、おいッ! 大丈夫なのかよ、これじゃあまた殺人が……!」
「大丈夫さぁ」

 キルラスは真剣な目で芽美がいたところを見て、続ける。

「この近くにいる限り、何度だって見つけてやるさぁ」

 ――――――――――

「なーんか、騒ぎが大きくなってきたわね」

 袋小路で戦っているルベルは、悲鳴や戦いの音を聞き、そう呟いた。
 彼女の目の前では今まで戦っていた特別警備部隊の面々が、荒い息を吐き、身体を傷だらけにしていた。

「あっちはどうなってんだろう?」

 そんな時、袋小路に一人の契約者がやって来た。それは夜月鴉だ。

「ルベル」
「鴉、どうしたの?」

 鴉は手短に起こったことを説明する。
 それを聞いたルベルは、「そんなことがあったんだ……」と呟いた。

「じゃあ、撤退しましょうか。
 これだけ騒ぎが起きれば、あのリュカって子もこっちには来ないでしょ」
「ああ、分かった。
 他の連中には俺が伝えておこう」
「よろしく。で、後は」

 ルベルは疲弊している契約者達を見る。
 角刈りの男は戦闘中に解放し、既に先に逃げさせた。

「楽しかったわよ。アンタ達。
 もし、まだこの事件に関わるつもりだったら、またアタシの相手をしてよね」

 ルベルがそう言い終えると、鴉は<ファイアーストーム>を発動。
 赤の魔法陣から生み出された炎の嵐は、契約者達との間に壁をつくった。
 炎が消えて壁がなくなるときには――。
 ルベルと鴉はその場所から消えていた。