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空を渡るは目覚めし艦 ~大界征くは幻の艦(第3回/全3回)

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空を渡るは目覚めし艦 ~大界征くは幻の艦(第3回/全3回)

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雲海

 
 
「敵の目的は、絶対にもって、ずばり、我が養殖し、ニルヴァーナへと輸出しようとしている養殖アワビなのである!」
 自信満々で、マネキ・ング(まねき・んぐ)が、セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)粘土板原本 ルルイエ異本(ねんどばんげんぼん・るるいえいほん)を前にして言った。
 ここは、生体要塞ル・リエーの中である。アワビの神と自称する旧神が、べっとりねっとりと機動要塞に貼りついて寄生した実にナマモノな外観をしている。
「いいか、考えてもみるのだ、我が養殖したアワビの量を。これで、パラミタの民は10年は生アワビが食える。我が養殖したアワビがなければ、ニルヴァーナの民も生のアワビを食うことができないのである。これは、人生の98.376%を損していると言えよう」
「なんだよ、その中途半端な数字は……。まったく、ルルイエからも何か言って……」
 マネキ・ングの無茶苦茶な主張に溜め息をつきながら、セリス・ファーランドが粘土板原本ルルイエ異本に同意を求めた。
「かわいそうな……アワビたち……。成仏……する……」
 仏壇に収めたアワビの写真に線香をあげながら、粘土板原本ルルイエ異本が両手を合わせて祈っていた。祈る先が旧神でなくていいのかという疑問は残るが、今はそれどころではない。
「さあ、そこで、次に奴らが狙ってくる物は何であるのか! 我らが、月基地からのニルヴァーナ蒼空学園への直接入庫、及び宇宙空間での完璧な冷凍冬眠技術によるアワビの生きたままの輸送。この道を断たれた今、唯一残されたものはゴアドー島からの輸出のみ。そのため、ゲートを襲い、そこにアワビセンサーなる邪悪な物を取りつけて、我らのニルヴァーナへの輸出を妨害してくるに違いない!」
 またもや自信満々だ。
「ねえよ、そんなの。だいたい、壮大な計画なのか、せこい計画なのか、ちっとも分かんねえじゃないか」
 もう突っ込むのも疲れたので、セリス・ファーランドが直球で文句を言う。
「いいから、とにかくゴアドー島近くの雲海に、この生体要塞ル・リエーを隠すのだ。我らは、ここで敵を待ち伏せする」
「いや、別にゴアドー島のそばにいれば、威嚇にもなるし、その方が効果が高いんじゃ……」
「何を言うのか、ここはな、悪の組織御用達の、最適の隠れ場所なのだ。雲海に隠れるというのであればこことまで言われているのだぞ。さあ、早く雲海に隠れるのである!」
 セリス・ファーランドを説き伏せると、マネキ・ングは生体要塞ル・リエーを雲海に沈めていった。
「えっ……? 雲海の……中に……何かいる……」
 遠めがねで要塞の外を見ていた粘土板原本ルルイエ異本が、マネキ・ングたちに言った。長距離センサーには何も引っ掛からないが、戯れにピッカリする粘土板原本ルルイエ異本の神の目には、何かが見えたらしい。
「識別信号が受信されているが、レーダーには何もうっっていないな。ええっと、ICN0004904だから、アストロラーベ号か」
 シャンバラの艦船であればすべてが持っているはずの識別番号を確認して、セリス・ファーランドが言った。それにしては、レーダーに反応がないのがちょっとおかしい。また故障でもしたのだろうか。まあ、生体要塞ル・リエーだからなあと、セリス・ファーランドがスルーしようとした。
「よし、攻撃だ!」
「ちょっ、なんで!?」
 いきなりのマネキ・ングの決断に、セリス・ファーランドがあわてて聞き返した。
「アストロラーベ号であれば、海軍を名乗る拿捕船。きっと、この生体要塞ル・リエーを臨検に来て、難癖をつけて倉庫のアワビをネコババするつもりに違いない!」
 自信を持って、マネキ・ングが言い切った。
「これこそが、待ち伏せでなくてなんであろうか!」
「まあ、実際そうみたいだし、とりあえず殺っちまうか!」
 なんとなくマネキ・ングに乗せられる形になって、セリス・ファーランドが生体要塞ル・リエーの全砲門をアストロラーベ号の信号が出ていると思われる空域にむけた。
「緑色燐光……触手……全武装……解放……」
 粘土板原本ルルイエ異本が、要塞のすべてのセイフティーロックを解除した。
「今こそ、アワビの恨みを思い知らせてくれる。我の生体要塞ル・リエーの裁きによって! 撃てっ!!」
 マネキ・ングの号令一下、予告もなしの一斉攻撃が始まった。
 何もないはずの空間で爆発が起こる。直後に空間が歪み、Y字状の三本の艦艇用カタパルトを有した巨大な円盤状の機動要塞ナグルファルが現れた。
「なぜ、ここに隠れていることが分かったのだ。先ほどの通信で、そろそろ、ゲートから我らの物となるヴィマーナの大艦隊が姿を現す時間だというのに……。ええい、構わん、あの不気味な要塞から沈めてしまえ!」
 ナグルファルの司令が命じて、要塞から三隻のスキッドブラッドタイプの空母が発進した。スキッドブラッドと比べると、やや小型ではある。さらに、それら空母から、次々にアーテル・フィーニクスとアートゥラ・フィーニクスが飛び立ってくる。
「これは、御家庭に届くはずだったすべてのアワビの分の恨みだ!!」
 状況にはお構いなく、マネキ・ングが生体要塞ル・リエーのツァールの長き触腕で敵空母をバシバシ叩いた。当然のように、容赦なく敵イコンからもレーザーが浴びせかけられる。
「数が多すぎる。それに、どう見たって、こいつは最初に襲ってきた敵と同類じゃないか。いったん、ゴアドー島のゲートまで下がって、援軍のオリュンポスパレスを待つぞ!」
 そう言うと、セリス・ファーランドが生体要塞ル・リエーをゴアドー島にむけてすたこらさっさと移動させ始めた。
「くそう、せっかくの奇襲が台無しだ。それにしても、この場所がなぜばれたのだ。仕方ない。時間の問題がある。このまま、ゴアドー島への攻撃を開始せよ!」
 ナグルファルの指令が、部下たちに命じた。