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海に潜むは亡国の艦 ~大界征くは幻の艦~(第1回/全3回)

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海に潜むは亡国の艦 ~大界征くは幻の艦~(第1回/全3回)
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イルミンスール魔法学校

 
 
「傭兵の募集? さっき先生たちが騒いでいた不審船と関係でもあるのかしら?」
 イルミンスール魔法学校の掲示板の前でソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が小首をかしげた。
 なんだか、校内が先ほどから結構あわただしい。どうやら、エリュシオン帝国の戦艦が領空侵犯してイルミンスールの森を横切っていったらしいのだ。
「まったく、大胆というか、なめられたもんだぜ」
 雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)がちょっと顔を顰めて言った。
「こいつは、徹底的に調べ上げて、締めねえとな、御主人」
「そうですねえ、それにしても、いったい、どこを通ってやってきたんでしょうか」
 ちょうどそこにいた緋桜 ケイ(ひおう・けい)悠久ノ カナタ(とわの・かなた)も、なんだか腑に落ちない顔をしている。
「これって、どう見ても、この不審船が、こっちの傭兵募集で目標としている敵艦だよなあ」
「そんなこと、張り紙を見れば一目瞭然ではないか」
 なんだか考え込む緋桜ケイに、確認するまでもないと悠久ノカナタが言った。
「つまりは、エリュシオン帝国の反逆者が、ニルヴァーナへ逃げるために、勝手にイルミンスールの森を侵犯して、現在、アトラスの傷跡にむかっているということだな」
「そうだったんですかあ」
 悠久ノカナタのまとめを聞いて、ソア・ウェンボリスがすっきりしたとばかりに二人に近づいてきた。
「でも、それって、少しおかしくないか。確かに、帝国に喧嘩売った奴が亡命するなら、開発途中のニルヴァーナは最適かもしれないけど、なんでよりによって月ゲートなんだ」
「そちらの方が、警備が甘いと考えたのでしょうか」
 緋桜ケイの疑問に、ソア・ウェンボリスが理由を考えてみた。
「いや、ニルヴァーナに行くだけなら、ゴアドー島の方が楽だって思ってさあ」
「確かに。ゴアドー島のゲートを使ってヴィムクティ回廊を通った方が、その不審船ごと通れるというものではあるがな」
「そうなんだよ。月のゲートじゃ、イコンが通れるかどうかぐらいだろう。わざわざ戦艦で行く必要はないじゃないか」
 緋桜ケイの言う通り、月のゲートは艦が通れるほどの大きさはない。
「というか、月に行くのには艦じゃねえといけないけどな。もしかしたら、帝国の艦なら、アルカンシェルみたいに月まで行けるのかもしれねえぞ」
 雪国ベアが、なんとか理由をこじつけてみた。月へのシャトルという意味でなら、大型飛空艇で行く理由はあるのかもしれない。そのまま月基地を制圧できるのであれば、ゲートの片方の入り口は確保できることになる。もっとも、その出口はニルヴァーナ創世学園なので、あまり意味はないように思えるのだが。
「もしかして、その人たちは、ニルヴァーナ創世学園を襲うつもりなんじゃあ……」
「それほど凄い敵だとは思えんがな。実際、イルミンスールの森で発見された不審船は一隻なのであろう?」
 悠久ノカナタが、ソア・ウェンボリスの考えを否定した。
 帝国で反乱を起こして失敗し、命からがらシャンバラに逃げてきたのであれば、そんなに大規模ではないはずである。
「じゃあ、援軍がたくさん隠れているとか」
「その可能性は、まったくないとは言えぬが……」
 どうなのだろうかと、悠久ノカナタが緋桜ケイの方を見た。
「むしろ、囮とかじゃないのかなあ、本命はゴアドー島の方だったりしてな。そっちの方がしっくりくるんだが」
 思い切り、不審船の行動を疑って、緋桜ケイが言った。だいたいにして、本気でニルヴァーナへ行きたいのであれば、こんな目立つ行動は起こさないで、ひっそりとゴアドー島から行けばいいのだ。それこそ、誰も気づかないかもしれない。
 それと同時に、イルミンスールの森についても、迂回するなり高空を通りすぎるなりすれば、こうも簡単には発見されなかっただろう。あまりにも、見つけてくださいといっているようにしか見えない。どう考えても、囮ではないのだろうか。
 だが、囮だとして、そんなことをして、なんのメリットがあるのだろうか。確かに、シャンバラにあるかなりの数の大型飛空艇が、迎撃にむかうようではあるが。もしかして、その間に、ゴアドー島のゲートを別の艦隊などで襲うつもりなのだろうか。
「不審船の方は、いろんな奴がむかっているみたいだから、俺たちが行く必要はないんじゃないかな。むしろ、手薄なゴアドー島の方を調べた方がいいと思う。ほら、以前彷徨う島のときに、オプシディアンとデクステラたちに出し抜かれたじゃないか」
「そうですね、だったら、私たちは、不審船の足取りを逆に辿ってみます。もし、援軍とか、ゴアドー島に別の艦がむかっていたとしたら、何か手がかりがつかめるかもしれません」
 緋桜ケイとソア・ウェンボリスが、顔を見合わせてうなずきあった。
「それでは、わらわはエンライトメントの準備をするとしよう」
「こっちも、白熊号の出番だな」
 悠久ノカナタと雪国ベアは、イコンとトラックを用意しに先にその場を離れていった。
「私たちは、でかける前に、不審船を調べている人たちから話を聞いてみましょう。何か、手がかりがあるかもしれません」
「そうだな、報告は入っているだろうから、職員室へ行ってみよう」
 そう言うと、ソア・ウェンボリスと緋桜ケイは、職員室へとむかった。
 その予想通りに、不審船を調べに行った者たちから逐一連絡が入ってくる。
「イルミンスールからの敵の動きが、これでなんとなく分かりそうだな」
 少し時間をかけて情報を纏めた緋桜ケイが言った。
「ええ、ルートを逆算すれば、進入路も割り出せそうですね。もし、敵が逃げおおせたら、そちらへむかうでしょうし」
 ソア・ウェンボリスが、ルートの延長線がパラミタ内海にぶつかるのを確認して言った。
「じゃあ、報告は後で」
 そう確認しあうと、緋桜ケイとソア・ウェンボリスは、パートナーたちの許へとむかった。